4-1号 (2015年6月)

1. 日本アルコール・アディクション医学会への
統合に向けて

宮田久嗣
(東京慈恵会医科大学 精神医学講座)

平成 28 年(2016 年)4 月 1 日をもって本学会(日本依存神経精神科学会)は、日本アルコール・薬物医学会と合併し、新たな学会(日本アルコール・アディクション医学会:Japanese Medical Society of Alcohol and Addiction Studies:JMSAAS)になります。

思えば、本学会も、平成 24 年(2012 年)9 月 6 日にニコチン・薬物依存研究フォーラムと日本アルコール精神医学会が合
併してできたものです。約 3 年半で、その役割を終えることになりますが、あまり寂しさを感じないのは、私だけではないように思います。というのも、「依存」、「アディクション」という大きな潮流の中で、本学会はその中心的役割を確実に果たしてきたからです。

この二回にわたる合併は、何よりも齋藤理事長の強力なリーダーシップがあって初めて可能になったことですが、行動のアディクションや危険ドラッグなど「依存」や「アディクション」を巡る社会的ニーズが高まったことも大きな原動力になった気がします。

物質と行動のアディクションが病態として同じかどうかという議論は別にしても、両者で同じ治療法が使えることから、類似のものとして考えて良いのではないかという議論が治療の現場から上がったことは意味があることだと思います。

物質から行動まで、まさに多様なアディクションを巡って様々な分野の人達が議論を交わすことは、研究の面でも治療の面でもとても意味があります。

さらに、来年の 4 月に合併する日本アルコール・薬物医学会には内科、法医学、公衆衛生など、われわれの学会にはない分野の方達が多くいらっしゃいます。このことは、アルコール依存一つをとっても、その障害は精神、身体、社会と様々な分野に及ぶことから、心身にわたってこの疾患を理解するうえで大きな力になります。

一方で、行動のアディクションは、物質に比べてより自然報酬に近い特徴を持つことから、脳科学の観点からも極めて興味深いといえます。薬理学、心理学、神経科学、神経画像などの分野の先生方に期待します。
その他、本学会は様々な社会的役割を果たしてきました。まず、若い世代の育成のため、国際学会での発表や交流の場を積極的に企画、援助してきました。また、齋藤理事長や樋口理事を中心にしてアジア環太平洋アルコールとアディクション医学会( Asian-Pacific Society for Alcohol and Addiction Research:APSAAR)を設立し、アジアにおける中心的役割を果たしています。その他、ISBRA(会長は齋藤理事長)や ISAM(会長は樋口理事)などの国際学会を日本で開催するために協力してきました。

さらに、「アルコール健康障害対策基本法」の制定に多くの先生方が尽力されてきました。このような活動は、新しい学会になっても継続されます。本学会と日本アルコール・薬物医学会は過去 5 年間以上(本学会の前身も含めて)、合同で学術総会を開催してきました。統合に際しては、両学会で委員会を組織して入念な準備をしてきました。その意味では、二つの学会の合併はスムーズに行われ、より大きな活動の場になるものと確信しております。会員の先生方におかれましては、新学会(日本アルコール・アディクション医学会)においても、何卒宜しくお願い申し上げます。

2. 2015 年度年会のご案内

第 27 回日本依存神経精神科学会
会長 曽良 一郎
(神戸大学大学院医学研究科精神医学分野 教授)

第 50 回日本アルコール・薬物医学会、第 37 回日本アルコール関連問題学会、第 27 回日本依存神経精神科学会の合同学術総会を、平成 27 年(2015 年)10 月 11 日(日)~10 月 13 日(火)に神戸国際会議場にて開催させていただきます。開催期間が以前にお知らせした 10 月 12 日(月)~10 月 14 日(水)から一日、前倒しの日程に変更されていますので、ご注意願います。

3 学会が合同で学術総会を開催するのは平成 24 年の札幌大会、昨年の横浜大会に次いで3回目になります。なかでも、日本アルコール・薬物医学会は 50 年目の節目を迎えますので、今回は3 学会が合同で、50 周年記念大会として開催いたします。

本学会では、このようなわが国のアルコール研究の歴史を振り返りつつ、次の 50 年への方向性を模索するために、学会のテーマを「温故知新:アルコール・薬物研究 50 年の歩みと未来への展望」とさせて頂きました。今回は、温故知新をテーマに、3 学会が合同してアルコール研究の全般を網羅する数多くの企画を用意させていただきました。基礎医学、臨床医学、心理学、精神保健、リハビリテーション、地域や自助グループの支援者など多くの領域の専門家が一堂に会して、活発な討議を行っていただきたいと思います。

神戸は、平安時代から大輪田泊・福原の都として栄えていました。歴史ある町、神戸で開催される 50 周年記念合同学術総会に是非ご参加を賜りたいと存じます。本学会にご参加いただくついでに、神戸ビーフや中華料理などもご堪能いただき、神戸の良さを満喫いただければ幸いです。

【開催概要】

名称:
平成 27 年度アルコール・薬物依存関連学会合同学術総会
第 50 回日本アルコール・薬物医学会
第 37 回日本アルコール関連問題学会
第 27 回日本依存神経精神科学会
会議のテーマ:
温故知新~アルコール・薬物研究 50 年の歩みと未来への展望~
会期:
2015 年 10 月 11 日(日)~13 日(火)
http://www.convention-w.jp/j-andac2015/
会場:
神戸国際会議場

プログラム案

特別講演:
Dopamine transporter as drug targets (tentative)
Prof. Ulrik Gether(University of Copenhagen)
教育講演:
  1. 薬物依存と脳科学研究 (仮題) 鍋島 俊隆先生(名城大学 薬学部)
  2. 慢性疼痛とオピオイド依存 (仮題) 鈴木 勉先生(星薬科大学)
  3. ニコチン依存と喫煙 (仮題) 高田 孝二先生(帝京大学)

シンポジウム

  1. 「危険ドラッグはどうなった?乱用実態・危険性・その検出」
  2. 「精神刺激薬によるドパミン作動性神経のホメオスタシス破綻への調節メカニズム」
  3. 「医療観察法におけるアルコール・薬物問題」
  4. 「心理学的視点から見た,依存症の一次予防」
  5. 「ドーパミンと精神機能の新たな関係」:
  6. 「DSM-5:依存から使用障害・嗜癖-どう考えるか-」
  7. 「薬物依存の神経回路・細胞内シグナル伝達」:
  8. 「依存・嗜癖と意思決定」
  9. 「薬物依存の分子遺伝学」
主催:
第 50 回日本アルコール・薬物医学会
会長 西口修平(兵庫医科大学 内科学肝胆膵科 教授)
第 37 回日本アルコール関連問題学会
会長 堀井茂男(公益財団法人慈圭会慈圭病院 院長)
第 27 回日本依存神経精神科学会
会長 曽良一郎(神戸大学大学院 医学研究科 精神医学分野 教授)
平成 27 年度アルコール・薬物依存関連学会合同学術総会 運営事務局
〒701-0205 岡山県岡山市南区妹尾 2346-1
TEL:086-250-7681 FAX:086-250-7682
E-mail:j-andac2015@wjcs.jp

3. 統合前企画:第三回統合委員会記録

廣中直行
(LSI メディエンス)

日本依存神経精神科学会(以下、当学会)と日本アルコール・薬物医学会(以下、アル薬)との統合は秒読みの段階に入った。当学会の名前を冠した学術総会は今年度の神戸(曽良一郎会長)で最後となり、来年度はいよいよ「日本アルコール・アディクション医学会」(以下、新学会)の第一回年会が開かれる。

改めて言うまでもないが、お互いに歴史を積み重ねてきた二つの学会が統合するのは大変なことである。そこで両学会の総意を得た上で、統合委員会が議事の全権を委託され、この委員会で決した事項はそのまま両学会の決定事項となるのであった。それゆえ、統合委員会は両学会の立場を踏まえたうえで慎重に進めなくてはならなかった。

統合の仕上げに向けて、2015 年 4 月 27 日、これまで二回の統合委員会の決議を受け、細部の調整を行う目的で第三回目の統合委員会が東京で開催された。出席者(敬称略)は両学会の理事長である齋藤利和、当学会から池田和隆、宮田久嗣、廣中直行、アル薬側から大熊誠太郎、白石光一、藤宮龍也、松下幸生の各委員であった。

統合検討会では、新学会スタートまでのロードマップ上で具体的な方策が討議された。主な議題は、①理事の選出法、②事務局の統合法、③新学会の会則・細則の細部の見直しであった。理事の選出にあたっては、会員の専門領域を考慮し、事業の継続性と革新性を担保するため、4 年任期の理事を 2 年毎に半数改選することが確認された。事務局は京都府立医大に置くこととし、東京の毎日学術フォーラムと連携して事務を分掌することとした。新学会として積極的な国際対応を推進して行くことも確認された。

両学会の統合は文字通りスタートであり、ゴールではない。これからの運営の中で数々改善を要する点も出てくるであろう。各位のご支援をお願いする次第である。

4. 国際委員会より

国際委員会委員長 高田 孝二
(帝京大学 文学部)

本学会は、我が国のアディクションサイエンス関連研究分野の発展を目指すとともに、若手研究者の国際学会における発表の手助けをし、世界で通用する研究者を育成することを会の大きな目的のひとつとしている。ここでは、改めて関連国際学会の開催予定や紹介をし、多くの若い先生方や、その指導にあたられる先生方のさらなる参加・発表を促したい。

1 . 4th Asia-Pacific Society for Alcohol and Addiction
Research (APSAAR) Conference,

8 月 18-21 日、シドニー、オーストラリア
(https://ekiddna.eventsair.com/QuickEventWebsitePortal/4th-apsaar-5th-idars-conference/event-info-site)

今回は第 5 回 International Drug Abuse Research Society Conference (IDARS ; http://www.idars.org/index.html )
との合同開催である。

IDARS は MJ Kuhar 博士(米国ヤーキス国立霊長類研究センター(エモリー大学))を President として 2006 年に発足した。IDARS チャーターによれば、この会は、1)物質乱用の理解の推進、2)この分野の各国の研究者の出会いの場の提供、3)物質乱用予防と治療を目的として行われるすべてのレベルの研究の統合、4)アディクションサイエンス教育の振興、5)アディクションサイエンス関連研究の結果とその意味するところの一般市民への情報提供、を目的としている。

ただし、ベースは基礎研究であり、今回のシドニー大会は、地域(・文化)特性を考慮した治療・予防をも包含する APSAAR との非常に面白い、有意義な組み合わせと言える。今回の合同年会は、第 4 回 APSAAR を主催する P Dodd 博士がこの会の設立時以来の理事でもあるところから実現したものと推察している。なお、IDARS の現 President は、NIAAA (米国立アルコール乱用・依存症研究所)ディレクターの GF Koob 博士である。

2.4th Congress of Asian College of Neuropsychopharmacology,

11 月 20-22 日、台北、台湾
( http://www.wpaic2015.tw/AsCNP/index.html ;http://www.wpaic2015.tw/ )

AsCNP は、ACNP、ECNP に続くものとして 2008 年に広島大の山脇博士を President として発足した。また、本学会広報・編集委員会委員長の池田理事が Secretary を勤めるなど、本学会との関係も深い。今回の台北での会は、世界精神医学会(World Psychiatric Assoc. International)、4th Asian Congress of Schizophrenia Research との合同で開催される。また、台湾精神医学会の年次総会も組み込まれており、近隣諸国研究者との出会いはもとより、アジアにおけるこれら研究・臨床領域の世界の中での「立ち位置」を把握する上でまたとない機会のように思える。

上記いずれの学会も抄録受付締切は 6/15 で、このニューズレターでは間に合わないかと思います。が、再延期の可能性も考え、ウェブサイトをチェックいただければと思います。

あと、来年開催ですでにウェブサイトが立ち上げられているも の と し て 、 第 30 回 CINP ( International College of Neuropsychopharmacology)を紹介しておく。

3.30th CINP World Congress of Neuropsycopharmacology,

2016 年 7 月 3-5 日、ソウル、韓国(http://www.cinp2016.com/ )。

このウェブサイトの”Dates to Remember”記載の各種デッドラインは、登録開始と事前登録やポスター抄録の第一回締切日が来年 2 月の同じ日になっているなど、まだ未整備の部分はあるが(アクセス日: 6/14/2015)、時間は充分にあるといえる。アディクションサイエンス分野からの応募を大いに期待したい。

最後に雑感であるが、最近、とりわけ近隣諸国との間にギクシャクとした感情のもつれが目立つように思われる。が、学会においては、そのようなギクシャクを感じたことは、少なくとも私にはない。もちろん、学問を離れて、こころに(情動面で)「国境」を持つ人はいる。教育のなせる業というのか、幼いころから言い聞かされてきたことは情動面に組み込まれ、上位中枢ではその奔出をとめられないのかなどと考え込んでしまうことはある。しかし、「学問に国境はない」とは陳腐な言いまわしであるが、それが科学、あるいはエビデンスというものの本質であろう。他国人、あるいは他人種に抵抗を覚える方がおられるかもしれないが、「百聞は一見にしかず」という、これまた陳腐な言い回しであるが、実際に行き、「一見」すればたちどころに頓悟できてしまうことは多い(Youtube ではだめです)。こころに国境を作らないためにも、また、そのような子供たちをつくらないためにも、大いに国際学会に参加・発表し、実体験を重ね、それを多方面にフィードバックしていただきたいと切に願う次第である。

5. 賞選考委員会より

賞選考委員会委員長 樋口 進
(独立行政法人 国立病院機構久里浜医療センター)

会員の研究活動や海外での活躍を促進・支援するは本学会の大きな使命の一つです。特に、若手研究者の海外学会での発表や国際交流を促進するために、本学会は支援の枠組みを拡大してきています。しかし、このような情報が会員に周知されていないためか、学会が設定した各賞に対する応募が少ない状況にあります。

そこで、本ニューズレターにおいて、最近の受賞実績や、応募状況を改めてお知らせします。

1. 柳田賞

柳田知司賞はニコチン、アルコール、薬物依存関連分野で独創的、飛躍的な業績をあげ、この領域における研究の発展に大きく貢献した会員に授与されます。2011 年に第 1 回の受賞者を輩出し、昨年の第4回は、東京都医学総合研究所の池田和隆先生が受賞しています。

今年度も、第 5 回柳田賞を募集していますが、6 月 8 日現在、応募がない状況です。応募締め切りは、2015 年 7 月中旬です。会員におかれましては、該当する候補者の推薦をよろしくお願いいたします。

2. 国際学会参加奨励賞(若手研究者対象)

本学会では、以前から CPDD (College on Problems of Drug Dependence)に参加する若手研究者に奨励賞を出しています。既述のとおり、本学会の若手研究者育成の使命を踏まえ、同様の賞を他の関連学会にも拡大してきています。国際委員会と協議し、賞の応募要項が決まり次第、随時ホームページにアップしますので、ご希望の方はご申請をよろしくお願いたします。

【報告】CPDD 奨励賞 2015 年度受賞者

本年は残念ながら受賞者なしとなりました。

6. 学会印象記:ISAM2014
~9 名のシンポジウムオーガナイザーより~

●①廣中直行(LSI メディエンス)●

安倍首相のメッセージで幕を開けた第 16 回国際嗜癖医学総会(ISAM)は、2014 年 10 月 2 日から 6 日にかけて横浜で開催された。この総会は文字通り依存・嗜癖問題に関わる世界の研究者、臨床家が集まる盛大な会であった。ロビーには華麗な生花が盛られ、お茶の野点もあり、海外からのゲストに「日本」を感じてもらう良い機会でもあった。

この総会で、筆者は慈恵医大の宮田久嗣教授と共に「嗜癖と意思決定」と題するシンポジウムを企画した。嗜癖対象への接近は意思決定のバイアスであり、物質や行為への耽溺を通じて意思決定はさらに偏って行く。意思決定は神経科学では重要なトピックだが、これまで嗜癖・依存問題との関連で取り上げられたことはなかった。

今回は国内外から 3 名のゲストを招聘した。ただし、このうち韓国高麗大学の Hackjin Kim 准教授が旅程の都合で来日できず、演者がすべて日本人となってしまったのが残念であった。
講演は福島県立医大の西澤佳代助教、筑波大学の設楽宗孝教授、名古屋大学の大平英樹教授にお願いした。このお三方はそれぞれイムノトキシン感受性ラットにおける局所ドパミン神経機能の研究、サルの報酬期待に関する電気生理学的研究、ヒトの脳機能イメージングによる不確実な事態での意思決定の研究を精力的に行っておられ、世界をリードする研究者である。比較的小規模なシンポジウムではあったが、国外の聴衆も多く、活発な討論が行われた。

シンポジウムを企画して感じたことは、依存・嗜癖研究の深みと広がりを実現するために神経科学や心理学の力が必要だということであった。事前の情報共有と準備は十分に行ったつもりであったが、臨床的意義をもっと掘り下げる機会があればなお良かった。ともあれこのシンポジウムはある種の起爆剤であり、これがきっかけになって依存・嗜癖研究に意思決定という新たな視点が生まれれば良いと思う。

事務的な運営には何の問題もなく、直前の演者交替にも速やかに対応していただいた。今回の ISAM は世界の研究者・臨床家に深い印象を与えた。この機会を作られた樋口進大会長ならびに実行委員各位に深く感謝する。

●②橋本謙二(千葉大学社会精神保健教育研究
センター)●


写真の説明:座長の趙敏教授(上海交通大学)と橋本謙二

今回、中国上海交通大学医学院附属上海市精神衛生センターの趙敏教授(写真右)と一緒に、アジア太平洋地区における薬物乱用や依存の現状についてのシンポジウム(Substance abuse in the Asia-Pacific regions)を企画した。筆者(写真左)が所属する千葉大学社会精神保健教育研究センターは、2011 年に上海交通大学医学院附属上海市精神衛生センターと部局間協定を締結しており、薬物依存に関する国際共同研究を実施している関係で、今回のシンポジウムを企画した。

最初に、わが国から医療法人同和会千葉病院(千葉市船橋市)の谷渕由布子先生から、日本における薬物乱用の実態、問題点などについて講演された。谷渕先生は、国立精神・神経医療研究センター病院(東京都小平市)の薬物依存外来で臨床業務にも携わっておられ、最近の危険ドラッグの状況にも言及された。
二番目の演者は、韓国の Chungbuk National University 医学部精神科の Alfreda Stadlin 教授で、オーストラリアにおける重症のアルコール患者の遺伝子研究について、講演された。最後の演者は、上海交通大学の趙敏教授と一緒に研究されている若手の钟娜(Zhong Na)博士が、中国における薬物乱用の現状と覚せい剤依存症患者の認知機能障害や脳画像所見など最新のデータについて講演された。

今回のシンポジウムは、座長の私以外はすべて女性であり、海外では薬物依存の研究分野では、女性が活躍していることを実感した。米国薬物乱用研究所(NIH/NIDA)の所長である Nora Volkow 博士も女性である。谷渕先生は、薬物依存の臨床・研究に関わっておられる数少ない精神科医の一人ですので、今後の活躍を期待しております。あいにく、ISAM の時期に台風が接近しており、シンポジウムへの参加者は少なかったが、アジア地区の薬物依存研究者との繋がりもでき、有意義なシンポジウムであった。今後アジア・太平洋地区における共同研究などに発展していくことを期待したい。

●③原田隆之(目白大学)●

ISAM2014 のシンポジウムオーガナイザーとしての印象記ということであるが,私自身オーガナイザーとは名ばかりで,ほとんど大会長の樋口進先生に主導していただきながらの準備であった。また,当学会からはシンポジウム運営補助費のご援助をいただいた。ここに記して,あらためて深く御礼申し上げたい。

さて,われわれのシンポジウムのテーマは「 Behavior Addictions: Advancing Understanding and Treatment Strategies Across a Wide Range of Disorders」であった。
DSM-5 における「物質使用障害」の疾患概念が大きく変化し,物質依存症と並んで行動的なアディクションに大きな注目が集まるようになったということから,非常にタイムリーなテーマであったと言える。Addictions と複数形になっているのは,もとより行動的アディクションには多種多様の形態があり,そのさまざまな病態を拾い上げて,それぞれの専門家に話をしてもらいたいとの意図からである。

その結果,以下のようなテーマとシンポジストが決まった(発表順)。Internet Gaming Disorder (Professor Hae-Kook Lee),Habitual Theft (竹村道夫先生),Sexual Addictions (原田),Food Addiction (Professor Yang-Tae Kim) , Gambling Disorder (佐藤拓先生)。

それぞれの発表を聞きながら印象に残った点は,その病因,形態,治療における共通性ゆえに「Behavior Addictions」と一括りにはされていても,当然のことながら,それぞれの態様や治療上の特徴や困難さには独特のものがあるという点である。たとえば,クレプトマニアやギャンブル依存に関しては,abstinence という治療目標が適切であっても,インターネットやフード・アディクションに対しては適切ではない場合がある。

また,これらのアディクションにおいては,物質依存以上に文化・社会的影響が大きいという点も痛感させられた。たとえば,私のテーマであった性的アディクションに関しては,フロアからも指摘を受けたが,日本ではその大多数が paraphilic
disorder であるのに対し,欧 米 で は hyper sexual disorder のようなものが多い。日本で最も多いパラフィリアである電車内での「痴漢」(frotteurism)は,そもそも欧米にはほとんど存在しない。

治療においては,ギャンブル依存に対する内観療法に関して,フロアから熱心な質問が寄せられていたのも興味深かった。文化の差を超えて,内観療法や森田療法のような日本的な治療アプローチがどのような効果をもたらすのかは,マインドフルネス・アプローチへの関心が高まっている今,大きなテーマの 1つであろう。

コクランレビューにも「森田療法」のレビューがあるが,それを執筆しているのは中国人の研究者である(うつ病に対する効果のレビューある)。しかも,肝心の一次研究がほとんどないため,レビュー自体が成り立っていない。こうした点から見ても,日本人研究者が国際的に貢献できる点はまだまだたくさんある。


このように,この古くて新しい「行動的アディクション」という問題において,これからもますますの研究と臨床の積み重ねが必要であることは言うまでもない。

●④新田淳美(富山大学大学院医学薬学研究部(薬
学)・薬物治療学研究室)●

~シンポジウム 33 Novel function of nicotine promotes and/or nicotine receptors のオーガナイザーとして~

第 16 回国際嗜癖医学会(International Society of Addiction Medicine, ISAM)にて、シンポジウムのオーガナイザーを金沢大学医薬保健研究域薬学系薬物研究室 米田幸雄教授と共に担当しました。世界中の依存関連の研究者が一斉に集った学会会場は、日本文化を海外の方に知ってもらおうと生花やお茶席も設置され、『おもてなし』の情緒にあふれていました。

本シンポジウムでは、ニコチンおよびニコチン性アセチルコリン受容体の新たな機能についての最近のトピックスを取り上げました。Pennsylvania 大学・Doyon Morris William 博士からは、喫煙がアルコール依存へのリスクファクターであり、その制御に、コルチコステロンが関与していることの紹介がありました。喫煙と飲酒が、依存形成へ相互に関与していることは、日常の生活の中で誰もが感じていることですが、その理由を明確に示した研究は、ほとんどなされていません。本研究関連内容は、神経科学領域でのトップジャーナルである Neuron 誌にも掲載され、緻密な実験データに基づくものであり、依存関連研究を前進させるものでした。その他にも、ドネペジル、Shati/Nat8l およびオレキシン受容体の生理機能へのニコチンの影響、ニコチン受容体の神経分化への関与など、既知の“ニコチン”の薬理学的な概念からは想像がつかないような斬新な研究成果の発表がありました。


本シンポジウムには、平成26年度 JSPS外国人研究者招へい事業(S-14199)および富山大学学長裁量経費(国際シンポジウム開催支援経費)の支援をいただきました。末筆ですが、この場を借りて感謝を申し上げます。

●⑤山田清文
(名古屋大学大学院医学系研究科医療薬学・医学部
附属病院薬剤部)●

2014 年 10 月 2 日から 6 日までの 5 日間、パシフィコ横浜会議センターで第 16 回国際嗜癖医学会(International Society of Addiction Medicine, ISAM)が開催され、同時にアルコール・薬物問題に関わる国内 3 学会、日本依存神経精神科学会(宮田久嗣先生、慈恵医大)、日本アルコール・薬物医学会(大会長: 松下幸生先生、久里浜医療センター)、日本アルコール関連問題学会(成瀬暢也先生、埼玉精神医療センター)が共同開催された。

ISAM2014 のテーマは“ADDICTION: Issues for the Next Decade(アディクション: 次の 10 年の課題)”であり、大会長の樋口進先生(独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター院長)の卓越したリーダーシップにより、本学会に関連の深いこの学際領域の研究における日本のプレゼンスが示せた国際学会であった。

私は、池田和隆先生(公益財団法人東京都医学総合研究所依存性薬物プロジェクト・プロジェクトリーダー)と共同で“Animal models and molecular targets for drug discovery and development in substance-related and addictive disorders”というシンポジウムを企画した。我々二人の他、海外からのスピーカーとして George F. Koob 博士(National Institute on Alcohol Abuse and Alcoholism, USA)と Hyoung-Chun Kim 博士(Kangwon National University, Korea)を招聘した。特別講演の演者でもあった George F. Koob 博士の参加もあり、多くの若手研究者が集まり大変活発な討論が行われた。また、本シンポジウムは ISAM-JMSAS ジョイント・シンポジウムとして開催され、日本アルコール薬物医学会(JMSAS、齋藤利和理事長)より助成金をいただいた。この紙面をお借りして改めて JMSAS 関係者の皆様にお礼申し上げます。

会場内には日本情緒を感じる屏風、生け花などが飾られた他、和服姿の女性によりお抹茶が振る舞われるなど、日本の「おもてなし」の気持ちに溢れた素晴らしい会であった。

●⑥杠岳文(肥前精神医療センター)●

われわれのシンポジウムは ISAM と MSAS のジョイントシンポジウムとして学会 2 日目の午前に開催された。シンポジウムは、Implementation of alcohol brief intervention in various countries and settings のテーマで、米国(M. Murray)、韓国(H. S. Oh)、日本の若手研究者に主にブリーフインターベンションの各国での普及、実践の状況を報告いただき、最後に M. N. Hesselbrock 先生に総括頂いた。

日本からは、琉球病院の福田貴博先生と久里浜医療センターの伊藤満先生のお二人にご登壇いただいた。福田先生は、沖縄の地域(今帰仁村など)で特定健診・保健指導に乗せて HAPPYプログラムを用いて行った減酒指導の成果と職域で行ったブリーフインターベンションの効果を報告され、健診結果での体重や腹囲の減少といった成果と併せて報告された。

伊藤先生は、飲酒運転違反者に対する取消処分者講習カリキュラムでのブリーフインターベンションの効果を効果を報告された。ブリーフインターベンションの導入によって飲酒運転はもとより他の交通違反の再犯も減少したという興味深い内容であった。

日本は諸外国と異なり、プライマリケアや ER といった医療現場ではなく、地域や職域での健診や交通違反者講習といった場面で先にブリーフインターベンションが用いられており、また本来の対個人の行動カウンセリングではなく、しばしばグループセラーピーに応用され実施されていることも特徴に思われた。今後日本でも先の診療報酬化を見据え医療現場での効果検証研究が待たれる。

●⑦宮田久嗣(東京慈恵会医科大学精神学講座●

私が担当させていただいたシンポジウムは、「Clue to the next decade of nicotine dependence research(次世代のニコチン依存研究の手がかり)」というタイトルで、座長を韓国のDai Jin Kim 先生と行いました。本シンポジウムは、覚醒剤やオピオイドのような精神毒性(幻覚・妄想、意識混濁など)を生じないニコチンは、純粋に“依存”という現象を起こすことから、“依存研究”において重要な手がかりを与えてくれるという趣旨で企画しました。本シンポジウムでは、第一線のニコチン研究者 5 名のご講演をいただきました。まず、Dai Jin Kim先 生 ( 韓 国 ) は 、 「 The update neurobiology of nicotine dependence and what happened after smoking cessation in our body ?」という演題名で、禁煙中の生体内変化を考慮した禁煙療法の検討など、ニコチン依存治療の最前線の知見を紹介されました。宮田久嗣(日本)は、「Structure of nicotine dependence」という演題で、ニコチン依存における欲求のメカニズムを脳内報酬系と学習・記憶を中心として報告しました。
高橋英彦先生(日本)は、「 Neuroimaging of nicotine dependence」として、ニコチン依存の神経画像研究の最先端の知見を、ご自身の研究成果とともに発表されました。廣中直行先生(日本)は、「Behavioral pharmacological effects of nicotine: its relevance to smoking habit」として、嗜好品科学の視点から、ニコチンもしくはタバコ依存の本質に迫る報告をされました。最後に、Sungwon Roh 先生(韓国)からは、「Nicotine and cognition in schizophrenia」という演題で、統合失調症の観点からニコチンと認知機能に関する興味深い報告をいただきました。時間の関係から総合討論はできませんでしたが、活発な質疑応答がなされ、本シンポジウムのねらい通りに、今後のニコチン依存研究に重要な手がかりを与えるものとなりました。

この他、ISAM では、特別講演 9 題、シンポジウム 44 セッション、一般口演 74 題、ポスター発表 78 題と数多くの演題が発表されましたが、国際学会で今回ほど余裕をもって基礎研究から疫学、臨床、施策まで幅広い講演を聴けたのは初めてでした。
何よりも日本の若手の研究者、治療者が国際学会で発表し、海外の研究者と交流する機会を持てたことが、意義のあることであったと思います。樋口会長がセッティンされた生け花、茶道などの日本流の“おもてなし”の雰囲気も素敵でした。本学会を企画、運営をされた樋口会長に心から感謝申し上げます。

●⑧白坂知彦(東手稲渓仁会病院 精神保健科、札幌医科大学 神経精神医学講座)●

2014年10月2~6日、神奈川県・パシフィコ横浜会議センターにて開催された「第16回国際嗜癖医学会年次学術総会: 16th International Society of Addiction Medicine Annual Meeting (ISAM2014)」に参加したのでここに報告する。

本会は国際嗜癖医学会(International Society of Addiction Medicine:ISAM)の年次総会として開催された。独立行政法人国立病院機構久里浜医療センターの樋口進先生を大会長として近年世界各国で問題となりつつあるアディクションに重点におき、生物学的研究から臨床プログラム、各国の現状と課題など幅広く有意義な講演が多数行われた。

今回、筆者は川崎医科大学薬理学教室(現在は東京薬科大学生化学教室に所属)の水野晃治講師、台湾 Taichung Veterans General Hospital、National Defense Medical Center の Chou Po-Han 先生、タイランド Mahidol 大学の Woraphat Ratta-apha先生、台湾 Taichung Veterans General Hospital、国立陽明大学の Chia Chun Hung 先生らとともに「Collaboration of the research by young researchers ‒ research in progress」と題した国際若手シンポジウムを企画、運営を担った。若手研究者は高い意欲とアイデアをもって研究に臨んでいるが、活動経験、実績が少ないゆえ、予算も乏しく、交流関係も限定的である。今回のシンポジウムは、普段の研究生活では交流の機会が少ない、若手国内外の基礎研究者、臨床研究者を演者として迎え、各々の発表を通して基礎と臨床、国内と国外におけるtranslational research の橋渡しとなることを目的とした。

このシンポジウムでは日本の研究者ばかりでなく、韓国、インドネシア、台湾、タイランド、オーストラリア、多くのアジア、環太平洋各国から聴衆が参加し、研究手法や今後の臨床応用に向けての課題、各国の現状など多くの意見を交えることができた。海外から多面的で発展的な意見を伺い、日本国内だけではなく世界的な視野で物事を考えることの大切さを痛感した。

日中の白熱した議論のあと、アジア各地域の先生と、野球ナイター観戦や鎌倉の寺院仏閣見学へ繰り出して多くの参加者と交流した。諸先生からも貴重な学びの機会をいただき、とても充実した学会となった。今後も国内外の若手研究者同士がネットワークを強化し、発展していく事を期待する。

●⑨田中増郎(高嶺病院)●

2014 年 10 月 2 日~6 日に行われた第 16 回国際嗜癖医学会(16th International Society of Addiction medicine 、ISAM)に参加させていただきました。2 日には論文の書き方といったレクチャーを少人数で受け、その夜の Welcome party では、世界各国から参加された先生方と交流する機会を得ました。10 月6 日、手稲渓仁会病院の白坂知彦先生と共にシンポジウムを企画、日本を含め 3 か国の先生方と発表を行いました。ウクライナの Olena Zhabenko 先生にはアルコール依存症患者の不眠重症度予測の話を、タイの Woraphat Ratta-apha 先生には大学病院内でのアルコール依存症治療の連携について、三重県立こころの医療センターの長徹二先生にはアルコール依存症治療の病院間における医療連携のお話をしていただきました。私は、全国13 施設の多施設共同研究として行った、入院したアルコール依存症患者の特徴について話をさせていただきました。企画者、演者がすべて 30 代という若い世代での発表でした。結果としては、聴衆も多く、様々な質問もいただき、大変貴重なデータ共有の場となったように思います。

こういった国際学会のシンポジウム企画を我々世代のみで行うのは、経験が少ない分、戸惑いや大変に感じることが多々ありました。しかし、経験豊富な先生方からシンポジウムの進行についてなどご助言を多くいただけたこともあり、無事に終えることができました。このシンポジウムは、私自身貴重な学びと経験の機会となりました。日常での成長は二次元の広がりのように思えますが、このような大舞台で体得したものは、三次元のように奥行きが深くなり、自身の中に新しい軸が生まれたような感覚を覚えます。このシンポジウムで大きく成長させていただいたのではないかと思っています。

今後もこの経験を活かし、学会運営のお手伝いができると幸甚です。さらに、自分よりも若い世代へもこの経験を伝えて援助していけたらと考えております。皆様、今後とも宜しくお願いいたします。

7. アル法関連最新情報

猪野 亜朗
((医)山下会 かすみがうらクリニック))
堀井 茂男
((財)慈圭会 慈圭病院)

前号では 2014 年 11 月末までの基本法関連の動きを報告したので、それ以降を報告する。

I.地域で展開される取り組み

(1)アルコール健康障害対策基本法推進の集い in 奈良 ~ア
ルコール健康障害対策基本法が目指す社会~

220 人が参加する!

日時:
平成 27 年 2 月 17 日(火) 13:30~16:00
会場:
奈良県中小企業会館 4階 大会議室
プログラム:
  1. 基調講演「アルコール健康障害対策基本法が目指す社会」今成 知美(ASK)
  2. 基調講演「アルコールと自殺・うつ」 植松 直道(医療法人 植松クリニック院長)
  3. 体験談 奈良県断酒連合会会員と家族

(2)アルコール健康障害対策基本法の集い in 札幌

150 人が参加する!

日時:
2015 年 2 月 21 日(土) 13:00~17:00
会場:
札幌市教育文化会館
プログラム:
  1. 講演:アルコール健康障害対策基本法と依存症への取り組み~地域で何が必要なのか~
    講師:猪野 亜朗 司会:山家 研司
  2. シンポジウム 「それぞれの立場から依存症対策について考えていること」
シンポジスト:
齋藤 利和先生、齊藤 和夫先生
AA メンバー・断酒会会員・依存症患者の家族
座 長:
大嶋 栄子

(3)大村秀章愛知県知事に申し入れ

愛知県アルコール連携医療研究会と愛知県断酒連合会などによる愛知県集い実行委員会は、4 月 2 日、大村知事との面会を実現させた。その中で、愛知県アルコール健康障害対策関係者会議の設置と飲酒運転対策の実施を要請した。

I.アルコール健康障害対策関係者会議の進行状況

(委員名省略、前号報告済み)

(1)今後の日程

2015 年末には関係者会議としての基本計画への考え方が作成され、その後6省庁による推進会議において、2016 年5月末までに最終的な国の基本計画が決定される。その後、都道府県単位の推進計画が作成される。基本計画へのご要望を是非、学会所属の委員にお伝え願いたい。

(2)ワーキンググループが設置された

議論を効率的に進めるために、3つの WG が設置され、座長は下記のとおりである。

  1. 教育・誘引防止・飲酒運転等・・・・・・今成知美
  2. 健診・医療・・・・・・・・・・・・・・杠 岳文
  3. 相談支援・社会復帰・民間団体・・・・・田辺 等

(3)関係者会議の開催

  1. 第2回(12月12日)
  2. 第3回(1月28日)
  3. 第4回(3月2日)
  4. 第5回(4月10日)
  5. 第6回(6月12日)

(4)ワーキンググループの進行状況

  1. 教育・誘引防止・飲酒運転等のワーキング・グループ
    1. ①第1回 WG(日時3月 31 日)
    2. ②第2回 WG(5月22日)
  2. 健診・医療のワーキング・グループ
    1. ①第1回 WG(4月3日)
    2. ②第2回 WG(5月22日)
    3. ③第3回 WG
  3. 相談支援・社会復帰・民間団体のワーキング・グループ
    1. ①第1回 WG(5月25日)

(5)関係者会議の今後に向けて

今年の後半に向けて、様々な動きが出てくると思う。内閣府の HP に進行状況がアップされているので、注目をお願いする。

私たちは、一番の重要点は「アルコールについての日本の社会意識を変えていくこと」と思っている。

また、専門医の養成のための専門医制度、余りに貧弱な現状の日本の研究体制の整備充実である。諸外国に比して、日本の研究体制は圧倒的に貧弱である。久里浜医療センターに「日本総合アルコール研究センター(仮称)」の誕生を目指したい。

III アルコール合同三学会(神戸国際会議場)で「基本
法関連シンポジウム」を企画

下記の位置づけにて、シンポジウムを企画できた。多くの皆様のご参加を期待する。

<シンポジウム「基本計画へ学会員の声を届けるー予防・臨床から研究までー」>

10月11日(日曜)午後2-5時

プログラム(敬称略)

全体報告
関係者会議の会長報告(樋口 進)
1 部
WG からの報告 司会:猪野亜朗・稗田里香
  • 教育・誘引防止・飲酒運転等(今成知美)
  • 健診・医療(杠 岳史)
  • 相談支援・社会復帰・民間団体(田辺 等)
  • 指定討論(内閣府参事官 加藤誠実)
2 部
調査・研究について基本計画への要望
司会:宮田久嗣・木村充
  • 脳科学の立場から(廣中直行)
  • 消化器研究の立場から(池嶋健一)
  • 臨床研究の立場から(松本俊彦)

8. ギャンブル依存症(病的ギャンブリング)について

1. 借金と認知の歪み

病的ギャンブリングは、しばしば借金問題として浮上する。家族が借金を肩代わりすると、更に借金を重ねる。依存症者は、「借金を返してもらった」ことも「自分でなんとかした」ことに数える、特有の認知の歪みを持っている。ATM が財布に見え、借りる金銭が貯金のように思えて、抵抗なく使い続けたと述べるギャンブラーは多い。彼らは、借金を返してもらったことに感謝するよりも、何とかなった、借金も実力のうち、と考えてしまう。これは、後悔や改心を望む家族の願いと、ちょうど逆の思考である。

アルコールや薬物の依存症は、物質による直接的な脳機能傷害が生じると理解されやすい。しかし、ギャンブルや買い物・万引きなどの行為に対する依存症でも、同様の報酬系における機能障害が想定される。

2. 相互援助(自助)グループの中で回復する

近年、日本人のギャンブラーは発達障害を背景に持つと主張する人たちがいる。ギャンブル依存症者は発達障害なので集団療法には向かないというのである。しかし筆者は、相互援助グループ導入を諦めて、参加を勧めない立場を支持しない。アルコール依存症の回復が、AA によって初めて実現したことからも明らかなように、依存症の回復にグループ共同体の力は欠かせない。

AA は、単に断酒のための装置ではなく、断酒者が、社会のなかで相応の位置を占めるまで成長させる機能的組織である。AAメンバー同士の交流からはじめ、スポンサーの提案を受けて実行する能力の開発、ラウンドアップなどの組織運営、そのための資金集め等、依存症者が回復の過程で学ぶべきことは数多い。それは、ギャンブラーも同様である。

3. 女性ギャンブル依存症の特徴と回復

パチンコに通う女性は、しばしばひとりでいるのが怖いという。しかし、友人とのおしゃべりや、依存症の患者同士で話すのは苦手な人もいる。パチンコをしていれば、ひとりではなく寂しくないが、面倒な話は求められず表面的な関係ですむ点も、彼女たちを惹き付ける。なかには、アルコールとギャンブルの依存症を合併している場合もある。彼女たちは AA を通して、GAなどにも出席する。

嗜癖行動問題を持つ女性は、感情表現や自己主張ができないために、ストレスを抱え、問題を解決できずに苦しむことが多いとされる。感情を表現できなければ、自我境界を定めることも難しく、共依存の罠にからめとられてしまう。それは、再燃の危険が大きいことを意味する。彼女たちは、女性のなかで感情表現や自己主張を憶える必要がある。

4.ドラマセラピー

筆者等は、女性依存症者の治療にドラマセラピーを導入している。ドラマセラピーは、シンプルな感情表現や、その命名(あてっこ)など、易しいゲームによって感情表現や自己主張を身に付ける、優れて実践的な治療法である。ミーティングなどの言語的治療は、感情の知覚や言語化が難しい人には、時間がかかるうえに苦痛が大きい。一方ドラマセラピーは、自分の言葉と身体を使って演じる過程を通して、現実への関与の仕方を変えるので、そのような人にも無理なく適用できる。

ドラマセラピーによれば、女性患者たちは、より短期間のうちに回復する。その変化は時に驚異的である。不安や怖れでふるえていた人が、いつのまにか自然に座っている。反社会的行動を指摘されていた人が、自分の感情(不安や恐怖)を率直に訴え、職員の指導を求める。このような目覚ましい回復に短時間で到達するのは、治療施設を基礎としたドラマセラピーの特徴である。

9. 施設紹介:名古屋大学医学部附属病院・薬剤部

山田清文
(教授・薬剤部長)

名古屋大学医学部附属病院(以下、当院)薬剤部には、平成27年4月1日現在、薬剤師93名(薬剤師レジデント10名を含む)が在籍し、「医薬品の適正使用を介して患者のQOL向上に貢献する」ことを目標として活動しています。2014年度の主な業務量としては、薬剤管理指導件数:31,411件、化学療法の無菌調製件数:入院13,758件、外来18,142件でした。当院では病棟薬剤業務実施加算の算定を2012年5月より開始し、ICU,NICU,OPE室を含む全ての病棟と治療室に専従病棟薬剤師を配置し、入院患者の薬物治療管理を行っています。精神科(尾崎紀夫教授)の病棟(50床)にも薬剤師1名を専従で配置し、チーム医療の中で積極的な情報収集とエビデンスに基づいた薬物療法の支援をしています。今回、精神科病棟における薬剤師の役割について紹介します。

① 患者情報の共有と把握

患者が入院時に持参した薬剤を確認し電子カルテに入力、初回面談を行い、その患者の薬物治療歴を把握するとともに、現在の薬学的プロブレム(改善されない精神症状、副作用、コンプライアンス等)について聴取しています。入院時に薬剤師は、DIEPSS や DAI-10 などを用いて副作用や服薬コンプライアンスの評価を行い、入院後の治療方針について多職種と情報共有をします。

② 薬剤管理指導

ハイリスク薬を中心として服薬開始前に薬効や副作用の説明・指導を行っています。入院後の薬剤管理指導では、治療方針に従って副作用の早期発見と服薬コンプライアンスを維持できるよう患者個々に応じた指導を心がけています。クロザリルは副作用の頻度が高いことが知られているため、導入前には薬剤師からも十分な説明をして服薬に対する不安を軽減しています。導入後は、生化学検査や処方量を確認するなど、病棟薬剤師がコーディネーター役として安全・安心な薬物療法の提供を行っています。

③ 内服自己管理の推進

当院精神科における平均在院日数は 25.9 日であり、入院期間は徐々に短縮しています。そのため外来でも薬物治療を継続する患者は多く、入院中からアドヒアランスの向上を目的とした内服自己管理を推進しています。薬剤師は服薬コンプライアンスの低下となる要因を聴取するとともに、週 1 回看護師と内服自己管理カンファランスを行い、自己管理可能と考えられる患者について協議します。退院時にはお薬手帳にアレルギー情報を記載するとともに、入院中に服用した主な薬剤の用量変化について記載し配布しています。医療従事者だけでなく患者が自分の服用薬剤の変更点を理解していくことは、副作用の早期発見や服薬コンプライアンス向上につながると考えています。

④ 症例検討会への参加と資料作成

毎週開催される医師を中心とした症例検討会に薬剤師も参加し、薬物治療を進めていく上で問題となる症例(例えば、多剤大量処方で減薬を必要とする症例や薬剤による副作用に悩まされる症例など)について、薬理作用機序および薬物動態学的な視点から提案をしています。提案内容については、根拠となるエビデンスを文章化してまとめ、医療従事者向けの教育ツールとして活用しています。

⑤ 患者家族に対する教育

当院精神科の外来では、患者家族や支援者を対象として疾患に関する理解を深めるための教育を行っており、薬剤師も患者家族へ説明をします。主な内容は、薬剤による治療方法や服薬継続の重要性、家族による服薬サポート、副作用の早期対応の方法などであり、患者と家族が安心して服薬継続できる環境を作るための情報提供を行っています。

⑥ 身体的疾患患者に対する関わり

2013 年より当院および周辺調剤薬局の薬剤師を対象とした講習会を年 2 回開催し、精神科医師を講師として「うつ病」について学んでいます。最近では、がん、心筋梗塞、産婦人科疾患、内分泌系疾患などの身体的疾患とうつ病や精神疾患との関連性が報告されていますので、身体疾患患者のうつの有無を薬剤師がスクリーニングし、精神科医師との連携や早期介入を円滑にできるよう計画を進めています。