2-2号 (2018年1月)

1.アルコール健康障害対策基本法から新たなるアルコール医療の展開を!

堀井茂男
(公益財団法人慈圭会慈圭病院)

2010 年 WHO「アルコール消費量低減政策」の呼びかけに呼応して、2013 年 12 月、国会議員全党一致で議案が採択され成立した「アルコール健康障害対策基本法」(以下、アル法)は、2014 年 6 月 1 日より施行され、同法に基づき「アルコール健康障害対策推進会議」が開催され、「アルコール健康障害対策関係者会議」で論議、策定された「アルコール健康障害対策推進基本 計画」が 2016 年 5 月に閣議決定され、現在、各都道府県に推進基本計画が伝達され、各地区でその具体的施行がなされつつある。アル法関連の平成 30 年度予算は、6.3 億円の予算(29 年 5.4 億円、予算案概要)となり、さらなる具体的展開が期待されている。アル法については、本誌の猪野亜朗先生の論を参照されたいが、本推進計画を策定中の都道府県の読者には、この計画作りやその実施に協力・支援をお願いしたい。

アルコール医療に関わるものとして、世界の動向として注目するべきもうひとつの動きがある。2015 年 9 月、「ニューヨーク国連サミット」で採択された SDGs(持続可能な開発目標、 Sustainable Development Goals、エス・ディー・ジーズ)である。「誰一人取り残さない-No one will be left behind」を理念として、国際社会が 2030 年までに貧困を撲滅し、持続可能な社会を実現するための重要な指針として、ゴール 1 の「貧困をなくそう」からゴール 17 までの経済・社会・環境にまたがり相互に不可分に繋がる目標が設定されている。ゴール 3「すべての人に健康と福祉を」の国内に向けた処方箋として、①健康長寿社会(健康寿命の延長)、②こころの健康の維持と薬物乱用の防止・治療の強化、③感染防止、④介護・福祉サービスがあり、 ②の具体的項目として、自殺率の減少、過労死数の削減、アルコールの有害な摂取や薬物乱用の防止・治療の強化の 3 つが掲 げられている。

SDGs 達成のためには、一人ひとりに焦点を当てることが必要であり、これを、貧しい国、中所得国、豊かな国のあらゆる国々で取り組むことが必要であり、民間企業や市民社会の役割が益々高まり、あらゆるステークホルダーが連携すること(グローバル・パートナーシップ)も求められている。

アルコール健康障害対策基本法は世界的にも大きな意味のある法律であり(少なくとも私はそう考えている)、この法律をこれから実行していく私達は、この国際的視点を忘れることなく、世界を変革する動きの一つに加わっていけるのではないか、と考えるのは私だけではないように思う。

平成 30 年度の本学会は、日本アルコール関連問題学会と ISBRA(国際アルコール医学生物学会)も併催される。新しい未来を目指すアルコール医療の模索とともに international な視点も忘れずに大会を成功させたいと願っている。

2. 第52回日本アルコール・アディクション医学会

第 52 回日本アルコール・アディクション医学会
会長 岡村智教
(慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学)

第 52 回日本アルコール・アディクション医学会学術総会は、 平成 29 年 9 月 8 日、9 日、パシフィコ横浜にて第 39 回日本アルコール関連問題学会(会長:樋口 進 久里浜医療センター院長)との共催として開催しました。今年度の学術総会のテーマは「ポピュレーションリスクとしてのアルコール健康障害と依存症」とさせていただきました。これはアルコールや喫煙、その他の現代社会特有の様々な依存症が与える健康障害について、日本人全体に与える影響という視点から俯瞰して、それぞれの対策を包括的に考えようということを意図しており、このテーマに沿って全体のプログラムを編成しました。

一例を上げると、シンポジウム1ではアルコール代謝とゲノム多型という法医学のテーマにドーピングの問題も絡めた議論を行い、日本アンチドーピング機構の赤間高雄副理事長(早稲田大学教授)にもご登壇いただきました。またシンポジウム8では喫煙、飲酒だけでなく、肥満や塩分過剰摂取も広義のアディクションと捉えて、行動科学の視点から課題解決を試みる方策について上島弘嗣先生(滋賀医科大学名誉教授)の司会の下、活発な議論が行われました。これ以外のシンポジウムのテーマも、「精神保健福祉センターにおけるアディクション支援の展開」、「飲酒関連外因死」、「アルコール性肝障害研究の最先端」、「多様化が進む依存症回復支援施設の現状と課題」、「アルコールと病態生理」、「脳内報酬系の包括的分子解析」、「飲酒と健康のトピックスと疫学的根拠」、「物質使用障害の新たな治療・支援の展開」、「アルコール依存症患者を支えるコメディカルの役割」など多岐にわたり、どのような専門分野の人が来ても興味深いテーマが見つかるように設定しました。またシンポジウム 12「ストレスチェック時代の職場におけるアルコール問題対策」は、日本医師会認定産業医研修会対象プログラムとして実施しました。

教育講演も研究分野のバランスを心がけましたが、今回は私のこだわりで、内科系の主要臓器に関する講演、すなわち①過 剰飲酒に伴う消化器疾患(教育講演1)、②アルコール喘息(教育講演4)、飲酒・喫煙と循環器疾患について(教育講演8)を三つ入れさせていただきました。またランチョンセミナーでは日本不整脈心電学会の前理事長である奥村 謙先生(済世会熊本病院最高技術顧問、前弘前大学循環器内科教授)をお招きして、当学会で初めて飲酒と不整脈(心房細動)についてご講演いただきました。

また一般演題も 100 題を超えました。今回は筆頭演者のアルコール・アディクション医学会の会員要件を外し、共著者に会員がいれば発表できるようにしました。また私が年会長を引き受けたのを契機に疫学・公衆衛生系の教授クラスの方 5 人に新たに入会していただきました。そのため疫学・公衆衛生関係の一般演題が非常に多くなったのが特徴です。一般演題は口演、ポスター会場ともほぼ満員で若い人の熱気につつまれていました。年会長の責任で一般演題から選出する優秀演題賞は、「国際標準質問票を用いた全国中学校教員における喫煙の影響認知に関連する要因の解明」(石田修平先生、島根大学)、「ウェブ版薬物使用障害再発予防プログラム「e-SMARPP」の効果検証:多施設共同無作為化比較試験」(髙野 歩先生、東京大学)、「エタノールによる心筋細胞死は YAP 活性化により抑制される」(則竹 香菜子先生、東京医科歯科大学)の 3 題とさせていただきました。

会期中に 1000 人を超える方に参加していただき、何とか無事に学術総会を終わらせることができました。この場を借りて組織委員、プログラム委員の先生方、サポートをいただいた協賛企業の皆様、その他本会を支えていただいた関係諸機関の皆様に篤く御礼申し上げます。

3. 2018 年度学術総会のご案内

第 53 回日本アルコール・アディクション医学会
会長 竹井謙之
(三重大学大学院 医学系研究科消化器内科学)

第 53 回日本アルコール・アディクション医学会学術総会は、 2018 年 9 月 9 日(日)から 11 日(火)の 3 日間にわたり国立京都国際会館で開催させていただくことになりました。本学会は 2016 年 4 月に日本アルコール・薬物医学会と日本依存神経精神科学会が統合して発足しました。そこで学術総会は統合後 3 回目となりますが、最も歴史の古い日本アルコール・薬物医学会の開催番号を継承し第 53 回総会としています。学術総会はアルコールや喫煙、薬物対策について最新の研究成果を多彩な視点から討論し、アカデミアと社会に広く情報発信する役割を担 っております。今回は第 40 回日本アルコール関連問題学会、そ して ISBRA (International Society for Biomedical Research on Alcoholism) 2018 との共同開催です。このような歴史と伝統のある本学術総会を担当させていただくことを光栄に存じます。

アルコールや薬物依存をめぐる生命医科学は、時代の最新技術と概念を取り込んで自らの発展を促したのみならず、新しいパラダイムの萌芽を育み、広く医学生物学を涵養する「最先端研究室」の役割を果たしてきました。アルコール性肝障害から多くを学び、その研究成果を継承・発展させた NASH の病態解明などは最たる例でしょう。一方、中枢・神経系を含む諸器官・多臓器にわたる「臓器間ネットワーク」という視点からアルコールや薬剤の影響を考察しようとする新しい展開も注目されます。このような新しい時代の息吹と学際領域拡大の胎動を感じ、さらに国際学会 ISBRA との合同開催の機を得て、本学術総会のテーマを「依存症研究―生命医科学への展開」とさせていただきました。

本学術集会では、学会員の多様なニーズに応えることができるよう、多彩な領域から特別講演、教育講演、最新のテーマを扱うシンポジウム等の企画を考えております。本学会ならではの最新知見の発表と真摯な討論ができればと思います。第 53 回学術総会が充実したものになるよう、先生方のご支援とご指導をお願い申し上げます。多数の演題応募とご参加をお待ちしております。


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4. ISBRA2018 について

第 19 回 ISBRA 世界大会
大会長 樋口 進
(独立行政法人久里浜医療センター)

第 19 回 ISBRA 世 界大会 ( International Society for Biomedical Research on Alcoholism World Congress)が下記の日程と場所で開催されます。ご存知の通り、日本アルコール・ アディクション医学会は ISBRA の関連学会です。是非、多くの先生方にシンポジウムの企画・発表、ポスター発表をお願いしたいと存じます。すでに、ISBRA2018 のホームページは開いており(http://www.congre.co.jp/isbra2018/)、シンポジウム企画やポスター抄録を受け付けています(いずれも HP の”Abstract”をクリックしてください)。シンポジウムの枠数はかなり余裕をもって用意しているので、多くのシンポジウム企画をお願いしたいと存じます。シンポジウム企画やポスター抄録は、現在のところ、2018 年 4 月 12 日まで受け付ける予定です。

  1. 日時: 2018 年 9 月 9 日~13 日
  2. 場所: 京都国際会館
  3. 同時開催: この 2 学会は、9 月 8 日より開催 ・日本アルコール・アディクション医学会(会長: 竹井謙之先 生) ・日本アルコール関連問題学会(会長: 辻本士郎先生)
  4. 教育講演演者
    • Dr. Vladimir Poznyak (WHO, Switzerland)
    • Dr. Vijay Ramchandani (NIAAA, USA)
    • Prof. Jürgen Rehm (Center for Addiction and Mental Health, Canada)
    • Prof. Yoshiyuki Takei (Mie University, Japan)
    • Prof. Reinout Wiers (University of Amsterdam, Belgium)
  5. プログラムの特徴 以下のシンポジウムおよびワークショップが ISBRA のプログラ ムに組み入れられています。
    • The 13th International Symposium on ALPD and Cirrhosis
    • Young investigators を対象とした ISBRA-WHO Joint Workshop
  6. サテライト会議 ・胎児性アルコールスペクトラム障害(FASD)に対する研修会を、ISBRA の会議後に東京または横浜で開催予定です。 ISBRA への参加をお待ちしています。

5. 2017 年度評議員会・総会議事録

総務委員会委員長 藤宮龍也
(山口大学大学院 医学系研究科法医学講座)

平成 29 年度 日本アルコール・アディクション医学会 評議員会・総会が 2017(平成 29)年 9 月 8 日にパシフィコ横浜会議センターにて開催されました。議事録の内容を以下にお示しいたします。

日 時 :
2017 年 9 月 8 日(金)11:00~11:30
会 場 :
パシフィコ横浜 会議センター 第 6 会場(503 号室)

岡村年会長より、開会宣言がされた。会則により議長は会長が務める。

1.年会長挨拶(岡村年会長)

岡村年会長が、公衆衛生学を中心に各分野まんべんなくシンポジウム等を企画したので、いずれの専門の先生も楽しんでもら いたいと挨拶した。

2.会務報告(藤宮総務委員長)

藤宮総務委員長が、会員数(合計 927 名)や会議予定等を報告した。

3.2016 年度決算報告・監査報告 2017 年度予算案(藤宮総務委員長 廣中財務担当理事)

廣中理事が、すでに理事会にて承認済みの 2016 年度決算について報告した。堀井監事と山本監事からの監査報告書についても報告し、一同意義なくこれを承認した。2017 年度予算案についても、同様に理事会承認済みとしながら説明した。一同検討し、異議なく承認した。

4.賞選考委員会より柳田賞、各種奨励賞について(宮田賞選考委員長)

宮田賞選考委員長が、柳田賞について選考経過と受賞者候補を報告した。

柳田知司賞

松本 俊彦
(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部)

優秀論文賞

三好美浩
(岐阜大学医学部看護学科)
新井清美
(首都大学東京健康福祉学部看護学科)
鈴木秀人
(東京都監察医務院)
土谷博之
(鳥取大学大学院医学系研究科機能再生医科学専攻遺伝子医療学部門)

いずれも授賞式は懇親会にて開催された。

5.法人化にあたっての要承認・審議事項(藤宮総務委員長)

藤宮総務委員長が、前回の評議員会・総会で承認を得た法人化について、2018 年 8 月の登記を予定しているとして法人化のメリット・デメリットの紹介、学会の会議の変更などを説明した。 一同意義なくこれを承認した。

また、準備日程の確認およびそれに至るための了承事項を説明し、承認が得られた。

  • ①統合委員会として理事になった役員の任期は、2018 年 3 月 31 日までであるが、法人登記の前日 2018 年 7 月 31 日まで継続とすること。
  • ②残り半分の「選挙で選ばれて役員になった理事・監事」については、任期は 4 年の予定であったが、任意団体としての学会は 2018 年 7 月 31 日で解散となるため、いったんこのときに任期を終了すること。

また「法人化後の役員を決める選挙」については、現在の選挙方法を可能な限り踏襲し、2018 年の 5~6 月に実施予定であると説明した。

6.新評議員の件(藤宮総務委員長)

藤宮総務委員長が、総務委員会および理事会承認済みの 2 名の新評議員リストを報告した。

被推薦者名(勤務先):

小嶋 清一郎
(東海大学医学部附属八王子病院 消化器内科)
谷渕 由布子
(同和会千葉病院)

一同検討の結果、承認した。

7.各委員会からの報告(各委員長)

各委員会より以下の報告があった。

  • ①編集委員会(白石委員長)
    齋藤理事長が、大熊編集委員長から編集委員長辞意の希望が出されたため、新委員長を副委員長であった白石理事にお願いし、昨日の理事会で承認されたことを報告した。
    投稿数の件:昨年は年間で 26 編の投稿であったが、今年は現時点ですでに 21 編の投稿があった。あと 5 編で昨年と同数になるのでふるって投稿をお願いしたい。投稿された内容としては、精神科関係が最多で、内科 3 編、薬理・法医学各 1 編。今後は オンライン化の方向で検討していく。
  • ②広報委員会(池田委員長) HP の随時の更新と、NL の年間 2 号の発刊を実施している。
  • ③国際委員会(高田委員長)
    バリでの AsCNP(Asian College of Neuropsychopharmacology)2017 にて、スポンサードシンポジウム実施した。来年の ISBRA に向けて準備を始めたい。
  • ④倫理・COI 委員会(白石委員長)
    現在年会での発表に COI 開示スライドの掲示は行われていないが、今後用意していく。
  • ⑤専門医委員会(齋藤理事長)
    専門医機構の二階建ての件が進められ次第、検討を進めていきたい。
  • ⑥医療保険委員会(齋藤理事長)
    内保連に加盟し「重度薬物依存症入院医療管理加算」「アルコール関連疾患患者節酒指導料」の 2 点の診療報酬加算提案について提案を行った。

8.次期年会長挨拶(竹井次期会長)

第 53 回年会長の竹井理事より、日程・会場等について以下の報告がなされた。

会期:
2018 年 9 月 8 日(土)~11 日(火)
会場:
国立京都国際会館
共催:
第 40 回アルコール関連問題学会(辻本士郎会長)

ISBRA2018(樋口 進会長)9 日(日)~13 日(木)コンパクトな学会運営を心掛けたいとの発言があった。

9.次々期年会について

齋藤理事長が、現状未定であるが、アルコール関連問題学会と合同開催とするかも含めて検討し、後日理事会に審議を依頼す ると提案し、一同承認した。

以上

6.法人化について

総務委員会委員長 藤宮龍也
(山口大学大学院医学系研究科 法医学講座)

平成 30 年 8 月 1 日に、日本アルコール・アディクション医学会(JMSAAS)は一般社団法人となることが理事会(H29,7/16)で決定され、評議員会・総会(9/8)で承認されました。法人化 WG(鈴 木勉理事)・総務委員会が担当し、なるべく現状の慣行・手続きを尊重し、円滑な移行を行うこととなりました。

このために、平成 28 年の理事会(10/6)で法人化 WG が立ち上がり、平成 29 年の総務委員会(6/17)で鈴木理事を中心に法人化への準備が検討されました。その後、法人化への手続きが随時進行してきました。今までの検討事項は以下のようです。

1)法人化のメリットとしては、

  • 登記され法的に認められた団体となるため、社会的な信頼度
  • 認知度が高まる・国や公的機関へ意見書等を出しやすい
  • 寄付が、任意団体のときよりも多少受けやすい

等があげられます。多くの学会が法人化している現状から、当学会も法人化を行うこととなりました。

2)当面の準備として検討・決定された事項は以下のようです。

  • JMSAAS で決まった今までの慣行・規約をなるべく尊重し、定款を作成(既に案は評議員会・総会で公表)
  • 現評議員を代議員という名称に変更し、議決はそのまま残す
  • 社員総会(代議員会)についての法人法上の制約により、会期を 8 月始まりとする
  • 登記時役員(理事・監事)としては、現役員をそのまま登記する
  • 設立時社員は、鈴木理事と廣中理事にする
  • 主たる事務所所在地の法務局で設立登記(京都)
  • 領域別の選出方法・新理事長の選出方法等は当面 JMSAAS の現行に従う
  • 法人化後の細則は法人化が軌道に乗る過程で検討する
  • 契約関係の整備(税理士や事務局員等)
  • 財政状況の確認、会計体制の整備
  • 役員交代時期の検討(9/8 評議員会了承済み)

などがあります。これらについて、随時、検討中です。特に、財政状況につきましては、法人化により大きく変わります。年会の運営も対応していく必要があります。

3)当面の移行手続きとして、今回の評議員会・総会で下記が承認されました。

  • ①統合委員会として理事になった役員の任期は、2018 年 3 月 31 日までであるが、法人登記の前日 2018 年 7 月 31 日まで継続とする(移行理事会)。
  • ②残り半分の「選挙で選ばれて役員になった理事・監事」については、任期は4年の予定であったが、任意団体としての学会は 2018 年 7 月 31 日で解散となるため、このときに任期を終了する。
  • ③「法人化後の役員を決める選挙」については、現在の選挙方法を可能な限り踏襲し、2018 年の 5~6 月に実施予定とする。

その後、移行理事会にて「新理事会の理事候補者」が決定され、8 月に登記して法人となり、9 月の年会時に社員総会(代議員会)が開催され、新理事会が発足する予定です。

法人化により学会の社会的ステータスの向上が期待されます。準備にあたり、費用・労力の注入が必要となりますので、円滑な移行を目指しています。時代状況を反映して当学会も各種の問題点を抱えていますが、今後は法人化のメリットを生かして学会がますます活発化することを祈念します。細かな点で、整備不足や細かな不都合が生じる可能性がありますが、会員の皆様にはご協力とご了承をお願い致します。


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7. 柳田知司賞を受賞して

松本俊彦
(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 薬物依存研究部)

このたびは、薬物依存研究の世界的権威である柳田知司先生の名前を冠した、栄えある賞をいただき、身に余る光栄と感じております。受賞にあたっては、本学会理事長 齋藤利和先生と選考委員の諸先生方、ならびに、本賞候補者として私を推薦してくださった、東京医学総合研究所精神行動医学研究分野分野長 池田和隆先生には、心から感謝申し上げます。

実は、正直なところ、いまだに今回の受賞に戸惑う気持ちがあります。というのも、従来、この賞は生物学的分野の研究者に与えられてきた賞であり、私のような心理社会的分野の者は対象となっていないと思い込んでいたからです。

思い返せば 20 年前、私はひょんなきっかけからこの薬物依存の領域に迷い込みました。それは、医者になってまだ 5 年目の頃、大学医局で繰り広げられた、依存症専門病院への医局員派遣をめぐる、美しくない譲り合いの末の不本意な赴任でした。

ですから赴任当初、私は、薬物依存症患者をどう治療すればよいのか皆目わからず、毎日、内心半泣きで診療にあたっていました。恥ずかしながら、当時の私にできたことといえば、患者に、薬物の心身に対する害について懇々説教することだけでした。要するに私は、患者に薬物の害に関する情報を大げさに伝えてビビらせれば、薬物なんてやめるはずだと考えていたわけです。だからこそ、認知症患者の脳 MRI 画像を示して、「長年、覚醒剤を使ってきた人の脳だ」などと患者に説明するような、詐欺同然の荒技まで使ったりしていたのでしょう。

しかし、そんな脅しめいた説教で薬物をやめる患者などいませんでした。それどころか、多くはすぐに通院治療を中断していきました。そしてあるとき私は、ある患者から手厳しい洗礼を受けることになったのです。診察室のなかで不機嫌に腕組みをする、覚醒剤依存症の中年男性が、私の話を遮ってこう凄んだのです。

「害の話はもう聞きたくねえよ。あんたが知っているシャブの害なんて、全部、本で読んだだけの知識じゃねえか。俺なんか 10 年以上、自分の身体を使って『臨床実習』してんだよ。知識で俺にかなうはずがない。だが、俺は自分よりも知識のねえ医者のもとにこうして来ている。なぜだかわかるか?」

彼は、「ああん?」といった表情で顎をしゃくり上げ、私を見据えました。

「シャブのやめ方を教えて欲しいんだよ、やめ方を」

完全に私の負けでした。玉砕といってよいほどの完敗でした。考えてみれば、患者はそれまで周囲の人たちから説教や叱責を受けてきたはずであり、それでやめられないから病院に来ているわけです。いまさら素人と同じ説教を、病院でわざわざお金を払って聞きたくはないでしょう。彼らが知りたいのは、何といっても「やめ方」です。

とはいえ、当時の私には、「クスリのやめ方」など皆目見当がつきませんでした。そこで、「せめてヒントだけでも」と考えてはじめたのが、患者に教えを乞うことだったのです。「今回、何がきっかけでクスリを使いたくなったのか」、「同じ状況でも、クスリを使わずすんだことはあるのか」、「欲求を抑えるのに成功したときと失敗したときでは何がどう違うのか」……。決して尋問や詰問ではなく、虚心坦懐な気持ちから私は何度も患者に質問したものでした。

後になってから気づいたのですが、私のこうした姿勢は、診察室を、「薬物を使いたい/使ってしまった」と正直にいえる、患者にとって希少な場所に変えたようでした。その結果、以前よりも通院治療からの脱落患者が少なくなり、そればかりか、通院を継続する患者のなかから、少しずつ長期の断薬に成功する者が出始めたのです。これが私の薬物依存症臨床の事始めであり、その延長線上に SMARPP のような薬物依存症治療プログラムの開発といった仕事があります。

その後、私は司法精神医学や自殺予防学などと境界領域を転々としましたが、一貫して薬物依存症にかかわる仕事をし続けてきました。そのようにして迷いながらもぶれずに仕事を続けてこられたのも、初めて書いた、「中学生の自由研究」のような原著論文を、元上司でもある和田清先生(現、埼玉県立精神医療センター依存症治療研究部部長の和田清先生)、ならびに村上優先生(現、独立行政法人国立病院機構榊原病院院長)が注目してくださり、その後、長きにわたって支援し続けてくだったおかげです。この場を借りて深謝申し上げます。

今、この受賞を機に、少しでも本学会に貢献できるように、自身の研究はもとより、後進の育成に邁進しなければと気持ちを新たにしています。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。


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8. 学会印象記:2017ESBRA 学会に参加して

奥田貴久
(日本医科大学 法医学教室)

羽田からはるばる飛行機を乗り継ぎ 20 時間、私は 2017 年 10 月 8~ 11 日にギリシャのクレタ島で開催された The 16th Congress of the European Society for Biomedical Research on Alcoholism in Heraklion, Creta (ESBRA 2017) に参加させていただきました。10 月上旬のエーゲ海周辺の気候は、暑くもなく寒くもなく穏やかな日差しと快適な湿度に恵まれ、終始リラックスした雰囲気の中、学会が行われました。

ESBRA2017 の参加者はおおよそ EU 圏の研究者です。北米からの研究者は極めて少なく、南米などのスペイン語圏からの参加者が若干認められる印象でした。発表される演題はアルコールの生体に及ぼす影響のうち脳や神経系に関する内容よりも、どちらかというと肝や代謝に関する内容のほうが多い印象でした。EUでは生活習慣などから依然としてアルコール性肝障害が大きな社会問題となっていることを窺い知ることができました。アルコール性肝障害に関する発表では ADH、ALDH などのいわゆる代謝酵素に関する研究よりも、微量元素、栄養素、サイトカインに関する研究が多くを占めました。これらの内容についてESBRA2017 では基礎研究から臨床問題まで幅広く取り扱っており、アルコール問題の先端研究に触れる良い機会となりました。

私は、開催 3 日目に本学会理事長の齋藤利和先生が企画されたシンポジウム「 Comorbidities of alcohol dependence, JMSAAS/ESBRA joint symposium」にて、「The role of class III alcohol dehydrogenase in alcohol-related disorder on liver and bone」と題して発表させていただきました。急速及び慢性アルコール摂取による高血中アルコール濃度下において ADH3 はアルコール代謝に関与することが以前より知られておりまし たが、マウスを用いた基礎研究で ADH3 が質的量的に変化していたこと、骨に存在する ADH3 がアルコール代謝に参加しアルコール性骨粗鬆症を発症させている可能性があることなどを報告し活発に議論させていただきました。日本からは私の他、手稲渓仁会病院の白坂知彦先生、久里浜医療センターの上野文彦先生が発表されました。白坂先生はアルコール性認知障害と脳血流についての臨床研究を、上野先生は ALDH2*2 保有者におけるアルコール依存症患者の併存疾患についてそれぞれ印象深い 報告をされました。これらの質の高い発表を行えたことは JMSAAS の国際的プレゼンスをあげるよい機会となったと考えております。最後に、貴重な発表の機会を頂いた齋藤利和先生、高田孝二先生、樋口進先生に心より深謝いたします。

白坂知彦
(手稲渓仁会病院 精神保健科)

2017 年 11 月 8~11 日、ギリシャ・クレタ島クレタ・マリスコンベンションセンターにて開催された「The 16th European Society Biological Research on Alcoholism (ESBRA2017) 」に参加する機会を得たのでここに報告する。

本会はヨーロッパ アルコール医学生 物学会 (European Society Biological Research on Alcoholism:ESBRA)の年次総 会である。

第 16 回目の開催である今回はクレタ大学 Iannis A. Mouzas 教授を大会長として、アルコール依存症のみならず、広くアディクションの問題に重点をおき、生物学的な内容から、臨床プログラム、各国の現状と課題まで幅広い分野での興味深い講演が行われた。開催地であるヘルソニソス市はギリシャ・クレタ島の中心地ヘラクリオン市から東へ 30km ほどの場所であった。当地は地中海に面したヨーロッパ有数の観光地であり、暖かい日差しを求めてドイツ、イギリス、ロシアなどから多くの観光客があつまり、大変な賑わいであった。

今回、筆者は日本医科大学 法医学教室 奥田貴久先生、国立病院機構久里浜医療センター 上野文彦先生、カナダ Manuela Neuman 先生、ドイツ Ines Silva 先生らとともに「JMSAAS/ESBRA joint symposium : Comorbidities of alcohol dependence」と題した国際シンポジウムに参加する機会を得た。

医療法人北仁会幹メンタルクリニック 齋藤利和先生、ハイデルベルク大学 Helmut K. Seitz 教授の両座長による進行のもとアルコール依存症とその合併症に関する様々な側面からの生物学的解析が議論となった。今回、筆者は 3D-SSP 解析を用いて飲酒に伴う特異的な脳血流量の変化部位と前頭葉機能低下の相関性を探る試みについて発表を行った。他分野の専門家からの広い視野に基づくご示唆をいただき、今後の研究活動、臨床業務の大きな励みとなった。日中の白熱した議論のあと、海岸沿いでのバーベキューや歓楽街散策に繰り出し、多くの友人達との交流と諸先生からの貴重な勉強の機会を得てとても充実した学会参加となった。今後もさらに同学会への参加者が増えネットワークの強化、発展がなされることを期待する。

次回は 2018 年 10 月 11~12 日、ルーヴァン・カトリック大学の Roberta Ward 教授を大会長としてベルギー・ルーヴァンにて開催予定である。

9. 第2回「認知行動療法の手法を活用した薬物依存症に対する集団療法研修会」開催のご報告

杠 岳文
(国立病院機構肥前精神医療センター)

平成 29 年 12 月 5 日から 7 日までの 3 日間、昨年に続いて肥前精神医療センターで「薬物依存症に対する集団療法研修会」を開催させていただきました。生憎、この冬最大の寒波が押し寄せ、佐賀県でも初雪が降る寒さの中での開催となりました。

今回の研修会には、昨年同様 125 名と定員の 100 名を超える受講応募があり、選考委員会で 102 名の受講者を選考し、受講された 99 名の方に修了証書を授与することができました。

受講者の出身地を見ますと、福岡県が 13 名と最多で、次いで長崎県 5 名、沖縄県 5 名と九州、西日本が多くはなりますが、北海道から沖縄県まで 28 都道府県からご参加頂きました。受講生の職種内訳は、看護師 24 名、医師 18 名、精神保健福祉士 15 名、臨床心理士 11 名、保健師 9 名、作業療法士 9 名、保護観察官 5 名等となっており、依存症者の回復支援に関わる様々な立場と職種の方々にご参加いただきました。本学会の松本俊彦理事をはじめ、多くの講師の皆様のご協力により、講義も充実した内容となり、グループワークでの討議も活発で白熱したものになっていました。修了後のアンケートを見ましても、受講の満足度は高く、本研修会の開催意義を改めて感じたところです。

受講生の年齢構成を見ますと、昨年に比べ幾分若い方の参加が目立ち、これから薬物依存症患者の回復支援に関わろうとする若い世代が増えていることを心強く感じたところでです。一方で、今回受講された 99 名のうち学会員は 3 名(昨年と同数)と少なく、この依存症領域の臨床に関心を持って参加される多くの方に、当学会の学会活動が浸透していないことを課題と感じます。(100 万人のアルコール依存症のうち、専門医療機関を受診している患者が 4 万人のみというのを「治療ギャップ」と呼ぶのであれば、このことは専門職の学会「入会ギャップ」と呼べるかもしれません。)この「ギャップ」解消のためには、研修会という機会を利用して、学会活動や入会方法の紹介を行うブースや時間があってもよいのではと感じた次第です。

学会として、人材育成のためのこうした研修会開催も重要な社会的使命の一つと考えられます。広報、情報発信とともに、他領域の研修会も学会主催で数多く開催できれば、学会に入会希望する方も増えるのではないかと期待します。


※画像はグループワーク風景

10. 研究室紹介:島根大学医学部環境保健医学講座

神田秀幸
(島根大学医学部環境保健医学講座)

当講座は島根大学医学部において、衛生学・公衆衛生学を担当する講座です。2014 年に私の教授就任に伴い、公衆衛生学と環境予防医学の旧 2 講座が統合され、1 講座体制として新たなスタートを切りました。

講座教員の予防医学に関する専門分野は様々です。疫学・公衆衛生を専門とする私の他、ゲノム研究者、臨床心理士、医療社会学者、循環器専門医、総合診療医ら、多士済済です。大学院生には、救急救命士、看護学科教員、日常臨床に携わる医師ら、さらに分野が広がります。“多様性と絆”をスローガンに講座運営を行っています。

これらの教員や大学院生が、それぞれに専門分野の研究をしながら、様々なアディクションの課題に取り組んでいます。一例をご紹介すると、喫煙と全身にわたる動脈硬化性変化の疫学研究、断酒会参加者の行動転期に関する質的研究などが挙げられます。各自、専門に合ったアディクションのテーマを見つけ、予防医学的観点から取り組んでいます。

取り組みの柱のひとつとして、インターネット(以下、ネット)依存があります。ネット依存は主に未成年者にみられます。しかし、成人にもそれが起こり得る現象であり、その頻度と関連要因について検討を行うため、わが国の成人勤労者において研究を行いました。

ネット依存研究を手がけ、成人勤労者におけるネット依存の実態に関する論文を 2017 年 12 月に公表しました(Journal of Epidemiology DOI: https://doi.org/10.2188/jea.JE20160185)。成人勤労者はある県のすべての教職員を対象とし、ネット依存は Internet Addiction Test (IAT)を用いました。結果として、成人勤労者において、約 5%にネット依存の可能性があることがわかりました。また、休日のプライベートでのネット長時間使用とネット依存に正の関連がみられました。

このテーマの論文が採択されるまで、かなりの時間を費やしました。ネット依存という新しい病態やその健康への影響を査読者に理解してもらうこと、また指標としての IAT の精度に関する査読のやりとりなど、新分野の開拓の厳しさを身をもって経験しました。採択が決まった時の感慨はひとしおでした。この経験を踏まえ、これからも依存症につながる新しい予防医学的課題に果敢に挑戦し、世に問う姿勢をもつ教室でありたいと思っています。

隣県の鳥取大学医学部環境予防医学 尾崎米厚教授からご指導を受けやすく、折を見て研究交流しています。山陰地方がアディクション研究の疫学公衆衛生分野の拠点になるよう、今後、研鑽を積んでいきたいと思っております。

当講座は、まだ講座運営が緒についたばかりの段階です。今後とも、本学会始め多くの先生方からのご指導ご鞭撻、叱咤激励をどうぞ宜しくお願い致します。

11.アル法関連最新情報

~アルコール関連研究費の大幅増額のために、学会は継続した取り組みを!~

猪野亜朗
(医)山下会 かすみがうらクリニック)
堀井茂男
((財)慈圭会 慈圭病院)

1.国の動向

2013 年 12 月、アルコール健康障害対策基本法が国会で議決され、2014 年 10 月 31 日より具体的な対策を決めるアルコール健康障害対策関係者会議が樋口進座長のもと、当事者や専門家やアルコール関連メーカーや酒類販売業界団体等も参加して開催されて来ました。その中で、2015 年 8 月 28 日には三重大学 大学院医学系研究科病態制御医学講座消化器内科学教授の竹井 謙之参考人は「アメリカの研究費を熊野の大花火大会とすると、日本の研究費は我が家の線香花火」とたとえて、日本の研究費 の貧困を訴え大きな反響をもたらしました。

そして、2016 年 1 月 6 日、当時のアルコール関連 3 学会は連名で政府に「アルコール健康障害予防・研究センター(仮称)の設立とアルコール健康障害に対する研究費の増額」を求める要望書を提出しました。その中で「米国にはアルコール健康障害の専門研究機関(National Institute on Alcohol Abuse and Alcoholism)があり、その 2014 年の年間予算は、4 億 6 千 384 万 8 千ドル(556 億 6 千万円)と記されています(National Institute of Health ホームページ)。一方、わが国のアルコール健康障害に関する研究費は 1 億円にも満たないのが現状」にあることを指摘し、抜本的な改善を要望しています。

このような議論を経て、2016 年 2 月 10 日、国の基本計画が 策定されました。それを反映して、2016 年予算で若干の改善はなされましたが、2017 年は据え置かれています。

研究を巡る現状は我々の要望とは程遠く、基本法で盛り上がっている今こそ、継続的に効果的に力を集中していく必要があります。

2.都道府県では「推進計画」が策定されています。

国の基本計画が策定されましたので、それに沿って都道府県単位の推進計画策定が開始されています。アルコール健康障害の発生予防、進行予防、再発予防に取り組むことが確認され、これらの活動を支える人材育成と、更にそれを支える土台の調査研究を都道府県レベルで行う段階に来ています。

次ページの表のように、各都道府県の進行状況が示されています。都道府県ではこれまでのアルコール対策の経過に違いがあるため、進行状況も異なっています。また、その内容も少しずつ異なっています。「未定」の都道府県でも我々の知る限り、準備が進められ、全国に推進計画が完成する日は近いと考えます。行政の特徴として、「やる」と決めたことは強力に進められて行きます。

しかし、行政はこれまでのアルコール対策の経験が非常に少なく、知識やノウハウが大きく欠けています。今、行政は、学会員の皆さまに専門的知識の提供を期待しています。もちろん、行政は「おざなりで済ます場合」もありますが、行政は優秀な人材が多いので、なんとか国の基本計画に沿って推進計画を作ろうと努力されます。

また、議会の議員に賛同してもらうのも非常に重要です。「政治」は特別のものではありません。人間社会が作り出したシステムの一つです。議員の理解を得ることなしには、行政も非常に動きにくいのです。行政、議員に専門知識を提供する際には、アルコール健康障害についてのエビデンスに基づく必要があります。また、疫学的な調査データも必要です。研究費の問題はここでも大きな課題です。

ぜひ、学会の皆さま、行政や議員から期待されている専門的知識を進んで提供していただき、同時に日本の研究体制の決定的に不備な現状も伝え、良好な連携した関係を構築し、実効性のある良い推進計画を策定して欲しいと思います。

3.三重県の推進計画の特徴

三重県では、飲酒運転ゼロ条例があり、検挙者には受診義務が課されています。また、三重県アルコール関連疾患研究会が活動してきた歴史は「三重モデル」と言われてきましたし、内科と精神科の連携、地域の介護機関、生活保護や高齢者対策の担当課などの多くの機関との多機関連携を行う「四日市アルコールと健康を考えるネットワーク」の歴史は「四日市モデル」と言われてきました。

これらをリードしてきた医師や MSW が推進計画の委員に選ばれました。また、推進計画策定の委員には保健所、医師会、精神科病院協会代表などが委員に加わり、さらに、酒販組合代表、酒造メーカーの代表なども加わりました。医療、教育、福祉、警察などの担当課の皆さんが何十人も傍聴し、酒販組合の代表の方は販売者責任について語り、診療報酬の必要性まで言及されました。そのおかげで、推進計画策定会議全体が前向きになり、特徴のある推進計画となりました。

  • 行政と専門家によるコア会議が設置され、協働作業で推進していく体制がすでにある。
  • 三重・四日市モデルを元に、県内で 3 つの地域連携組織を立ち上げ、関係機関の連携を重視していく。
  • 医療機関は積極的に自助グループと連携するとともに、アルコール依存症の人の長期的な回復をサポートしていく事が明示された。
  • パブリックコメントで一般からの意見も求め、人材育成の対象に栄養士を加えた。
  • 行動計画を決め、確実な推進をしていく体制とした。Plan→ Do→Check→Actのサイクルを繰り返し、推進計画の実現を図る。
  • 基本計画にある「連携」という重要なキーワードは三重の推進計画にも反映された。

こうして、2017 年 3 月完成し、お披露目のフォーラムが県庁講堂で実施されました。「法は現実を超えない」という原則を踏まえ、全国各地でより一層日常的な取り組みを強化していただくとともに、行政・議会へのアプローチも同時に進行させて頂きたいと考えます。

4.統合型リゾート(以下、IR)法案の突然の登場

日本はギャンブル依存症が国際的に見ても多いといった状況の中、突然、カジノ法案が登場し可決されました。依存症のリスクを増やしながら、一方では対策を強化するという何とも息苦しい現状にありますが、この IR 法が新たなアルコール対策の開始を直撃しました。

以下の表のように、国は 3 つの依存症を同時に対策を立てることになりました。しかし、同じ依存症とは言え、主要な問題は異なり、アルコールは臓器障害問題が中心であり、ギャンブルは金銭問題が中心でその方面での連携が中心であり、薬物は司法との連携が中心です。対策や連携の機関が異なるので、一緒に対策を立てることは困難です。「3 つの依存症を一緒に」というのは無理であり、別個の連携、別個の対策が必要となって来ています。

5.今、国では

アルコール健康障害対策「第二期関係者会議」が開催されています。10 年先を考えると、調査や研究は極めて重要です。対策のバックデータがない現状を何とかしなければ、対策は立ちません。例えば、フラッシャーが多い日本における発がんや脳への影響についても研究が必要ですが、研究費がない中では、対策が立ちません。

また、国の予算が付いても、国の交付率が 10 割でないと県費負担が必要で、地方自治体は予算に困り、実施できない場合も多くなることが予想されます。

第二期関係者会議が 2017 年 2 月 28 日より始まっていますが、 6 月 14 日に第 16 回会議の議事録があります(厚労省のホームページ)。松下年子委員が「平成 29 年度の研究費が 1,000 万ですね。私の感覚で言いますと、個人の研究費という感じです。文科省の基盤BとかCとか、そのレベルです。それでもって、これからいろいろと介入していこうというときに、一番大切なのは数字だと思うのです。数字でもって、これだけ効果があるのだ、これだけよくなっているのだということを示していかないといけないと思うのですが、要するに、研究とか調査というところに、どこに予算が配分されているのかということがよく見えないというところがあります。」と発言し、研究費の増額を訴えています。

今後、研究費は国の大きな課題になるように願っています。そして、アル法ネットは堀井茂男医師を代表に選出し、第二期関係者会議は医療関係として堀井茂男医師、辻本士郎医師、神田秀幸医師、稗田里香 MSW が新たに加わり、陣容が強化されたことを報告します。

12. 賞の募集について

日本アルコール・アディクション医学会では、毎年以下の賞を募集しています。

●柳田知司賞:学会最高賞に位置付けられる賞です。50 歳以下の若手・中堅の研究者を対象に業績審査が行われます。

【過去の受賞者】

第 1 回(2011 年)
高野裕治(NTT コミュニケーション科学基礎研究所)
第 2 回(2012 年)
該当なし
第 3 回(2013 年)
森 友久(星薬科大学 薬品毒性学教室)
第 4 回(2014 年)
池田和隆(東京都医学総合研究所 依存性薬物プロジェクト)
第 5 回(2015 年)
永井 拓(名古屋大学大学院 医学系研究科医療薬学・付属病院薬剤部)
第 6 回(2016 年)
中村幸志(北海道大学大学院 医学研究科社会医学講座公衆衛生学分野)
第 7 回(2017 年)
松本俊彦(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部)

●CPDD 奨励賞:毎年 CPDD にて発表予定の中から、応募により賞選考委員会にてその内容を審査し贈呈いたします。

●その他 若手研究者のための国際学会奨励賞:開催予定の国際学会の中で、当学会所属の若手研究者が研究発表等を行う際 に申請できます。対象の国際学会は国際委員会にて選定し、ホームページ等でご案内いたします。奮ってご応募ください。

13. 2018 年度予定の国際学会情報

国際委員会委員長 高田孝二
(帝京大学 文学部)

国際委員会では、原田隆之先生(心理学分野、筑波大学)、白坂知彦先生(精神医学分野、手稲渓仁会病院)に加え、新たに内科学分野より池嶋健一先生(順天堂大学)、公衆衛生学分野より中村幸志先生(北海道大学)、および法医学分野より西谷陽子先生(熊本大学)に加わっていただき、新たな陣容で 2018 年を 迎えようとしております。

2018 年のハイライトは、なんと申しましても、9 月に京都におきまして、第 53 回日本アルコール・アディクション医学会学術総会(会長:竹井謙之先生)と共同開催されます International Society for Biomedical Research on Alcoholism* (大会長:樋口進先生)となります。国際委員会としましても、JMSAAS としてのいくつかのシンポジウムを企画・サポートする予定です。これにつきましては、多くの先生方にアドバイスいただきながら、ホームページなどでご案内さしあげたいと考えております。

*ISBRA, 9/9~9/13、国立京都国際会館 日本
(http://www.congre.co.jp/isbra2018/ )

以下に 2018 年開催の主な関連国際学会を掲載いたします(各分野で日付順;選定は国際委員会委員が行いましたが、法医学分野は藤宮龍也先生にお願いいたしました)。

精神医学分野、薬理学分野

  • The American Society for Pharmacology and Experimental Therapeutics (ASPET), 4/21-4/25, San Diego, CA, USA
    (https://www.aspet.org/aspet/meetings-awards/meetingsannual-meeting/annual-meeting-2018)
  • The College on Problems of Drug Dependence (CPDD), 80th Annual scientific Meeting, 6/9-6/14, San Diego, CA, USA
    (http://cpdd.org/meetings/meeting-information/)
  • The International Congress of Neuropsychopharmacology (CINP), 31st CINP World Congress, 6/16-6/19, Vienna, Austria
    (http://cinp.org/vienna/)
  • Research Society of Alcoholism (RSA), 41st Annual RSA Scientific Meeting, 6/16-6/20, San Diego, CA, USA
    (https://www.xcdsystem.com/rsoa/index.cfm?ID=OJjNsB7)
  • European Society for Biomedical Research on Alcoholism (ESBRA), Nordmann Award Meeting 2018, 10/11-10/12, Louvain-la-Neuve, Belgium
    (http://www.esbra.com/calendar/)
  • 20th International Society of Addiction Medicine (ISAM) Annual Meeting, 11/3-11/6, BEXCO, Busan, Republic of Korea
    (http://isam2018-busan.com/2017/english/main/index_en.asp)

内科学分野

  • Asian Pacific Society for the Study of Liver (APASL), Annual Meeting, 3/14-3/18, Dehli, India
    (http://apasl2018.in/index.html)
  • Association for the Study of Liver (EASL), Annual Meeting, 4/11-15, Paris, France
    (https://ilc-congress.eu/)
  • United European Gastroenterology (UEG), 26th UEG Week, 10/20-10/24, Vienna, Austria
    (https://www.ueg.eu/week/ueg-week-2018/ )
  • American Association for the Study of Liver Diseases (AASLD), Liver Meeting 2018, 11/9-11/13, San Francisco, CA, USA
    (https://www.aasld.org/events-professional-development/liver-meeting)

衛生学・公衆衛生学分野

  • Asia-Pacific Academic Consortium for Public Health, 50th APACPH Conference, 9/13-9/15, Kota Kinabalu, Malaysia
    (http://apacph2018.com/v/)
  • Annual Meeting & Expo, APHA 2018
    (American Public Health Association), 11/10-11/14, San Diego, CA, USA
    (https://www.apha.org/events-and-meetings/annual)
  • European Public Health Conference 2018, 11th EPH, 11/28-12/1, Ljubljana, Slovenia
    (https://ephconference.eu/greening-the-eph-conference-384)

法医学分野

  • International Academy of Legal Medicine, 24th Congress in Fukuoka, 6/5-6/8,Fukuoka,Japan
    (http://www.ialm2018.org/)
  • 2017 SOFT-TIAFT joint Annual Meeting, 55th Annual Meeting of TIAFT, 1/6-1/12, 2018, Boca Raton, FL, USA
    (http://www.tiaft.org/tiaft-meetings.html)

心理学分野

  • 6th Asian Cognitive Behavior Therapy Conference, 2/9-2/12, Dhaka, Bangladish
    (http://acbtcdhaka2018.com/home/ )
  • European Association for Behavioral and Cognitive Therapies, 48th Congress, 9/5-9/8, Sofia, Bulgaria
    (http://www.eabct.eu/ )
  • Association for Behavioral and Cognitive Therapies (ABCT), 52nd Annual Convention, 11/15-11/18, Washington DC, USA
    (http://www.abct.org/Conventions/?m=mConvention&fa= dConvention )
  • Substance Use and Addiction Conference (Association for Behavior Analysis International 主催), 11/19-20, Washington, DC, USA
    (https://www.abainternational.org/events/addiction- 2018.aspx )

14. 編集後記

広報委員会 岡村智教
(慶應義塾大学医学部 衛生学公衆衛生学)

今回初めて News Letterの編集をさせていただきました。とはいえ池田編集委員長、事務局の鈴木さんの全面的なご支援の下、私がずぼらをしていてもどんどん原稿が集まりましたので名ばかり編集委員の雑談と思ってお読みください。

今回、私自身は2017年9月に主催させていただきました第52 回学術総会について拙文を書かせていただきました。約2年前に突然のご指名を受けてから少しずつ準備を進めてはいましたが、もともとこの学会に毎年参加するような真面目な会員ではなかったこともあり、まず学会全体の様々な分野の概要を把握するのに時間がかかりました。公衆衛生/循環器系を専門とする私からすると、特に旧依存精神医学会系の領域はまさに未知の世界であり、今回の機会を通じてその奥深さと社会的な重要性を学ぶことができました。詳細は記事をご覧ください。

なお来年の学術総会はISBRA2018との併催として京都で開催されますが、それぞれの学会の案内も今回記事になっています。これからの当学会の発展は国際化とは切っても切れないので、日本に居ながら両方を見ることができるいい機会になると思います。

国際学会の情報としては、本学会との共催シンポジウムが行われたESBRA2017(ギリシャ、2017年10月)の学会印象記も掲載されていますので、是非、こちらもご覧ください。今回は 私も初めて一般演題を出してこの会に参加して来ました。規模は大きくないものの発表内容の充実には目を見張るものがあり、日本での学会運営の参考にすべき点が多くありました。

そして今まで最大の懸案事項であった学会の法人化がいよいよ動き出します。期待も大きい反面、社会的な責任も大きくなり不安がないと言えば嘘になりますが、会員の皆様の支援でこの変革期を乗り切ることができると確信しています。今後ともご支援のほどよろしくお願いいたします。


Photo by Tsutomu Suzuki