5-2号 (2021年4月)

1.新理事長挨拶

宮田久嗣
(東京慈恵会医科大学 精神医学講座)

~多様性とともに生きる~

今、アディクション(嗜癖)の問題はホットで多様です。アルコールは嗜好品で多くの方達が適正に使用している一方で、乱用・依存症者は絶えません。大麻や覚醒剤は違法であることを誰もが知っていますが、使用はなくなりません。違法性を回避するために危険ドラッグが出現しました。最近は、カジノ法(統合型リゾート整備推進法)の関係でギャンブル障害の問題や、青少年のゲーム使用が社会的な問題となっています。

新型コロナ感染症による自宅待機では、世界中でアルコール、ギャンブル、ゲーム使用や、家庭内暴力の増加が問題となりました。ヒトはストレス下では心の癒しを求める一方で、 過剰な使用(乱用や依存)と背中合わせの関係にあります。ストレス解消や嗜好のための節度ある使用と、依存、アディクションを分けるものは何なのでしょうか。思えば、人間は、さまざまな依存性物質を、古来から嗜好品、宗教的な儀式、医薬品として使ってきました。その意味では、依存や嗜癖は人間の本質に深く根差したものといえます。

アディクション(嗜癖)の治療は、現在、大きな転機を迎えています。断酒が唯一の治療目標であった時代から、飲酒量低減(減酒)やハームリダクションという新たな考え方が導入されてきました。また、従来のアディクションの治療モデルは、嗜癖行動さえなければ自立した生活ができる方達を前提としていました。しかし、最近はそのような考え方だけでは、もともとの弱さや不適応の問題を抱えた方達(トラウマを抱えた人たちや、発達障害やうつ病を持った人たち)には十分に対応できないことがわかってきました。このようなパラダイムシフトが治療の向上につながるのかどうかは、これからの課題です。

日本アルコール・アディクション医学会は、精神医学、内科学、薬理学、法医学、公衆衛生学、心理学、看護学、精神保健学などさまざまな領域の研究者や治療者から構成されています。日本学術会議においても 2017 年にアディクション分科会が設置され、アディクションに関する提言や活動が積極的に展開されています。本学会の特徴である様々な領域からなる大きな力を結集して、依存・嗜癖の病態解明や治療法開発の研究、社会への啓発活動、将来を担う人材の育成、諸外国との協働(国際活動)、診断・治療ガイドラインの作成、行政への働きかけなどに本学会が中心的役割を果たしていくことが期待されています。

2. 理事長退任に寄せて(藤宮龍也)

藤宮龍也
(西京法医学研究所 大原野クリニック)

山口大学の定年を令和2年3月末に迎え、2019 年度を持って本学会の理事長を辞させて頂きました。私は基礎医学系法医学に属しておりますので、アルコールの基礎研究の終了を区切りと考え、理事会にご了承頂きました。

齋藤利和元理事長からは、本学会の国際化、若手活躍、女性活躍を課題として頂きましたが、宮田久嗣新理事長にも引き続きお願いしたいと存じます。私としては JMSAS の庶務委員長の時から取り組んできた日本アルコール・薬物医学会と日本依存神経精神科学会との統合の完遂、その後の総務委員長としての学会の法人化、理事長としての法人の円滑な運営に注力して参りました。その間、理事長として、樋口進 ISBRA2018 会長、竹井謙之 JMSAAS2018 会長、白坂知信 JMSAAS2019 会長にお世話になり、学術集会は大成功に終わりました。西谷陽子 JMSAAS2020 会長にはコロナ禍対応でご苦労をおかけすることになりましたが、各会長の先生方に感謝致します。

私は山岡清先生に薬物動態学の教えを受けて研究を始め、以来 35 年となりました。その間(以下、敬称等略)、法医学系では小片重男、古村節男、福井有公、溝井泰彦、足立順子、長谷場健などの諸先生にお教えを頂きました。内科系では、高田昭、石井裕正、松崎松平、佐藤信紘、堤幹宏などの諸先生に薫陶を受けました。薬理系では栗山欣弥、大熊誠太郎、鈴木勉 の諸先生にお世話になりました。精神科系では斎藤利和先生にお引き立て頂きました。その他多くの諸先生にお世話になり、有り難うございました。このように多くの分野の結びつきこそがアルコール・アディクション医学会の特徴であり、複雑性と思います。

法医学では鑑定が大きな仕事となります。飲酒運転や性犯罪、酩酊と傷害が関係する事案などの相談を全国から受け、多くのことを学ぶことができました。最近は、酩酊度の判定、酩酊の自己認識と故意過失、ブラック・アウト問題など精神科領域との境界部が問題となり、JMSAAS のような学際的な取り組みの重要性を感じています。まさに、医学と法学との間の問題で、患者としての医療面とトラブル関連の応報と教育の社会面とのバランス問題です。ただ、Widmark 式(1931)や Binder の 3 分類(1935)といった戦前の考え方が使われたままで、その問題点が指摘されています。また、自由な行為の責任や故意過失の法理の国際間の相違など、飲酒に関する社会的対応の文化面も問題となります。今後は現代的視点からの再考が必要と考え、今後も研究を続けたいと考えています。

今まで多くの同胞諸先生の力によって支えられてきました。心から感謝致します。最後に、アルコール・アディクション医学会の発展を祈念し、退任のご挨拶とさせて頂きます。

3.2020 年度学術総会を終えて

西谷陽子
(熊本大学 法医学講座)

2020 年 11 月 22 日(日)~23 日(月・祝)にかけて、オンライン学会開催を行いました。本大会は、元々は 2020 年7 月 10 日(金)~11 日(土)に、福岡国際会議場において、第 42 回日本アルコール関連問題学会との共同開催として開催する予定だったのですが、新型コロナウイルス感染症感染拡大防止のため、11 月に延期いたしました。それに伴い、共同開催予定であった第 42 回日本アルコール関連問題学会は開催中止となったため、合同開催から単独開催への変更になりました。さらに、対面での開催を断念し、オンラインでの開催となりました。

第 55 回日本アルコール・アディクション医学会のテーマは「アルコール健康障害・依存症の多角的な研究と連携」としました。学会では特別講演などの3講演と 11 個のシンポジウム・セッションを行うことができました。特別講演では山口大学法医学講座名誉教授 藤宮龍也先生(前学会理事長)、教育講演では神奈川歯科大学法医歯科学教授の長谷場健先生によるアルコールに関する基礎的研究に関わる講演がなされました。また、柳田知司賞を受賞された順天堂大学消化器内科学教授池嶋健一先生の受賞講演がされました。多分野学際シンポジウムとして「アディクション研究のすすめ:アルコール・薬物・行動依存の最新知見と臨床への展開を考える」にて心理学、精神医学、公衆衛生学、薬理学、看護学、基礎医学のそれぞれの立場より議論がなされました。そのほかにもシンポジウムとして「アディクション治療におけるハームリダクションの意味を考える」「ゲノム解析がもたらしたアルコール代謝関連遺伝子変異の医学医療上の役割」「オピオイド鎮痛薬、乱用のその先」「覚せい剤事犯者の理解とサポート:性差に着目した分析」「日本におけるアディクション研究拠点設置の必要性」「アルコール関連疾患のトピックスー基礎と臨床」「依存 dependence と嗜癖 addiction の使い分けの徹底について」「アディクションと国際支援」「大麻についての基礎から臨床まで」など多彩な領域について議論がなされました。一般演題も約 50 題の発表があり、大変実り多き二日間となりました。

オンライン開催にあたり、録画動画配信を中心にはせず、Zoom ウェビナーおよび Zoom ミーティングを用いたリアルタイム配信を主体とし、よりリアルな議論を目指しました。また、リアルタイム配信を見ることができない参加者のために後日(12 月7日~21 日)に録画動画のオンデマンド配信も実施しました。登録参加者は約 300 人に上り、11 月 22 日・23 日に開催したリアルタイム配信では常時百名以上の参加者がおり、対面と遜色ない活発な議論が交わされておりました。懇親会はできませんでしたが、その代わりにオンライン交流会を開催し、懇親会で行っておりました各種表彰式もオンラインで実施することができました。新しい学会の在り方を提示することができたかと思います。学会開催にあたり、学会関係者、教室員、関係の皆様に多くのご協力、ご支援をいただきました。この場をお借りいたしまして厚く御礼申し上げます。

4.2021 年度学術総会のご案内

廣中直行
(東京都医学総合研究所 客員研究員 東京慈恵会医科大学 非常勤講師)

第 56 回日本アルコール・アディクション医学会のお世話を させていただく廣中です。

すでにご案内の通り、この合同学術総会は、第 43 回日本アルコール関連問題学会(会長は猪野亜朗先生)と合同で、本年(2021 年)12 月 17 日(金)〜20 日(日)、三重県津市の三重県総合文化センターで開催の予定です。

合同学術総会のメインテーマは「最新医学を共有した連携の発展」としました。進展の著しい基礎研究の最前線を学びつつ、医療現場での実践の進展をいっそう推進する願いを込めたものです。副題として「基礎・臨床・多職種・多機関・そして地域から世界へ〜コロナ危機を乗り越えて」をうたっております。

現在、三重県での現地開催を念頭に準備を進めておりますが、COVID-19 の感染状況には予断を許さないものがあります。また、全国的に感染が落ち着いて参りましても、医療機関の先生方に県境を超えてお越しいただくことができるかどうかが最も重要なポイントです。このようなわけで、オンライン開催も考慮しながら準備にあたっております。

また、先生方には多くのシンポジウムの企画をお寄せいただき、厚く御礼申し上げます。おかげをもちまして、予定のスロット数に達しました。今回の特徴としては、精神医学、薬理学、内科学などの個別領域の枠にとどまらない「多領域」とも呼べる斬新な企画が多いことがあげられます。学際的色彩の強い当学会の持ち味が発揮されてきたように感じております。どうぞご期待ください。関連問題学会の方でも、日本救急医学会とのジョイント・シンポジウムをはじめ多彩な企画を計画中です。今年の関連問題学会は実践的・社会活動的な色彩がたいへん色濃く感じられますので、当学会としては学術研究に焦点を当てた企画を増強してバランスを取りたいと考えているところです。

学会の準備は思いのほか大変な作業ですが、皆様のご指導をいただきながら進めております。多くの先生方のご協力・ご参加を賜りますよう、いま一度お願い申し上げます。

5.2020 年度代議員総会議事録

日 時:2020 年 10 月 25 日(日)15:00~16:00
会 場:東京慈恵会医科大学大学 2 号館 1403 会議室および Zoom
議決権数:202(過半数 102)
出席数:117(うち委任状 76)

会に先立ち議長より定足数の報告ならびに議事録署名人の指名が行われた。議事録署名人として、廣中理事および堀江理事が指名され承認された。

1.新理事会発足の件

藤宮理事長より、定年退職に伴い日本アルコール・アディクション医学会(以下、AA 医学会)の理事長を辞任する旨挨拶があった。新理事長に宮田理事長が推薦され、一同異議なく承認した。また、役員改選の選挙を行ったことが報告され、新役員候補者の確認を行い、承認された。

2.会務報告

堀江理事が、昨年度および今年度の会員数ならびに会議の 開催報告・開催予定を報告した。

3.2019 年度決算報告 2020 年度予算案

廣中理事が 2019 年度(2019 年 8 月 1 日~2020 年 7 月 31 日)の決算報告を行った。また烏帽子田監事と堀井監事2名による監査報告書が示された。審議の結果、異議なく承認された。続いて廣中理事が、2020 年度(2020 年 8 月 1 日~2021 年 7 月 31 日)予算案の提案を行った。確認の結果、一同異議なくこれを承認した。

4.柳田賞受賞者について

宮田理事長が、柳田賞受賞者について報告を行った。

第 10 回柳田知司賞
受 賞 者: 池嶋健一(順天堂大学消化器内科)
受賞講演: 2020 年 11 月 23 日(月・祝)13:20-14:20
WEB 第一会場

5.優秀論文賞受賞者について

白石理事より優秀論文賞受賞者について報告があった。
第 26 回優秀論文賞(審査対象 第 54 巻掲載論文)
Effects of chronic alcohol use on mouse myocardial tissue Shuji Kozawa, Kazuya Ikematsu, Takehiko Murase and Masayuki Nata
(Department of Forensic Medicine and Sciences, Mie University Graduate School of Medicine)第 54 巻 1 号

6.定款の文言変更について

堀江理事より、定款の文言変更について説明があった。

  • シニア会員区分の追加
  • 代議員の名称を学術評議員に変更
  • 学術総会への文言の統一

一同で確認の結果、異議なくこれを承認した。

7.名誉会員、功労会員、シニア会員の規約について

堀江理事より、シニア会員、功労会員、名誉会員の規定について説明があった。一同で規約を確認し、異議なく承認された。

8.各委員会からの報告

委員会より、以下のような報告があった。

  • 総務委員会(宮田理事長)
    新代議員候補者について報告があり、一同確認の結果、異議なくこれを承認した。
  • 編集委員会(白石理事)
    2020 年は 13 編の投稿があった。既に掲載済の論文が 7 編、訂正中の論文が 5 編、不採択となった論文 1 編となっている。
  • 広報委員会(池田理事)
    ニューズレターを年 2 回(1 月と 6 月)発行した。また、ホームページに新着情報を 35 件掲載し、会員へ向けてメール配信を 10 件行った。
    国民向けに注意喚起を発行し、様々なメディアで紹介された。 また、日本学術会議が発行している「学術の動向」で学会紹介がされた。
  • 医療保険委員会(杠委員長が欠席のため宮田理事長より)
    次回令和 4 年度診療報酬改定にも、これまでに引き続いて ①アルコール関連疾患患者節酒指導料と②重度薬物依存症入院医療管理加算の 2 項目(概要を添付)を引き続き提案する予定である。①は精神神経学会と消化器病学会との共同提案、②は精神神経学会との共同提案を行う。
    肥前精神医療センターで行う本年度の「薬物依存症の集団療法に係る」研修はコロナウイルスの影響で中止。
  • 学術総会担当委員会(宮田理事長)
    本年度・来年度の学術総会だけでなく、2 年後、3 年後の学術総会に向け引き続きサポートを行っていく。
  • 専門医委員会(宮田理事長)
    E-learning による研修を開始し、現在受講者は 30 名程である。
  • 倫理 COI 委員会(白石理事)
    COI の在り方が変わってきているため、委員会にて内容の確認、修正を行うとともに、役員の先生方へ COI の依頼を行う。
  • 学術委員会(和田理事)
    特になし
  • 国際委員会(高田理事)
    年内に委員会の開催を予定しており、国際学会の開催状況を確認のうえ、今後について検討する予定である。
  • 柳田知司賞選考委員会(宮田理事長)
    柳田知司賞に 3 名の推薦があり、池嶋健一先生(順天堂大学 消化器内科)が選出された。
  • 優秀論文賞選定委員会(白石理事)
    委員会にて選考を行った結果、下記の論文が優秀論文賞に選出された。
    第 26 回優秀論文賞 (審査対象 第 54 巻掲載論文)
    Effects of chronic alcohol use on mouse myocardial tissue Shuji Kozawa, Kazuya Ikematsu, Takehiko Murase and Masayuki Nata (Department of Forensic Medicine and Sciences, Mie University Graduate School of Medicine)第 54 巻 1 号
    掲載は次の議題にて報告を行う。
  • ハームリダクション特別委員会(齋藤委員長)
    特になし

9.委員会の新体制について

宮田理事長より、委員会の新体制について説明があり、一同異議なく承認した。

10.2020 年会の経過報告

西谷年会長より、参加登録状況について、現在 286 名の登録があると報告があった。また、11 月 22 日(日)の 18:00 頃からオンライン交流会を開き、表彰式等を行う予定であると説明があった。続けて、プログラムの編成が終了し、シンポジウム・セッションが 11 個、一般演題が 55 演題、特別講演も予定しており、一部プログラムは後日オンデマンド配信を行う予定である補足した。

11.2021 年会の経過報告

廣中年会長より、12 月 17 日(金)18 日(土)19 日(日)に開催を予定しており、現在趣意書とポスターが完成し、企業に対して募金、協賛をお願いしていると報告があった。また、スポンサードシンポジウムを立案中であり、11 月 25 日 (水)にプログラム委員会を開催する予定であると説明した。アルコール関連問題学会が 12 月の上旬に運営会議を行う予定で、もしオンライン開催という結論になれば、AA 医学会としてどのような方法で開催するか検討する必要があると補足した。

12.その他

  • 2022 年度年会会長について宮田理事長より、白石理事が会長に就任することになったと報告があり、白石理事より挨拶があった。
  • 2020, 2021, 2022 年度の年間計画について(総務委員長)堀江理事より、今後 3 年間のスケジュールについて報告があり、一同で確認を行った。
以上

6.柳田知司賞を受賞して

池嶋健一
(順天堂大学大学院 医学研究科消化器内科学)

この度、日本アルコール・アディクション医学会(JMSAAS) の最高位賞である第 10 回柳田知司賞受賞の栄に浴し、理事長の宮田久嗣先生はじめ関係各位のご高配に深謝申し上げます。本賞は、旧ニコチン・薬物依存研究フォーラム理事長であられた柳田知司先生のご功績を讃えた表彰として創設され、JMSAAS の学術賞に制定されていますが、内科系領域からの受賞は今回がはじめてであり、大変光栄に存じます。

私は、順天堂大学医学部消化器内科入局以来、当時主任教授であった佐藤信紘先生(現、学校法人順天堂理事)の薫陶を受け、1994 年より 3 年半にわたりアルコール医学生物学の泰斗である米国ノースカロライナ大学薬理学の Ronald G Thurman 教授(物故)および、肝臓病学の俊英と目されていた 同大学内科学の David A Brenner 教授(現、カリフォルニア大学サンディエゴ校副学長)のもとで、アルコール性肝障害の病態生理および肝免疫・線維化の基礎研究に従事しました。当時、Thurman 教授のご指導のもと、アルコール性肝炎の発症・増悪メカニズムに関して、腸内細菌由来エンドトキシンと肝内マクロファージ(Kupffer 細胞)の関与や、障害の性差におけるエストロゲンの関与などについて研究し、この領域に足を踏み入れるきっかけとなりました。また、Brenner 教授のもとで分子生物学を駆使した肝線維化の研究など、当時の最先端を学べたことは、大変貴重な機会でした。順天堂大学医学部消化器内科に帰局後は、竹井謙之先生(現、三重大学教授)や渡辺純夫教授(現、順天堂大学特任教授)のご指導のもと、肝臓病の臨床に幅広く携わる傍ら、アルコール性肝障害に加えてメタボリックシンドローム関連の非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の病態研究を地道に続けてきました。中でも、レプチンに代表されるアディポカインの肝病態への関与を世界に先駆けて報告することが出来たことや、NASH における肝内自然免疫系の解析などを通して国際的に研究者間の交流が持てたことは、とても幸運でした。2017 年に現職に就任してからも、引き続きメタボリックシンドロームとアルコール関連肝疾患の病態連関や、腸内マイクロバイオームを標的とした実験治療アプローチなどの検討を、教室の仲間達と一緒に和気藹々と続けています。

アルコール・アディクション領域の学会活動を通じて、国際的な交流に力を注いできたことで、米国・ヨーロッパのみならず、アジア・太平洋地域にも多くの知古が出来たことは、本当に大きな宝です。国際アルコール医学生物学会議(ISBRA)には 1998 年のコペンハーゲン開催から今日まで 2 年毎の開催全てに参加しており、シンポジウムのオーガナイザーも数多く務めさせて頂きました。昨年はあいにく COVID-19 の影響で 米国ニューオリンズでの開催が延期を余儀なくされましたが、今年 6 月の米国 Web 開催でも欧米の仲間たちと一緒にシンポジウムを企画しています。アジア太平洋地域においても、2017 年より APSAAR の理事にご推挙頂き、2017 年(台北)および 2019 年(クアラルンプール)で JMSAAS とのジョイントシンポジウムのオーガナイザーを務めさせて頂いたのも貴重な経験です。欧州アルコール医学生物学会議(ESBRA)とも良好な関係を築いており、近年では 2018 年 ISBRA(京都)や 2019 年 ESBRA(フランス・リール)でのジョイントセッションをオーガナイズしました。また、第 39 回アルコール医学生物学研究会の会長を拝命し、2020 年 1 月に順天堂大学本郷お茶の水キ ャンパスで開催いたしましたが、それに付随して Ronald G Thurman Memorial Symposium 2020 を開催し、David A Brenner 教授や南カリフォルニア大学の塚本秀和教授、ピッツバーグ大学の Gavin E Arteel 教授はじめ、国内外のアルコール医学研究者を一同に会して研究交流を深めることが出来ました。 他方、日本抗加齢医学会の機関誌「アンチエイジング医学」の編集委員としても、アルコール関連の特集(2020 年 10 月号)を企画するなど、少しでも多くの方に当該領域への関心を高めるべく、広報活動にも努めております。

わが国では、内科系でアルコール・アディクション領域に関心を寄せる医師・医学者が少ないことが重大な問題であり、 JMSAAS としても内科系学会員の拡充と積極的な参加は喫緊の重要課題です。これまでも、この領域の研究興隆に微力を尽くしてきたつもりではありますが、改めて今後の牽引的役割を担う重責をひしひしと感じております。本賞の受賞を糧に、一層精進して参りたいと思いますので、何卒よろしくお願いいたします。

7.第 54 会学術総会優秀発表賞を受賞して

大宮宗一郎
(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所薬物依存研究部)

この度は、アルコール・アディクション医学会において優秀演題賞という名誉ある賞を受賞し、大変光栄に存じます。

私は、覚せい剤の自己使用経験を有する受刑者 699 名を対象に、薬物関連問題および飲酒問題を有する者を信頼感の観点から分析して報告しました。この研究は、法務省法務総合研究所が実施した「薬物事犯に関する研究」で得られた二次解析によるものです。DAST-20 の陽性群および AUDIT の問題飲酒群に該当した 180 名を分析した結果、自分への信頼感の低い者が外的引き金の項目に多数該当している一方、不信感の高い者が内的引き金の項目に多数該当していること、つまり、信頼感が向く対象によって引き金が異なる可能性があることが主な結果として得られました。この結果は、薬物関連問題および飲酒問題を有する受刑者の処遇にあたって、受刑者の特徴を踏まえたサポートを行うことの重要性を示唆するものと言えます。薬物依存からの回復には、「人とのつながり」が重要であることを踏まえると、この結果は大変興味深いものであり、今後は更なる分析を行い、処遇に資する提言につなげることができればと考えております。

現在は、NCNP の薬物依存研究部での研究に携わりながら、公認心理師・臨床心理士として刑務所、保護観察所、そして精神保健福祉センターで薬物依存回復プログラムを実施すると共に、上越教育大学の心理臨床コースの教員として後進の育成も行っております。これからも薬物依存の臨床と研究、そして後進の育成に励んで参りたいと思います。

最後になりますが、研究に対して示唆に富んだご助言を頂いている NCNP 薬物依存研究部の先生方、法務総合研究所の先生方、そして本研究に協力してくださった受刑者のみなさまにこの場をお借りして深く感謝申し上げます。

桑原祐樹
(鳥取大学 医学部 環境予防医学分野)

この度は、第 55 回日本アルコール・アディクション医学会学術総会において優秀演題賞を賜り、大変光栄に存じます。今回の学会では、「産業保健の現場における減酒支援ブリーフインターベンションの効果検証に関する研究」について発表しました。大学近隣の企業で AUDIT によりハイリスク飲酒者と判定された従業員の方々351 名を対象に無作為化比較試験を行い、飲酒量の変化に及ぼす簡易介入の効果を検証しました。半年後の評価では、介入群において有意な 1 週間当たりの飲酒量の減少(純アルコール 40g/週の減少)が確認されました。

現在の所属先では飲酒や喫煙に関する大規模な調査や研究活動に携わらせて頂いておりますが、私自身の飲酒をはじめとしたアディクションの学術分野での知識や経験はまだまだ浅いです。病院の内科医として勤めた期間の方が長いのですが、振り返ってみると頻繁に遭遇し、重要度も高いと気づいていながら飲酒の問題に対しての十分な支援や介入が出来ていなかったなと反省しております。アルコール関連問題の二次予防のためには医療現場での実践はもちろん、介入の場を広げることが課題です。減酒支援がさらに現場に普及していくためにも今回の研究成果は重要であると認識しております。引き続き丁寧な追跡を行い、成果を報告していきたいと思っております。

最後になりましたが、ご協力いただいております研究参加者の皆様と、日頃からご指導・ご支援をいただいております、久里浜医療センターの先生方を始めとした厚生労働科学研究班の先生方、鳥取大学医学部環境予防医学分野の皆様に心より感謝を申し上げます。

手塚幸雄
(国立病院機構琉球病院)

第 55 回アルコール・アディクション医学会学術総会において優秀演題賞を賜り、大変光栄に存じます。

リスクの高い飲酒者に対して簡易介入を行うことの有効性は広く知られており、HAPPY プログラムをはじめとする様々な簡易介入法が普及しています。一方で、尾崎らによる 2013 年の全国調査ではリスクの高い飲酒習慣を有する方は 1036 万人と推定されております。この 1000 万人を超える方々のうち、果たしてどれだけの方に簡易介入を行うことができているでしょうか。

時間の制約等により必ずしも気軽に簡易介入を行えていないのではないかと考え、「 超 」簡易介入 Ultra-Brief Intervention(以下 Ultra-BI)を開発いたしました。Ultra-BI はリスクの高い飲酒習慣を有する方に対して、30 秒以内の簡単なアドバイスと共にリーフレットをお渡しする、ごく簡単な介入方法です。

この度の学術総会では、その Ultra-BI の効果検証について発表させていただきました。準ランダム化比較試験により効果検証を行ったところ、Ultra-BI を行うことで 1 回の飲酒につき平均約 2 ドリンクの飲酒量低減効果が示されました。 Ultra-BI は多忙な医療従事者が短時間で数多くの方に行うことのできる介入方法と考えています。

Ultra-BI は依存症対策全国センターホームページ https://www.ncasa-japan.jp/docs/に資料として公開されております。よろしければ是非ご活用いただけると幸いです。

なお、Ultra-BI の開発ならびに本研究は、AMED 研究開発課題「アルコール依存症予防のための簡易介入プログラム開発と効果評価に関する研究」の一環として行いました。研究代表者の杠岳文先生、共演者の村上優先生、福田貴博先生をはじめ、ご協力いただいた皆様に、この場を借りて御礼申し上げます。

8.優秀論文賞を受賞して

小澤周二
(三重大学)

この度、日本アルコール・アディクション医学会優秀論文賞という栄誉ある賞をいただき、大変嬉しく感じております。TVドラマや小説の世界はともかく、法医学という地味な研究に携わる者として、望外の喜びと言う他ありません。拙論「Effects of chronic alcohol use on mouse myocardial tissue(慢性アルコール投与による心筋細胞への影響に関する検討)」をご評価いただいた優秀論文賞選考委員会の白石光一委員長はじめ委員の先生方、査読の労をお取り下さった諸先生、編集委員会の皆様に、心から感謝を申し上げます。

法医学の現場では、しばしばアルコール多飲者の突然死例に遭遇します。その多くは、アルコールの影響によって致死性不整脈が引き起こされた結果と推測されますが、詳細な機序は明らかでなく、診断に苦慮することが少なくありません。月曜日に発生数が多く、また休日の飲酒後に頻脈性不整脈を生じる holiday heart と言われる現象からも、アルコール性突然死と致死性不整脈との関連が示唆されますが、これも推定の域を出ず、アルコール性突然死の発症機構の解明は非常に重要な研究課題となっています。

また従来、1日 25g程度までのアルコールなら、循環器疾患や死亡率の低下をもたらすなどといわれていましたが、最近の研究では少量のアルコール摂取でも死亡との関連が指摘され、アルコール摂取と死亡との間には強い正の関連があることが報告されています。

そこで私たちは、アルコールが引き起こす致死性不整脈の法医学的診断法確立をめざし、慢性アルコール投与モデルマウスを用いた心筋細胞への影響を研究してきました。慢性アルコール投与マウスの心臓を摘出し、その心筋組織における遺伝子発現プロフィールを網羅的に解析し、その結果、慢性アルコール摂取によって遺伝子発現する分子の量が変わり、それが炎症反応やリモデリング、アポトーシスを引き起こし、アルコール性突然死へとつながることを解明しました。この論文が、アルコール性突然死の病態解明や法医学的診断法を検討する際の一助になることを願っております。

今回の受賞を励みに、今後は遺伝子発現変化を惹起するタンパク質の解析などにより、アルコールによる心筋細胞への影響を、さらに詳細に解明していきたいと考えております。今後も研究をさらに深め、少しでも学会に貢献できるよう日々精進していく所存です。最後になりましたが、日本アルコール・アディクション医学会の益々の発展を祈念し、受賞のご挨拶とさせていただきます。

9.新役員紹介

法人第二期の役員を紹介いたします。期日までにコメントをいただけた役員については、一言コメントも掲載しております。は新メンバー。

理 事 長
宮田 久嗣
理 事
池嶋 健一 池田 和隆 上村 公一
大熊誠太郎 岡村 智教 神田 秀幸
近藤あゆみ 白石 光一 白坂 知彦
高田 孝二 高野 歩 竹井 謙之
田中 増郎 西谷 陽子 樋口 進
廣中 直行 福永 龍繁 堀江 義則
松下 幸生 松本 博志 山田 清文
和田 清
監 事
成瀬 暢也 成田 年

【理事長】

宮田久嗣(東京慈恵会医科大学精神医学)

専門分野:
神経精神薬理学、臨床薬理学
担当委員会:
総務委員会、学術集会担当委員会、専門医委員会、ハームリダクション特別委員会、二学会合同学術委員会

【理事】

池嶋健一(順天堂大学大学院医学研究科消化器内科)

専門分野:
内科学(消化器内科)
担当委員会:
広報委員会、編集委員会、国際委員会

前期より引き続き JMSAAS 理事を拝命いたしております。消化器・肝臓病学が専門で、アルコール関連臓器障害、特にアルコール関連肝疾患の研究に取り組んで参りました。JMSAAS では国際委員・編集委員、広報委員として活動しております。日本消化器病学会・日本肝臓学会では、メタボリックシンドローム関連の非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)・非アルコール性脂肪肝炎(NASH)のガイドライン策定にも参画させて頂いております。また、竹井謙之先生の教授御退官に伴い、アルコール医学生物学研究会の運営委員長に就任いたしました。微力ながら、内科学の立場から本医学会の学際的発展に一層尽力していく所存ですので、ご指導ご鞭撻のほど何卒よろしくお願いいたします。

池田和隆(公益財団法人東京都医学総合研究所 依存性薬物 プロジェクト)

専門分野:
薬理学
担当委員会:
学術総会担当委員会委員長、総務委員会、広報委員会、財務委員会、倫理・COI 委員会、学術委員会

日本学術会議アディクション分科会委員長、国際神経精神薬理学会執行役員、AMED プログラムオフィサーなどとしても JMSAAS 内外での連携にお役に立てれば幸いです。

上村公一(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科法医学分野)

専門分野:
法医学、中毒学
担当委員会:
総務委員会、財務委員会

宮田理事長から理事長指名理事を拝命しました。委員会は前理事会から引き続き、総務委員会、財務委員会に所属します。専門分野は法医学で、法医解剖実務のかたわら、アルコールを含む薬毒物による細胞死の研究を行っています。アルコールは急性中毒による死亡のみならず、アルコール関連の事件・事故が多く、法医学でも重要な研究テーマです。私の担当する学会の財務は目立たないところですが、学会の安定的な学術活動を支える基礎的なしくみです。事務所の運営を含め、健全な財務を目指して、日本アルコール・アディクション医学会の発展に寄与したいと思います。よろしくお願いします。

大熊誠太郎(京都府山城北保健所)

専門分野:
薬理学
担当委員会:
編集委員会、優秀論文賞選定委員会

岡村智教(慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学)

専門分野:
公衆衛生学
担当委員会:
広報委員会委員長、学術総会担当委員会、倫理・COI 委員会、学術賞選考委員会/柳田知司賞選考委員会

公衆衛生分野からの理事を拝命しました岡村と申します。私の主たる研究領域は、脳・心血管疾患(心筋梗塞や脳卒中)を中心とした生活習慣病の予防であり、①発症要因の解明、 ②社会の中における予防手段の確立の二つを大きな目標としています。もともと飲酒と高血圧、脳・心血管疾患の関連についての疫学研究をしていたのがご縁でこの学会に関わるようになりました。近年は、公衆衛生学の間口が広いのを幸いとして、依存傾向のある生活習慣と疾病の関連にも着目して研究を進めています。また関連する研究成果を医学生や大学院生(医学研究科および公衆衛生修士)の教育や研究指導にも積極的に取り入れるようにしています。2017 年には「ポピュレーションリスクとしてのアルコール健康障害と依存症」というテーマで学術総会の主催をさせていただきました。まだまだ純粋な依存症の研究者としては発展途上なところがありますが、学際的な学会である本会にはとても魅力を感じています。学会の発展のために微力を尽くしたいと考えています。

神田秀幸(岡山大学大学院総合研究科公衆衛生学)

専門分野:
公衆衛生学
担当委員会:
総務委員会、編集委員会、学術委員会

平素より大変お世話になっております。この度、理事を拝命いたしました岡山大学公衆衛生学の神田秀幸と申します。これまで中高生の喫煙・飲酒全国調査研究班の一員として、15 年以上、公衆衛生学・予防医学の立場からアディクション問題に関わらせて頂いております。近年では、ギャンブルやインターネット使用、ゲーム障害など行動嗜癖の研究にも注力しております。依存症・行動嗜癖の健康問題の解決は一層必要性が増している状況にあり、当学会の役割が大きいことを痛感しております。当学会の役員に選出頂き、大変光栄に思います。当学会では、堀江義則先生のご指導のもと、総務委員会に所属しております。当学会の円滑な運営や、学際的・分野横断的な当学会の良さの充実に少しでも貢献できればと思っております。今後ともどうぞ宜しくお願いいたします。

近藤あゆみ(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 薬物依存研究部 診断治療開発研究室)

専門分野:
精神保健福祉
担当委員会:
広報委員会、倫理・COI 委員会、学術賞選考委員会/柳田 知司賞選考委員会

白石光一(東海大学医学部付属東京病院消化器内科)

専門分野:
内科学(消化器内科)
担当委員会:
編集委員会委員長、倫理・COI 委員会委員長、優秀論文賞選定委員会委員長、医療保険委員会

この度は、再度編集委員長の任をいただき新たに心の引き締まる思いです。当学会の質と品性を明らかにする学会誌が滞りなく多くの会員のみならず広くアルコール・アディクション問題に関連した皆さんへ届けられるように努めてまいります。第一に PDF 化についてはアーカイブも含めて今年度には実現する目標です。従来からの紙媒体の雑誌編集では激変する社会の必要性に迅速な対応ができません。すぐ検索出来て活用できるようになれば多くの読者ができて現在年間 20 件ほどの投稿も増加するものと期待しています。また、雑誌すべてのオンライン化は検討継続中です。オンライン出版社との連携など行っている他学会もありますが経費を考慮して時代に合わせていきたいと考えています。現在 PubMed から文字の電子化の問題で外れていますがその問題が解決できるよう皆様のご協力をお願いいたします。
日ごろから投稿論文の査読をお願いしている先生方には日常業務の多忙な中お願いばかりで恐縮しています。本学会誌の質の担保には最も大切なのが査読でありこれからもよろしくお願いいたします。
また、これまでに引き続いて倫理委員会委員長の務めをさせていただきます。倫理規定は当学会でも明文化していますが益々倫理に関する要求が厳しくなっています。当委員会は利益相反(COI)に関する規定作成と管理も行っています。他の学会や厚生労働省からの倫理指針を参考にして当学会の倫理規定の適正化、遵守に努めていきます。新たな理事会となり各理事の COI 管理、総会発表における COI と倫理、論文発表の COI と倫理など確認を行い今後も社会に認められ続ける学会活動ができるように委員会として活動してまいります。本学会の特徴は、医学系、社会学系など多彩な分野の集合であり研究活動の過剰な抑制にならないで COI、倫理規定が守られるようにしなければならず今後も会員皆様のご協力が不可欠です。ご意見をいただければ幸いです。

白坂知彦(手稲渓仁会病院精神保健科)

専門分野:
精神
担当委員会:
優秀論文賞選定委員会、国際委員会、ハームリダクション特別委員会

この度、日本アルコール・アディクション医学会にて理事を拝命させていただくことになりました。手稲渓仁会病院の白坂知彦(ともひろ)と申します。齋藤利和先生のもと FASD(胎児性アルコール症候群)モデルを用いた神経幹細胞移植療法における行動変化の研究で学位取得し、その後は実臨床の現場から、アルコール依存症を中心に認知機能と RI を用いた脳血流量の解析を行っています。また総合病院精神科における依存症治療の普及活動や、行政・教育機関と連携してゲーム障害の治療・啓発活動、また COVID- 19 の影響下おける依存症治療の現状について国際比較共同研究などに注力しております。また当学会では 2019 年の学術総会・札幌大会での企画・運営、ハームリダクション特別委員会での啓発活動、また、帝京大学高田孝二先生のご指導のもと、国際委員会に所属しております。国際学会参加の経験から WHO、 ISBRA、ISAM、APSAAR を始めとしたネットワークを生かして、当学会の国際化、プレゼンスの向上のお手伝いさせていただければと思っております。今後とも宜しくお願いいたします。

高田孝二(帝京大学文学部心理学科)

専門分野:
心理学
担当委員会:
国際委員会委員長、ハームリダクション特別委員会

高野歩(東京医科歯科大学 精神保健看護学 分野)

専門分野:
精神看護学、精神保健学
担当委員会:
広報委員会、ハームリダクション特別委員会

今期から理事を拝命いたしました、東京医科歯科大学の高野歩と申します。看護師として勤務した後、東京大学大学院精神看護学分野で学位を取得し、看護教員として勤務しております。主に ICT を活用した治療やハームリダクションについて研究しています。理事の中で唯一の看護職として、また女性という立場から、本学会の学際的な活動に貢献できればと思っております。どうぞよろしくお願い申し上げます。

竹井謙之(三重大学医学部消化器内科)

専門分野:
内科学(消化器内科学)
担当委員会:
学術集会担当委員会、編集委員会、二学会合同学術委員会

田中増郎(公益財団法人慈圭会慈圭病院)

専門分野:
臨床精神医学
担当委員会:
広報委員会、専門医委員会

この度新理事に就任いたしました田中増郎です。精神科単科病院で臨床医をしておりまます。近年の傾向として、物質依存症を抱える患者様は比較的軽症である場合が多いと思います。しかし、物質使用障害の症状は軽度であっても、起因となっている生きづらさには根深いものがあり、その回復のお手伝いには難渋しております。他にも、行動嗜癖や行動制御障害を抱える患者様の受診の増加や高齢者のアルコール問題など、対応すべき諸問題が多様化してきている印象です。最近の話題では、この 1 年間は院内の新型コロナウイルス感染症対策に時間を割いており、この学会員の先生方にも直接連絡させていただき、多くのお知恵を拝借いたしました。学会で培われた人脈から多大な恩恵をいただきました。この場を借りて御礼申し上げます。
今後の役割については、従来の広報委員会の委員とともに、主に専門医制度委員会の委員長の役割を拝命しております。内科や総合内科、精神科など幅広い領域での専門医及び認定医制度の樹立を模索するつもりです。今まで多くの先生方にご助力いただいておりましたが、今後もより一層ご指導ご鞭撻をよろしくお願いいたします。

西谷陽子(熊本大学大学院生命科学研究部環 境社会医学部門環境生命科学講座法医学)

専門分野:
精神看護学、精神保健学
担当委員会:
優秀論文賞選定委員会、国際委員会、二学会合同学術委員会

このたびは理事という大変名誉な立場にご指名いただき誠にありがとうございました。私は平成 10 年に京都大学卒業後に、京都大学医学部法医学教室の大学院生として進学をいたしました。当初法医学という漠然とした興味で大学院に進んだのですが、その中で故福井有公先生ならびに現大阪大学法医学教授である松本博志先生の元で、アルコールの研究を開始することとなりました。研究としましては、初代培養肝細胞を用いた細胞内情報伝達系の研究を細々としてまいりました。法医学領域におきましては、亡くなられた方が飲酒をしていることや飲酒・薬物に関わるトラブルを抱えていることも大変多く、アルコールや薬物は重要なキーワードとなっております。本学会に、法医学の側面より貢献できればと思っております。若輩者ではございますがご指導ご鞭撻賜りますようお願い申し上げます。

樋口進(国立病院機構久里浜医療センター)

専門分野:
臨床精神医学、依存医学
担当委員会:
二学会合同学術委員会

廣中直行((株)LSI メディエンス)

専門分野:
心理学
担当委員会:
総務委員会、財務委員会委員長、広報委員会、学術集会担当委員会、編集委員会、学術賞選考委員会/柳田知司賞選考委員会、学術委員会

福永龍繁(科学警察研究所)

専門分野:
法医学
担当委員会:
医療保険委員会、編集委員会、学術委員会

堀江義則(湘南慶育病院内科・消化器内科)

専門分野:
消化器内科
担当委員会:
総務委員会委員長、編集委員会、専門医委員会、学術賞選考委員会/柳田知司賞選考委員会、優秀論文賞選定委員会、学術委員会、二学会合同学術委員会

新役員に選出されました堀江です。役員は 2 期目ですが、この度宮田総務委員長が理事長に就任されたことを受け、総務委員を長く勤めていたこともあり、総務委員長を拝命いたしました。法人化後に提起された問題がやっと解決に向かい始め、安定した学会運営が軌道に乗り始めたところかと思います。現在、制度面などで改訂が行われた部分につき、定款や細則の改訂作業を続けております。また、厚生労働省のアルコール健康障害対策関係者会議の委員を務めさせていただいていますが、来年度から基本計画が 2 期目に入り、一般医療機関の医師や医療従事者向けのガイドラインの策定や研修が始まることとなっております。アルコール医療における当学会の役割はさらに増すものと考えています。専門医の立ち上げや飲酒量低減薬の適正使用の問題解決も任期中に成し遂げたい所存です。

松下幸生(国立病院機構久里浜医療センター)

専門分野:
精神医学、アルコール依存、ギャンブル障害、認知症
担当委員会:
財務委員会、医療保険委員会、編集委員会、専門医委員会

松本博志(大阪大学大学院医学系研究科法医学)

専門分野:
薬物依存症の治療・臨床研究
担当委員会:
医療保険委員会、編集委員会、学術賞選考委員会/柳田知司賞選考委員会

山田清文(名古屋大学大学院医学系研究科医療薬学医学部附属病院薬剤部)

専門分野:
薬理学
担当委員会:
財務委員会、編集委員会、専門医委員会、学術賞選考委員会/柳田知司賞選考委員会

和田清(埼玉県精神科医療センター)

専門分野:
精神医学
担当委員会:
学術委員会委員長

学術委員会委員長を再度引き受けることになりました。ポピュリズムが進行する中で、アカデミズムからの発信が相対的に弱くなっています。その中で、「フェイク(Fake)」という言葉が日常化しました。「依存」と「嗜癖(アディクション)」の混乱もその中の一つです。この問題については、第 55 回学術総会にて、シンポジウムを組ませていただきました。この問題以外にも、規制薬物のプロドラッグの医薬品化、大麻規制の検討など、社会での動きは急です。本委員会では、これらの動きをにらみながら、正しい知識の共有・普及を図りながら、本学会のアカデミズムの「底上げ」を続けたいと考えています。

【監事】

成瀬暢也(埼玉県立精神科医療センター)

この度、当学会の監事をさせていただくことになりました成瀬と申します。私は、埼玉県立精神医療センターに30年勤務しており、平成7年から依存症の臨床に携わってきました。誤解と偏見に塗れた依存症が、一般の精神科で当たり前に適切な治療を受けられるようにしたいとの思いで、これまで学会などで実臨床の立場から治療に関する提案などをしてきました。当学会では、ハームリダクション特別委員会にも入れていただきました。ハームリダクションの人権に配慮した支援のスタンスは、これからの依存症治療・支援に重要なことを示していると思っています。依存症に対する誤解や偏見、スティグマを解消するために、正しい情報を発信することも学会の重要な役割であると考えております。
宮田理事長のもと、少しでも当学会のお役に立てるよう微力ながら尽力したいと考えておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

成田年(星薬科大学薬理学研究室)

微力ではありますが、本会並びに本会員の皆様のために真摯に取り組む所存です。ご指導の程、宜しくお願い申し上げます。


10.施設紹介(さいがた医療センター 佐久間寛之)

佐久間寛之
(国立病院機構さいがた医療センター
依存症治療部門)

国立病院機構さいがた医療センター(以後、当院)は、新潟県上越市に位置する精神科・神経内科・重度心身障害の病院です。病床数 296、精神科病床は 134 床と、決して大きな病院ではありません。新潟県は南北に長く、ここ上越市は県庁所在地である新潟市からは 120 キロも離れており、どちらかと言えば長野市に近い(約 80 キロ)海沿いの町です。豪雪地帯としても知られ、この冬は 240 センチの積雪を記録しました。もともと当院には一定数の医師がいたのですが、医師不足の波を受けてみるみる減少、2017 年には常勤精神科医がほぼゼロという深刻な状況になりました。そのため村上優先生と私が 2018 年 4 月に精神科再建のため着任、同年 8 月より依存症診療部門サイダット( Sai-DAT; Saigata Division of Addiction Treatment)を立ち上げました。

サイダットの背景理論の中核は、Khantzian の自己治療仮説とその発展型である小林桜児の信頼障害仮説です。依存症を、他者を信頼できないために心的苦痛を自己治療するしかなく、そのために物質依存や行動嗜癖をせざるを得なかった病と仮定すれば、単にストレスコーピングスキルや疾病教育を行っても効果は限定的です。私たちはこころの痛みへの共感、他者や自分を信じる感覚の涵養を治療の骨子としました。また自己治療仮説、信頼障害仮説を基礎とすれば、アルコールやギャンブルと言った依存の表現型のちがいを超えて、共通したプログラムを行うことが可能になります。

チームのもう一つの柱として、動機づけ面接法と変化のステージモデルの理念を採用しました。私たちはクライアントを「変わらない人」ではなく「変わる準備のできていない人」ととらえ、直面化を避け、治療同盟の構築を心がけています。また私たちは依存行動を止めるのはゴールではなく、通過地点の一つだと考えています。その先にあるものを一緒に探していくことが肝要だと考えています。ですので患者さんに、酒をやめろ、ギャンブルをやめろと言いません。そうではなく、人と関わること、つながることの心地よさをどう感じてもらうかを考えています。

また環境要因もたいせつな治療のリソースです。居心地の良いリラックスした環境の中でこそ、人は安心して自己開示できます。そのためミーティングルームをカフェに改造し、ダウンライト、ソファ、ハンドドリップコーヒー、そして音楽を用意しました。患者さんに落ち着いたカフェでソファに身を沈めコーヒーを飲みながら、依存症に傷ついたこころを休めていただきたいと思っています。プログラムもヨガや筋トレ、夏場は海辺に夕日を見に行ったりと、体験型のプログラムを重視しています。

現在、とても明るい雰囲気で治療グループが運営されています。スタッフと患者さんとの摩擦もごくわずかで、スタッも患者さんも一体となってプログラムを楽しんでいます。今後は、患者さんをいかに自助グループにつなげるかが課題です。日本で一番新しい依存症治療チーム、見学は随時受けつけています。皆さまのお越しをお待ちしています。

11.研究室紹介(筑波大学大学院人間総合科学学術院人間総合科学研究群カウンセリング学位プログラム、カウンセリング科学学位プログラム)

前列左から 2 番目が筆者
原田隆之
(筑波大学人間系教授)

筑波大学は令和 2 年度に学位プログラム制に移行し、大学院等の教育組織も大幅に改編されました。筑波大学は筑波キャンパスのほか、東京にもキャンパスがあり、私は東京キャ ンパスで勤務しています。東京キャンパスの大学院は、社会人を対象とした夜間大学院であり、さまざまな分野で活躍する社会人が、仕事をしながら研究を進め、学位の取得に励ん でいます。

私が筑波大学に異動してからまだ日が浅く、卒業生や学生もまだ多くはありませんが、令和 2 年度は大学院生 1 名、学部学生 2 名、事務スタッフ 1 名という構成です。令和 3 年度は 3 名の大学院生と 1 名の研究員を新たに迎える予定です。令和 2 年度には当研究室からの博士第 1 号として、久里浜医療センターの三原聡子先生がゲーム障害の治療に関する研究で無事学位を取得されました。

当研究室では、臨床心理学分野(主に司法領域)の研究をテーマとしており、必ずしもアディクションに関連した研究のみにフォーカスしているわけではありません。これまでの卒 業生をみても、社会人大学院の場合、家庭裁判所、保護観察所、医療機関などで勤務する現役の専門家が在籍されていました。また、学部ではこれらの分野での就職を希望する学生 が多く志望されます。

アディクション分野の研究としては、物質使用障害のみならず、新しい行動嗜癖に関しても、認知行動療法を始めとする治療プログラムの開発、評価研究などを主に実施していま す。最近では、エビデンスのある治療法をいかに現実場面で効果的に実践するか、つまり「研究と臨床のギャップを埋める」ための方法について研究を進めているところです。行動 嗜癖に関しては、先述のゲーム障害に加え、わが国ではほとんど専門家のいない性的な行動嗜癖に関しても精力的に研究と実践を進めています。

さらには、国際協力機構(JICA)から委託されたプロジェクトとして、「科学的根拠に基づく薬物依存症治療プログラム導入プロジェクト」を 2017 年から実施しています。プロジェクトでは、国内支援委員会、リサーチ・ワーキンググループ、テクニカル・ワーキンググループを組織し、さまざまな国内外の研究者、専門家、当事者らの多大な協力を得ながら活動しています。これまで現地での疫学的調査、アセスメントツールや治療プログラムの開発、研修モジュールの開発などが終了し、現在臨床試験を開始するところまでとなりました。

フィリピンでは大きく報道されたように、薬物使用者に対する非人道的な行為が横行しています。これらを防止するため、人権に最大限配慮し、効果的な治療と支援が提供できる ように日々努力しているところです。そのために、WHO、UNODC、 EU、USAID などとも緊密な連携を取りながらプロジェクトを遂行中です。

コロナ禍のなかで、昨年以降、残念ながら研究指導や授業はほぼオンラインという形になりました。学位論文の審査もオンラインで実施せざるを得ませんでした。フィリピンにもほぼ 1 年間行くことができない状況が続いており、臨床試験も中断を余儀なくされています。しかし、今できることを模索しながら、少しでも研究やプロジェクトを前進させるべく努力を継続中です。引き続き、本学会会員の先生方からのご指導ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。また、社会人として働きながら、学位を取得したいというご希望のある方からのご連絡もお待ちしております。

12.編集後記

岡村智教
(慶應義塾大学 医学部衛生学公衆衛生学)

依存症の問題は、ニュース的では麻薬や覚せい剤が大きく取り上げられることが多いのですが、日常的な嗜好品であるお酒やタバコも使用者の人数(分母)が多いため、日本人集団全体への影響は計り知れない大きさがあります。現在、コロナ禍でこれらの嗜好品の使用状況については二極化していると考えられます。すなわち在宅勤務の増加や外出機会(飲食店の利用など)の減少に伴って飲酒機会や喫煙本数が減った人と、逆に在宅のストレスなどでこれらが増えた人の割合が、それぞれ大きくなっている可能性があります。後者はアルコール依存症の増悪などで報道されることもあると思います。バブル崩壊以降、日本人集団内での格差が広がり、近年さらにその傾向が大きくなりつつあります。これは健康面でも例外ではありません。またネットなどでは健康弱者を本人の自己責任として攻撃的にふるまう投稿も目につきます。依存傾向は、生まれつきや生育環境など本人の努力だけでは解決できないことも多く、医療的・社会的な支援が必要です。本学会の使命はまさにその点にあると考えています。このことは、今回は新しく理事長になられた宮田先生のご挨拶にも記載されていると思います。またコロナ下の情勢下では学術総会の開催に多大な困難が伴いますが、2020 年度の総会も盛会のうちに無事に終わり、2021 年度の総会の準備も着々と進んでいることはたいへんうれしく感じます。新任の理事の先生方も加わり、今後、本学会がますます発展することを感じています。