4-2号 (2020年1月)

1.「依存症に対する集団療法に係る研修」の意義と課題

杠 岳文
(国立病院機構肥前精神医療センター)

平成28年度に「認知行動療法の手法を活用した薬物依存症に対する集団療法研修」が「依存症集団療法」(1回につき340点) の診療報酬の要件となったことで、この4年間当院で開催し、本学会主催の研修会に、毎回定員以上の応募が続いています。今年も、医師、心理士、精神保健福祉士、看護師、保健師など様々な職種の参加を得ています。これまで、薬物依存症には、アルコール依存症の治療や支援に比べて、関わる医療者が少なかったことを考えると、このように多くの方が、また多職種で、薬物依存症関連の研修会に受講されるだけでも、支援者の輪が広がっていると実感します。とくに、今年の受講者には薬物依存支援初心者の方が多かった印象です。なかなか広がっていかない薬物依存症治療施設、相談機関のなかでも、SMARPPのお陰で、一昔前に比べ各地で外来プログラム治療の場が提供され依存症患者さんの回復支援に役立っていることは確かです。

薬物の問題が法律の枠組みの中で違法行為として刑罰で対処されてきた長い歴史があり、社会が背景にある依存症の問題に目を向けるようになったのは、わが国でも最近のことで、精神科医療の中でも同様に、犯罪者のレッテルがその治療の在り方と診療報酬にも影を落としています。薬物依存症の治療には、心理的にも社会的にも多問題を抱える患者さんが多いことから、支援を要請する職種や連携する施設や機関も広範囲に及びます。また、他の精神疾患に比べて、クリティカルパスに乗りにくく治療者の負担(診察時間)も大きいように感じます。少しの刺激で急に情動が不安定になり、治療者が振り回されることは日常的に起こります。当然、重度アルコール依存症入院医療管理加算のように「重度薬物依存症入院医療管理加算」が設けられるべきです。また、外来治療においても、個人のカウンセリングと集団療法が併算定できないことも大きな問題でしょう。医師が行う個人の精神療法(30分未満330点)ですから、併算定できない現状では、「依存症集団療法」は実質10点ということになります。これでは、薬物依存症治療を新たに始めるインセンティブにはなりません。

今後、本研修会が行う人材育成が、薬物依存治療と回復支援の拡充に効果的に繋がるためにも、診療報酬上での上記のような要望が、当学会医療保険委員会としても重要と考えています。

2. 2019年度学術総会を終えて

第 54 回日本アルコール・アディクション医学会
会長 白坂知信
(北仁会 石橋病院)

第54回日本アルコール・アディクション医学会総会は、2019 年10月4日(金)~6日(日)の3日間、札幌コンベンションセンターで開催されました。

学術総会は2019年アルコール・薬物依存関連学会合同学術総会としてアルコール関連問題学会と共同で開催され、900人程の参加者がいらっしゃいました。二つの学会の共同開催のため、プログラムも幅広く、内容は多様で充実したものであったと思います。シンポジウムは18題、教育講演は9題、特別講演3 題、国際シンポジウム・総合病院と専門医療とのネットワーク・NECPAM国際シンポジウム・一般演題121題(講演51、ポスター70)等、国内外から数多くの発表があり、多くの参加者から高い評価をいただきました。

柳田賞は東京医科歯科大学の髙橋英彦先生が受賞されました。近年は「依存症と脳機能・脳科学」の関心が高まっており、参加者も大いに興味を持たれたようでした。今回の特徴として、

①昨年11月に「新アルコール・薬物治療指針」が発表され、治療方針に減酒治療が加わり、薬物療法でも減酒薬が登場したことです。そのため「ハーム・リダクション」への理解が広まり、その会場は大盛況でした。

②地域ネットワーク医療・保健・福祉の考え方も普及してきて数多くの発表がありました。北海道各地の保健所・保健センターの仲間がネットワークを作り発表されていたのが印象的でした。

③依存症・行動障害の多様化が認められ、ゲーム・ネットの会場は教育講演・発表会場でも活発な意見交換がされていました。

④特別講演2題に関しては日本語の字幕付きのため、参加者は理解しやすかったと思います。また、エドワード・P・ライリー先生も、非常にわかりやすいスライドで楽しく講演をしてくださいました。

懇親会は、日本のビールの首都・札幌市の老舗「サッポロビール園」で開催されました。雨の中でしたが、参加者は210人を超え、大盛会でした。会場があまり広くないためと着席式のため、隣人との親近感もあり、笑い声の絶えない、非常に和やかで明るい懇親会となりました。プログラムの中で特に私の興味を引いたのは「底つき体験論」に関するものです。現在の専門医療の流れはプログラム治療(認知行動療法;CBT・動機付け面接であり、家族に対するCRAFT等、個人治療)が優先されています。しかし、治療現場の多くの人は「底つき体験論」の重要性を話され、自助グループの人々からも共感を呼んでいました。患者様の病状は多様です。一つのプログラムで回復するほど単純ではありません。自助グループは、今も昔も大切です。集団療法も大切です。支援者は、両者を受け入れる合理性が必要だと思いました。

3. 2020年度学術総会のご案内

第 55 回日本アルコール・アディクション医学会
会長 西谷陽子
(熊本大学 法医学講座)

このたび、2020 年 7 月 10 日から 11 日まで福岡市福岡国際会議場にて第 55 回日本アルコール・アディクション医学会学術総会を開催させていただくことになりました。第 42 回日本アルコール関連問題学会との共同開催として 2020 年度アルコール・薬物依存関連合同学術総会を開催いたします。

今大会ではテーマを「アルコール健康障害・依存症の多角的な研究と連携」としております。本学会は 2016 年 4 月に日本アルコール・薬物医学会と日本依存神経精神科学会が統合して発足しました。前身の日本アルコール・薬物医学会および日本依存神経精神科学会の時より、長年にわたりアルコールによる健康障害および依存症に関し、多彩な分野で研究がなされてきました。内科、神経精神科はいうまでもなく、公衆衛生学、薬理学、病理学、心理学、そして法医学など幅広い領域が関わります。アルコール健康障害・依存症の問題は単一領域の問題ではなく、多角的に対応・連携することが重要となり、今大会を通じて多領域の研究についてあらためて議論を深め、お互いの研究の連携につなげていきたいと思っております。

2010 年 5 月に WHO 総会で「アルコールの有害な使用を低減するための世界戦略」が採択されて、2020 年で 10 年になります。また日本において 2014 年 6 月にアルコール健康障害対策基本法が施行されすでに 5 年が経過しました。2020 年はオリンピックが開催されることから、日本でのアルコール問題への取り組みが海外からも注目されるものと思われます。今大会では現状の問題点と今後の発展、世界的な取り組みにどのように 対応していくのかという点も議論できればと考えております。

また、近年の新しいアディクション・依存に関わる問題として、アルコールのみならず、ニコチン、覚せい剤などの物質濫用、ギャンブルやインターネット、ゲームなどの嗜癖も問題となっています。今大会では、このような様々な形のアディクション・依存についても議論をし、将来を見据えての対策を提示できればと思っております。

今大会が多くの先生方のお役に立てることを願っております。ぜひ多くのご参加をお待ちしております。

4. 2019年度代議員会議事録

総務委員会委員長 宮田久嗣
(東京慈恵会医科大学精神医学講座)

日 時 :2019 年 10 月 6 日(日)12:20~13:00
会 場 :札幌コンベンションセンター 第1会場
議決権数:209(過半数 105)
出席数:出席 28、委任状 96、合計 124

会に先立ち議長より定足数の報告ならびに議事録署名人の指名が行われた。議事録署名人として、宮田理事および廣中理事が指名され承認された。

1.会務報告(宮田・総務委員長)

宮田委員長が、昨年度および今年度の会員数ならびに会議の開催報告・開催予定を説明。一同確認し、すべて異議なく承認した。

2.2018 年度決算報告 2019 年度予算案(廣中・財務担当理事)

廣中理事が 2018 年度(2018 年 8 月 1 日~2019 年 7 月 31 日) の決算報告を行った。また烏帽子田監事と堀井監事2名による監査報告書が示された。一同審議の結果、異議なくこれを承認した。
続いて廣中理事が、2019 年度(2019 年 8 月 1 日~2020 年 7 月 31 日)予算案の提案を行った。一同検討の結果、異議なくこれを承認した。

3.賞選考委員会より柳田賞について(宮田・賞選考委員長)

宮田委員長が、今年度柳田賞受賞者を発表した。
第 9 回柳田知司賞
受 賞 者:髙橋英彦(東京医科歯科大学 精神医学)
受賞講演:2019 年 10 月 6 日(日)13:25-13:55
札幌コンベンションセンター 第1会場

4.年会より優秀発表賞について(白坂年会長)

白坂年会長が、優秀発表賞受賞者について報告した。
第 10 回優秀演題賞
受賞者:北川隆太(順天堂大学医学部 消化器内科)
    斉藤 剛(筑波大学大学院 人間総合科学研究所)

5.優秀論文賞について(白石・編集委員長)

【資料 3】白石委員長が欠席のため、藤宮理事長が優秀論文賞受賞者について報告した。
第 25 回優秀論文賞
病的ギャンブラーとギャンブル愛好家とを峻別するものは何か:LINE アプリ・セルフスクリーニングテストを用いた病的ギャンブラーの臨床的特徴に関する研究
田中紀子 他 公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会(第 53 巻 6 号掲載)

6.各委員会からの報告(各委員長)

  • 総務委員会(宮田委員長)
    宮田理事より新代議員選出方法について、「アルコール・ニコチン・薬物及びその他のアディクションに関わる学会発表 3 回以上。うち本学会での発表が 1 回以上」を要件とすると報告があった。
  • 編集委員会(白石委員長)
    白石委員長が欠席のため、藤宮理事長より現状の投稿数や出版状況を報告した。現状の投稿数や出版状況を報告した。現在㈱メテオ社のメディカルオンラインへの掲載を検討しているとの報告があった。
  • 広報委員会(池田委員長)
    池田委員長が、ニューズレターの発刊とホームページの更新、SNS(facebook)を開設予定であることについて報告した。
  • 学術集会担当委員会(宮田委員長)
    宮田委員長より学術集会(年会)を計画的に進めていくために、2 年先まで会長を選出し、会期、会場、運営会社を早めに決めることで運営資金の負担を抑える方針であることが提案された。このために、合同開催の多い日本 アルコール関連問題学会と連携を取りながら計画していくことが話し合われた。日本アルコール関連問題学会から、当学会の学術集会担当委員会に相当する委員会を作り、両学会で話し合いながら進めていく予定であることが話し合われた。
  • 学術賞選考委員会 (柳田賞:宮田委員長・優秀論文書:白石委員長)
    とくになし。
  • 学術委員会(和田理事)
    和田理事より、理事会で 7 月に承認された委員会であると報告があった。学術委員会の委員長の決定については、電子理事会のうえ決定することが説明された。
    また委員会の目的は、依存や嗜癖という言葉をはじめとした言葉の概念、定義をはっきりさせること、大型の研究費を得るために学会としてサポートを行っていくことであると説明がなされた。
  • 倫理・COI 委員会(白石委員長)
    とくになし。
  • 専門医委員会(宮田委員長)
    とくになし。
  • 国際委員会(高田委員長)
    高田委員長より 11 月 25 日~29 日にマレーシアのクアラルンプールで開催される APSAAR(Asia Pacific Society for Alcohol and Addiction Research)に筑波大学の新田千枝先生が参加すると報告があった。また、来年の ISBRA(International Society for Biomedical Research on Alcoholism)、ESBRA(Euroean Societyfor Biomedical Research on Alcoholism)、CPDD(College on Problems of Drug Dependence)については現在検討中のため、改めて HP 等で連絡すると説明があった。
  • 医療保険委員会(杠委員長)
    とくになし。

7.年会長挨拶(白坂年会長)

白坂年会長より、この度の学術総会についての挨拶がなされた。

8.次期年会長、次々期年会長について(藤宮理事長)

藤宮理事長より次期年会長に西谷陽子先生が就任、次次期年会長に廣中直行先生の予定であることが報告された。西谷次期年会長より、次回の学術総会についての挨拶がなされた。

9.その他

藤宮理事長より以下 3 名の新代議員候補者の提案があった。

  • 新井清美 信州大学 学術研究院保健学系
  • 橋本 望 岡山県精神科医療センター/li>
  • 福原京子 順天堂大学医学部 消化器内科

検討の結果、一同異議なく承認した。
藤宮理事長より来年の代議員会は 2020 年 7 月 10、11 日 の学術集会中に臨時代議員会、2020 年の秋頃に定時代議員会を開催することが報告された。また、出席できない場合は委任状の提出をしてほしいと説明があった。

以上


2019 年 10 月 6 日
議長 藤宮龍也 印
議事録署名人(代議員) 廣中直行 印
同 宮田久嗣 印


5. 柳田賞を受賞して

左側が筆者、右は柳田賞選考委員長の宮田先生
髙橋英彦
(東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 精神行動医科学)

この度は、柳田知司先生のお名前を冠した重みのある柳田知司賞を受賞させていただき、誠に光栄でございます。まずは、ご推薦いただいた先生や審査してくださった先生方に厚く御礼申し上げます。直接、柳田先生の薫陶を受けることはございませんでしたが、柳田先生がご立派に育てられた多くのお弟子の先生方(といってもなお私よりも大先輩の先生ばかり)とは、今でもご指導を賜っており綿々としたものを感じます。私の依存症への関心の始まりは、統合失調症の喫煙率の高さやその依存度の高さを精神科医としての駆け出しの頃に目の当たりにしたことから始まります。そこでドパミンや報酬系に関心を抱くようになり、そこから発展して意思決定の脳科学の研究を続けてまいりました。意思決定の障害は依存症に限らず精神疾患全般に程度の差こそあれ認められるものであります。意思決定の脳科学を深く学びたいとカリフォルニア工科大学に留学し、帰国後、精神疾患研究に応用したいと考えたときに京都大学に赴任することが決まりました。京都大学の同僚とちょうど、衝動制御障害から依存症に分類されて世の中から関心も高まっていたギャンブル障害の脳画像研究を国内では最初に開始することになりました。2019 年の 2 月には東京医科歯科大学に着任しましたがちょうど、ゲーム障害が ICD-11 に収載され、今後はゲーム障害の脳画像研究も進めてまいりたいと考えています。脳画像研究は病態の理解や診断に役立つかもしれないが、治療に役に立つのかという疑問を自分自身も抱いておりましたが、最近は新規のニューロモデュレーションも開発されつつあり、私も工学系の研究者との共同研究を通して依存症に対する治療オプションを増やすことにも注力していきたいと考えています。

このように、私の依存に関する脳科学研究は、いろんな方とのご縁やご協力が不可欠でして、周囲の方々に恵まれてきたと心から思います。ここに、ご指導、ご協力いただいた皆様に深く御礼を申し上げます。はじめに綿々としたものを感じたと述べましたが、今後は私が後輩にバトンタッチしていかないといけません。ひとつ、後輩へのメッセージをお伝えさせていただくのであれば、いろんな出会いやチャンスを活かすには、ビジョンを持ってしっかりした準備をしておくことが必要と申し上げたいです。Clinician scientist である私の場合を例に挙げると、臨床がメインの時期でも研究の準備、研究生活の時にも臨床の知識と技量のアップデートをして、準備をしておけば、多くの出会いやチャンスが偶然ではなく必然と思えてくるでしょう。準備の期間は日の当たらない期間ですが、準備不足は他人からすぐに見抜かれます。準備をしていたら来るべきチャンスで着実な一歩を踏み出せるはずです。

6. 優秀演題賞を受賞して

授賞式にて
斉藤 剛
(筑波大学大学院 人間総合科学研究所

この度は、アルコール・薬物依存症関連学会合同学術総会にて優秀演題賞を賜り、大変光栄に思います。私は現在、総合診療科医として勤務しながら、日本の大学生、大学院生を対象にしたアルコール関連問題の研究を行なっています。

プライマリケアの現場では世代問わず、アルコール問題を抱えた方々が多く受診されます。その中でも、大学生は、アルコール関連問題が最も起こりやすいと言われています。しかしながら、自身の飲酒に問題があると認識している大学生は約 1% のみと報告されています。

私は、総合診療科医として広い世代のアルコールによる健康被害をケアしています。その中で、特にこれからの日本を支える貴重な人財である若年世代のアルコールによる急性的、慢性的な健康被害を食い止めたいと考えています。今回の研究では、過剰飲酒と抑うつ状態との間に関連性があることが明らかになりました。この結果は非常に興味深いものであり、今後も研究を継続していきます。

最後になりましたが、日々ご指導を頂いている筑波大学総合診療科吉本尚准教授、並びに高屋敷明由美講師、そして調査に協力をしてくれた皆様に、この場をお借りして深く感謝を申し上げます。


左から 3 番目が筆者
北川隆太
(順天堂大学医学部 付属練馬病院)

この度は、第 54 回アルコール・アディクション医学会において優秀演題賞という過分な評価をしていただき、大変嬉しく、光栄に思っております。

私はリファキシミンを用いた小腸細菌叢の制御によるアルコール性肝炎の抑制効果を報告させて頂きました。リファキシミンは抗菌薬であるにも関わらず、人の糞便を用いた既報において細菌叢の量的・質的変化をほとんど起こしません。しかし、高アンモニア血症・エンドトキシン血症を改善するという一見すると不思議な薬です。リファキシミン投与群のマウスの小腸内容物を羊血液寒天培地で培養した際、形成されるコロニー数がリファキシミン非投与群と差がないことを目の当たりにした時の驚きは、今でもよく覚えています。そして、小腸細菌叢の構成が劇的に変化しているデータを得たときの感動は、忘れられません。リファキシミンが小腸の腸管透過性に影響を及ぼしていないデータを確認できたときは、予想した通りの結果に小躍りしました。小腸の解析という動物実験ならではの強みを生かした研究は、とてもエキサイティングな経験でした。

現在は野戦病院の一員として臨床漬けの日々を送っております。リファキシミンを内服している患者さんを診察していると、小腸に思いを馳せてしまいます。これからも、基礎研究で得たリサーチマインドを忘れずに精進して参ります。この場をお借りして、素晴らしい研究環境と気付きを与えて下さり、研究生活を支えてくださった池嶋教授、今先生をはじめ研究室のメンバーに御礼申し上げます。

7. 優秀論文賞を受賞して

田中紀子
(公益社団法人 ギャンブル依存症問題を考える会)

この度は、第 25 回日本アルコール・薬物医学会雑誌 優秀論文賞を頂き大変光栄に存じます。選考にあたられた先生方、学会関係の諸先生方、研究の右も左もわからぬ私を忍耐強く御指導下さいました、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所の松本俊彦先生に心より御礼申し上げます。

受賞にあたりましては、いまだ信じられぬ思いでいっぱいで、一人のギャンブル障害を持つ当事者、家族にすぎぬ私が、このような賞に縁があるとも思ってもみませんでしたし、実を申し上げますと受賞のご連絡を頂くまで、賞の存在自体も存じ上げませんでした。

ただただ「LINE アプリで簡単にチェックできる、ギャンブル障害の簡易スクリーニングテストを開発しよう!」という話が持ち上がったときから、ひたすら「面白そう!」「どんな結果が出るのだろう?」と、好奇心のみで突っ走って参りました。本当に何も知らず無からの出発で、「単変量解析」「多変量解析」「ROC 曲線」「ロジスティック回帰分析」など、それがどういう意味を表し、そんな風に結果を読みとるのか? そんな基礎の基礎を調べることから始めました。悩み、苦しみながらも、新しい知識を学ぶこと、一つ理解できるごとに何ともいえぬ満足感と達成感を味わうことができました。

そして病的ギャンブラーとギャンブル愛好家に対するオリジナルスクリーニングテストの比較結果が出た時には、「これは面白い!」と、ご指導頂いた松本俊彦先生や筑波大学の森田展彰先生と共に興奮したことを覚えております。私の強みは、ギャンブル障害という病から回復した当事者、家族の仲間たちが全国にいることです。「同じ病気に苦しむ仲間達を救い出そう!」という志を一つにした ONE TEAM が、常に快く研究に協力し、応援してくれます。何よりもこのフィールドを大切に思い、今後も引き続き努力して参りたいと思います。

8. 第 4 回「認知行動療法の手法を活用した薬物依存症に対する集団療法研修会」開催の報告

杠 岳文
(国立病院機構 肥前精神医療センター)

昨年度も 12 月 26 日(火)から 28 日(木)までの 3 日間、当院医師養成研修センターで北は青森県から南は沖縄県まで全国各地から 95 名の参加者を集め、研修会を開催させていただきました。本研修は、平成 28 年度診療報酬改定で算定が認められるようになった「依存症集団療法」の施設基準にある「依存症に対する集団療法に係る適切な研修を修了した者に限る」の「研修」に該当します。平成 28 年度から日本アルコール・アディクション医学会主催の本研修会を肥前精神医療センターが受託し開催してきており、これまで毎年 12 月頃 1 回の開催で、今回が 4 回 目の開催でした。当院での薬物依存関連の研修会は、平成 12~ 14 年度に厚労科研「薬物依存・中毒者の予防,医療およびアフターケアのモデル化に関する研究」の研究成果報告会を当院で行ったことが始まりで、現在は、3 日間の薬物依存に関する研修会と 1 日間のアルコール関連問題予防研修会(当院主催)を開催しております。

「依存症に対する集団療法に係る適切な研修」としての必須の受講項目は 2 日目までで終えることができるようにプログラムが組まれていますので、最低 2 日間の受講で修了証を発行しています(お忙しい先生方には、予め申し出ていただければ、2 日目終了後に修了証書をお渡ししています)。ただ、3 日目には、 20 年前から続いている肥前研修会プログラムの特色でもある、変化のステージを用いた治療プログラム、当事者が語る薬物問題支援の話、そして家族支援の話など興味あるプログラムが組まれているためか、それとも 2 日でも 3 日でも受講料が変わらないからか、今回も 2 日間で帰られる方はいらっしゃいませんでした。受講者の主な職種は、医師 15 名、精神保健福祉士 15 名、臨床心理士 13 名、保健師 10 名、作業療法士 5 名、保護観察官 3 名といったものでした。

これまで 3 年間は、薬物依存症患者さんを診療している医療機関から依存症治療経験者の方の参加が比較的多かったようでしたが、今回の研修会では、薬物依存症問題にこれまで関わったことがない、薬物依存症支援初心者の方の参加が比較的目立った印象でした。徐々に薬物関連問題対策と支援のすそ野が広がっている期待を抱きました。ただ、残念ながら、受講者の中のアルコール・アディクション医学会会員は、今年も 4 名と少なく、研修会時に積極的に学会入会を勧めればよかったと反省した次第です。

9. 施設紹介:科学警察研究所

福永龍繁
(科学警察研究所)

私は、東京都監察医務院長を退官し、平成 31 年 4 月に、科学警察研究所長を拝命いたしました。この紙面をお借りして、私が勤める科学警察研究所を紹介させていただきます。

  1. 科学警察研究所は、警察活動を最新の科学捜査に基づいて支えるため、科学捜査についての研究やこれらを応用する鑑定・検査、鑑定手法・機材の開発、都道府県警察職員等に対する研修・指導を行う、警察庁の附属機関として附置された研究機関です。その前身は、昭和 23 年5月に東京都千代田区にあった国家地方警察本部刑事部鑑識課内に「科学捜査研究所」の名称で設置され、昭和 29 年7月に警察庁の附属機関となり、昭和 34 年 4月に現在の「科学警察研究所」名称になりました。また、科学警察研究所の施設は、平成 11 年2月に千葉県柏市柏の葉に移転し、約3万 9000 平方メートルの敷地に、地下1階・地上7階の事務棟、研究棟及び実験棟のほか、地下1階・地上3階の特殊実験棟4棟があります。平成 11 年の移転時には、科学警察研究所の創立 50 周年を迎え、天皇皇后両陛下のご臨席を賜り、また、ICPO総裁を始め国内外から多数の来賓を招いて、記念式典が執り行われました。
  2. 科学警察研究所は、所長・副所長・研究調整官のほか、総務部と6つの研究部(法科学第一部・法科学第二部・法科学第三部・法科学第四部・犯罪行動科学部・交通科学部)で組織され、附属機関として附属鑑定所と法科学研修所が置かれています。また、この研究部には、24 の研究室が置かれ、生物学、医学、理学、化学、薬学、物理学、農学、工学、社会学、教育学、心理学等の専門的知識や技術を有する約 100 人の研究員が、日々研究等に取り組んでいます。
  3. 科学警察研究所の主な業務は、「研究・開発」、「鑑定・検査」、「研修・指導」の3つです。「研究・開発」では、各研究室において研究員が有する各分野の専門的知識・技能を最大限に活かし、日々変化する犯罪情勢等に的確に対応するため、鑑定技術の向上、新たな鑑定手法・器材の開発のほか、犯罪の予防・捜査手法、交通の安全・円滑に関する研究を行っています。このほか、論文や学会での研究成果の発表等にも取り組んでおり、研究成果を取りまとめた『科学警察研究所報告』も発行しています。これらの「研究・開発」で得られた知見等を応用し、都道府県警察からの嘱託や依頼に基づき異同識別や成分分析の「鑑定・検査」を行っています。このほか、これらの研究成果や鑑定技法などは、全国警察の鑑定技術の向上を図るため、年間約 700 人の都道府県警察職員に対し「研修・指導」を行っています。
  4. 科学警察研究所は、これからも社会情勢や犯罪情勢、現場のニーズに的確に対応し、より安全で安心して暮らせる社会の実現に寄与するための研究等に職員一丸となって取り組んでまいります。

末筆ながら、当学会の益々の発展と会員の皆様の御健勝をお祈り申し上げますとともに、今後とも科学警察研究所の業務のみならず、警察活動全般に渡り、会員の皆様の御支援・御協力を賜りますようお願いいたします。

10. アルコール健康障害対策基本法の動向

猪野亜朗
(かすみがうらクリニック)
堀井茂男
(公益財団法人慈圭会慈圭病院)
稗田里香
(東海大学健康科学部・特定非営利活動法人 ASK)

厚生労働省(以下、厚労省)は、アルコール健康障害対策基本法(以下、基本法)におけるアルコール健康障害対策推進基本計画(以下、推進計画)を見直し、第 2 期推進計画を策定するために、令和元年 10 月 30 日に第 19 回アルコール健康障害対策関係者会議(以下、関係者会議)を開催した。第 3 期(平 成 31 年 2 月 28 日~令和 3 年 2 月 27 日)関係者会議委員 19 名 で構成される本会議では、第 2 期推進計画の検討スケジュール、 第 1 期推進基本計画の進捗状況、最近のアルコール健康障害の 動向、第 2 期推進計画の方向性、ポイントについて議論がなされた。

本稿では、第 19 回関係者会議の内容を概説するとともに、基本法推進する任意団体であるアル法ネット(アルコール健康障害対策推進ネットワーク )、 SBIRTS( Screening 、 Brief Intervention,Referral to Treatment,and Self-helps Group)に関する最近の動向について報告する。

1. 第 19 回アルコール健康障害対策関係者会議 1)の概要

(1)第 2 期推進計画の検討スケジュールが提示

第 2 期推進計画の検討は令和元年から 2 年度にかけ、「発表・ヒヤリング(3 回)」「基本的施策の検討(3 回)」「計画改定案の検討(2~3 回)」10 回を予定している。本年 12 月より、「健診・医療・研究」「相談支援・社会復帰」「教育・誘因防止・飲酒運転」と大きく 3 つに分け、順に委員や外部実践家を対象にヒヤリングを実施する。この段階で得られた現状の確認、検討を行い、第 2 期推進計画に向けて改定案を取りまとめパブコメを経て閣議決定という流れとなっている。

(2)第 1 期推進基本計画の進捗状況

第 1 期推進基本計画の取組状況については、第 1 期推進基本計画の重点課題に沿って厚労省より報告がなされた。「1.飲酒に伴うリスクに関する知識の普及を徹底し、将来にわたるアルコール健康障害の発生を予防」では、未成年者(10 代)と妊娠中の飲酒率がかなり低下しているのに比し、生活習慣病のリスクを高める量を飲酒している男性の割合が微減しているものの、女性が増えている(平成 22 年:7.5%、平成 29 年: 8.6%)点が注目された。「2.アルコール健康障害に関する予防及び相談から治療、回復支援に至る切れ目のない支援体制の整備」においては、令和元年 8 月時点で、地域における相談拠点が 37、専門医療機関が 26 都道府県に増加しており、引き続き令和 2 年度内に全都道府県の設置を目指すこととなっている。

(3)最近のアルコール健康障害の動向

厚労省より、「アルコール健康障害にかかわる参考資料」を基に、わが国のアルコール消費量、国民の飲酒状況、アルコールによる健康障害、アルコールによる社会的影響、アルコール健康障害対策にかかわる取り組みの直近の状況について報告され た。また、国立病院機構久里浜医療センターの樋口進院長より、「アルコール健康障害に関する WHO の動き」として、世界規模における健康に及ぼすアルコール消費の影響(2016 年、全世界)が報告された。それによると、① 15 歳以上の 23 億人が飲酒した(15 歳以上の世界人口の約 43%)、② アルコール消費により 300 万人が死亡した(全ての死亡の 5.3%、これは、結核、HIV/AIDS、糖尿病を上回る)、③ アルコールにより、1億 3300 万の DALYs(障害調整生存年)が失われた(これは世界 の疾病負荷の 5.1%に当たる)、④ アルコール使用障害の数は、 2 億 8300 万人に上り、これは 15 歳以上の成人の 5.1%に当たる、などの状況であり、今後も世界戦略の 10 年間の実施状況の評価と今後の方向性策定に関する議論が行われるとのことである。

(4)第 2 期推進基本計画の方向性、ポイント等について

委員一人一人から、それぞれの立場から第 2 期推進基本計画に向けた要望などが出された。

2. アル法ネット(アルコール健康障害対策推進ネットワーク)の活動状況について

(1)2019 年度アル法ネット総会・幹事会

2019 年 8 月 12 日に、品川カンファレンスセンターで開催された。

議題1として、2018 年度の事業報告と決算報告が今成知美事務局長よりなされた。2018 年度の活動として、厚労省(アルコール健康障害対策推進室。依存症対策推進室)のサポートなど、 2018 年度の決算報告は、収支決算書、貸借対照表に基づき報告され、承認された。

議題 2 として、アルコール健康障害をめぐる状況として以下の通り報告があった。 ① ISBRA について、2018 年の京都大会とその報告書作成の経緯などについて堀井、松下幹事より報告がなされた。② 厚労省の事業と予算について、厚労省作成の資料を参照しながら、予算は増額されているものの、都道府県がその予算を活用することに消極的であること、地域の予算活用の実態が見えないということなどが指摘された。さらに、第 3 期関係者会議(推進基本計画の見直し)について、関係者会議委員の堀井、今成、小松、松本、稗田幹事を中心に状況が報告された。重点課題 1 において女性の飲酒が増加していること、重点課題 2 において依存症専門医療機関の選定が進んでいないことが指摘された。都道府県推進計画の状況について、今成事務局長より資料に基づき報告があった。推進状況については地域格差があることから、各地域のモニタリングが必要であることが確認された。③ 吉本幹事より、厚労省より「第 1 期アルコール健康障害対策推進基本計画における対策の取り組み状況及び効果検証に関する研究(1000 万円)」について、筑波大学が窓口となり受諾したことが報告された。先に挙がったモニタリングの役割を果たす研究として期待が寄せられた。依存症民間団体支援事業と自治体からの補助金について、該当団体から報告がなされた。④ SBIRTS 普及促進セミナーの展開について、大槻幹事より実施報告がなされた(後述参照)。

議題3として、アル法ネット活動方針と予算案「2019 年度」が提示された。また、議題 2 の報告と猪野幹事からの要望(札幌学会で理事会決定、後述参照)を受けて討議した。猪野幹事の要望書については、医療連携、特に総合病院、開業医との連携の重要性を共有した。なお、医師会との連携については、アル法ネットの幹事団体への可能性について議論され、例えば、岡山市アルコール研修ネットワークの実践(総合病院などを回って事例検討する)など全国にある成功事例を明らかにし、それを厚労省がモデル事業として後押しするというような意見が出された。また、大槻幹事から、「受診後の患者の相談支援体制事業」として全日本断酒連盟(以下、全断連)が厚労省より直接助成を受け実施していることについても報告があり、厚労省の予算を有効に活用できるよう、厚労省より学ぶ機会を得たらどうかという提案があった。

(2)アルコール問題議員連盟総会に出席

2019 年 10 月 17 日衆議院第 2 議員会館にて、アルコール問題議員連盟総会が行われた。今回は、依存症に関連する診療報酬がテーマであった。中谷元議員連盟会長、中川正春同副会長、福山哲郎同事務局長など衆・参議院議員、厚労省依存症関連の課長、室長他、アル法ネットからは7名が出席した。

まず、堀井アル法ネット代表幹事より、減酒治療の最新情報を踏まえ、アルコール関連疾患患者節酒指導料(案)についての概要の説明後、吉本尚幹事(日本プライマリ・ケア連合学会)より、自らの外来で節酒指導を実施した効果の調査について説明があり、その後、稗田里香幹事(日本医療社会福祉協会)より SBIRTS に絡めたアルコール関連疾患患者節酒指導料(案)を説明した。出席した議員からも、身体合併症で一般医療機関を繰り返し受診しながらもアルコール依存症の治療につながらずに死亡する深刻な状況に対応する重要な診療報酬であると評価され、関係省庁(厚労省など)の担当者に向け実現の後押しがなされた。厚労省からは、この案についてはすでに把握していたが、反応として、エビデンスがどうなっているのか確認するということにとどまった。厚労省に出向経験があり診療報酬改定に詳しい日本医療社会福祉協会会長の早坂由美子氏からは、エビデンスを厚労省に積極的に示すことによって、2022 年度の診療報酬改定にいれるということが現実味を帯びてくるかもしれない、という示唆をいただいた。また、会議では、2008 年に新設された「精神科医連携加算」について、身体科が依存症と診断し、専門医療機関に紹介した際に加算がとれるという認知をもっと浸透させるために、「うつ病等」を「うつ病、依存症等」と書き加えることを厚労省に要望した。

3. SBIRTS に関する動向について

現在、厚生労働省の事業として財政的支援を受け、都道府県の推進計画にもサポートされながら、SBIRTS 普及セミナーが全国展開されている。具体的には、2018 年度から開始され、宮城、埼玉、愛知、三重、京都、大阪、広島、徳島、熊本で実施し、2019 年度は北海道、山形、神奈川、富山、長野、静岡、愛知、奈良、兵庫、鳥取、香川にて順次実施が進められている。これらはアルコール依存症治療に専門的に取り組んできた精神科医(辻本士郎氏、菅沼直樹氏、和気浩三氏)が全断盟と協同 し、展開している。回復者で構成される全断連と回復を支援している専門医が国と地方自治体の支援を受けながら、協同して SBIRTS の普及を図る、恐らく世界に類を見ない取り組みが進行中である。開催県の学会員には、ぜひ、ご協力、ご参加をお願いしたい。

その後の情報であるが、日本アルコール関連問題学会東海北陸地方会が 2019 年 12 月 8 日、三重県四日市市にて 19 の後援団体を得て、開催され、その過程で、県医師会、四日市医師会、県産業医会、県薬剤師会、県栄養士会、県医療ソーシャルワーカー協会などが県内地方会を立ち上げ、地域連携、一般病院における院内連携に向けて、関連学会・職能団体が連携していくことを確認した。地方から中央の学会・職能団体の連携をサポートしていくことも確認し、今、その準備作業を行っている。

<参考文献>
厚生労働省ホームページ:1)
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000167071_450973.html

11. 学術会議からの提案

池田和隆
(東京都医学総合研究所 依存性薬物プロジェクト)

前号でもご紹介いたしましたように、アディクションに関する問題の拡大と高まる社会からの関心や関連法案の成立を踏まえ、アカデミアがアディクション問題に対して何をなすべきか、日本学術会議アディクション分科会(委員長:池田和隆)で検討しております。その検討内容は、日本学術会議からの提言とし て公表される予定です。タイトルは「アディクション問題克服に向けた学術活動のあり方に関する提言」で、アディクション分科会に加え、脳とこころ分科会(委員長:山脇成人)と神経科学分科会(委員長:伊佐正)も含めた 3 分科会からの共同提言として、2020 年 3 月の公表を目指しています。既に提言案は作成されていて、3 分科会での承認、アディクション分科会の親委員会である臨床医学委員会(委員長:神尾陽子)での承認も得られていて、今後、部会、幹事会での査読結果を踏まえた改訂が行われます。

現段階での提言案には以下の 5 つの柱があります。提言① アディクションにおける多様性の把握と関連研究・教育の推進、 提言② アディクション症対策におけるテーラーメイド化推進、提言③ アディクション研究人材の育成、提言④ 薬物依存症者の社会復帰のための新しいガイドラインの作成、提言⑤ アディクションに関する情報収集・研究・対策・治療・広報を包括的に取り扱う拠点研究機関の設置。これらは、文部科学省科学技術 ・ 学術 政策研究所 (NISTEP) の調査事業とも連携した JMSAAS 役員 28 名への書面調査で提起された 189 の研究開発課題を分析した結果を踏まえたものです。また、厚生労働省の依存症対策全国拠点機関である久里浜医療センターの樋口進院長とも連携しており、現制度では抜け落ちている「研究」の拠点の重要性を提言で述べています。

提言の準備状況は、前回の JMSAAS 学術集会の教育講演「拡 大するアディクション問題へアカデミアはどう取り組むか」 (2019 年 10 月 5 日)においてご紹介しました。参加者より貴重なご助言をいただき、提言を改訂しております。今後も、2020 年 1 月 18 日(土)の東京都医学総合研究所都民講座「依存症に正しく向き合う」(講師:池田和隆、松本俊彦、会場:神保町一橋講堂)、2020 年 4 月 3 日(金)の日本学術会議上記 3 分科会合同公開シンポジウム(会場:乃木坂日本学術会議講堂)、2020 年 7 月 10、11 日の JMSAAS 学術総会でのシンポジウム(会場:福岡国際会議場)、2020 年 7 月 29 日-8 月 1 日の日本神経科学大会でのシンポジウム(オーガナイザー:関野祐子、会場:神戸コンベンションセンター)、2020 年 9 月 16 日(水)の脳の世紀シンポジウム「依存症と脳」(会場:有楽町朝日ホール)などでのシンポジウムや講演会が予定されていて、提言の広報もして参ります。また、日本学術会議の重要なミッションは国への提言ですので、公官庁へのご説明も積極的にしていく予定です。

提言の推敲、広報、具現化など、ぜひ JMSAAS 会員の皆様のお力添えをいただきたいので、どうぞ引き続きよろしくお願い申し上げます。

12. 賞選考委員会より

宮田久嗣
(東京慈恵会医科大学 精神医学講座)

学術賞選考委員会は、宮田久嗣(委員長)のほか、委員として曽良一郎(精神医学)、松本博志(法医学)、堀江義則(内科学)、池田和隆(薬理学)、岡村智教(衛生・公衆衛生学)、廣中直行(心理学)、 近藤あゆみ(精神保健・看護)(順不同)のメンバー(敬称略)で構成 されます。

1.柳田知司賞

学術賞選考委員会の最も大きな仕事は、柳田知司賞の選出です。柳田知司賞は、薬物依存研究の世界的な権威であり、本学会の前身である旧ニコチン・薬物依存研究フォーラムの理事長としてご活躍された柳田知司先生のご功績を顕彰するとともに、この領域での次世代を担う若手研究者の育成を目的として 2011 年に創設されたものです。その後、学会は 2 回の統合を経て、現在はアルコールおよび薬物、行動の依存・アディクションに関する研究の発展に大きく貢献し次世代を担う会員に与えられる本学会最高位賞として位置づけられています。従来は 50 歳以下(対象年の前年 12 月末)の会員を対象としていましたが、本学会最高位賞との整合性をとり、より多くの会員を対象とするために、2020 年から 55 歳以下に対象が広がります。

これまでの受賞者は以下のような先生方(敬称略)です。

第 1 回(2011 年)
高野裕治(NTT コミュニケーション科学基礎研究所)
第 2 回(2012 年)
該当なし
第 3 回(2013 年)
森 友久(星薬科大学 薬品毒性学教室)
第 4 回(2014 年)
池田和隆(東京都医学総合研究所 依存性薬物プロジェクト)
第 5 回(2015 年)
永井 拓(名古屋大学大学院 医学系研究科 医療薬学・付属病院薬剤部)
第 6 回(2016 年)
中村幸志(北海道大学大学院 医学研究科社会医学講座公衆衛生学分野)
第 7 回(2017 年)
松本俊彦(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部)
第 8 回(2018 年)
溝口博之(名古屋大学 環境医学研究所附属次世代創薬研究センター)
第 9 回(2019 年)
髙橋英彦(東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 精神行動医科学分野)

これからも、多くの分野の先生方に受賞していただきたく、是非、会員の方にご推薦いただければとお願い申し上げます。柳田賞の推薦方法は、本学会の HP に掲載されていますし、京都事務局に問い合わせいただければ必要書類をメールや郵送でお届け致します。

2.CPDD(the College on Problems of Drug Dependence)賞

そのほか、毎年 6 月中旬から後半に米国で開催される世界で最も大きなアディクションの学会である CPDD で発表される会員 2 名を援助する企画もあります。CPDD は薬物依存から行動嗜癖まで、最先端の基礎研究から臨床報告まで一同に会するとても刺激的な学会です。対象は若手の会員ですので、ふるってご応募ください。応募方法は、柳田知司賞と同様に HP をご覧になるか京都事務局までお問い合わせいただければと思います。

13. ハームリダクションに関する特別委員会について

齋藤利和
(医療法人 北仁会 幹メンタルクリニック)

ハームリダクションとは、「合法・違法に関わらず精神作用性のある薬物の使用量は減ることがなくとも、その使用により生じる健康・社会・経済上の悪影響を減少させることを主たる目的とする政策・プログラムとその実践」であると定義されている。

ハームリダクションが実践されたのは、違法薬物の静脈注射使用者が注射針(注射器)を使いまわしすることによる HIV 感染拡大を防ぐために注射針(注射器)交換プログラムがその最初とされる。

しかしながら、現在次第にその意味が拡大し、例えばアルコール依存症における「やめさせることよりも治療につながり続けることを目標にした減酒プログラム」もその中に包含されている。

さらにプログラムの範囲は従来、物質依存に限られていたが、最近はギャンブルなどの行動嗜癖にまでその範囲は拡大されている。

平成 28 年にはカジノを含む複合施設の設立を推進する「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案(IR 推進法案)」が成立し、所謂ギャンブル依存が広がることが懸念されている。この懸念を払しょくするものとしてもハームリダクションの用語が使われる傾向すらある。

本委員会の目的は現在のこうした拡大しつつあるハームリダクションをめぐる様々な混乱や誤解・誤用を整理するとともに個々のアディクションに対するハームリダクションプログラムの適応を検討し、適切な治療に結び付ける糸口を探ることにある。委員会メンバーは 10 人程度を予定し、定期的な会合の中で、率直な議論を交わしていく予定である。

14. 学術委員会設立について

和田 清
(埼玉県立精神医療センター 依存症治療研究部)

2019 年 7 月 15 日の理事会にて、当方が「依存と嗜癖の使い分けの徹底」、「学会員の研究費獲得に対する学会としての支援」を提案させて頂き、その結果、私と池田和隆理事とで学術委員会を組織し、当面の課題として、提案について検討することが承認されました。アルコール・薬物医学会時代には教育委員会というものがあったように記憶しておりますが、当学会に学術委員会がなかった事実は、少々、意外でもありました。

もともと「依存(dependence)」という用語は、WHO により「ある生体器官とある薬物との相互作用の結果として生じた精神的状態であり、時には身体的状態を併せもつ状態であり、・・・」と定義つけられた用語ですが、わが国ではいつの間にか、「行動嗜癖(behavioral addiction)」に対しても「依存」と称する傾向が強くなっている感があります。ちょうど本年は ICD-11 が公表された年でもあります。これを機会に、わが国での学術用語を国際標準に照らし合わせて、是正すべきところは是正する必要があると考えています。

また、今日、公的研究費の獲得には、個人の力だけでは太刀打ちできない側面も出てきているようです。この問題に対して、学会としてどのような支援が可能かを検討していくことが必要かと思います。

学術委員会としては、以上の 2 点を当面の課題として、学会の発展のために寄与していきたいと考えています。ご協力のほど、よろしくお願いします。

学術委員会委員:池田和隆(薬理)、神田秀幸(公衆衛生)、廣中直行(心理)、福永龍繁(法医)、堀江義則(内科)、和田 清(精神)

15. 一般投稿:2019 年度アルコール薬物依存関連学会 合同学術総会印象記

金漢午(キム・ハノ)
白秀賢(ベク・スウヒョン)
(韓国 啓耀(ケヨ)病院 依存症センター)

私たちは日本と特別な縁で結ばれている。日本の女性と結婚して家庭を築いている金漢午と東京で小学校から高校まで通い人格形成期を過ごした白秀賢にとって、日本は第二の故郷のようなものである。また、2005 年に開催された第 1 回 APSAAR(ソ ウル)、2012 年の ISBRA Satellite Symposium(横浜)、2019 年 の ISAM(釜山)などの国際学会で齋藤利和先生や樋口進先生、依存症の治療に専念されている沢山の日本の先生方と出会い、 JMSAAS に自然と興味を持つようになった。

そして日本での依存症関連の学会はどのようなものであるか興味が湧き、一度発表を兼ねて参加してみたいと思うようになった。シンポジウムを申し出たところ、とてもありがたいことに教育講演という形で「AA12 のステップの動機づけアプローチ (白秀賢)」と「逆 12 のステップ(金漢午)」について話す機会を頂けた。

発表を期に、日本と韓国の依存関連学会の交わりにわずかながら寄与することができれば良いと思った。また今回の合同学術総会への参加を通して学び感じたことを、初めて JMSAAS に参加した外国人の視線で少し述べたいと思う。

一つ目は学術大会の大きな規模だった。2 泊 3 日という長期間に亘って開かれ、抄録集には 253 もの抄録が載っていた。発表者の重複を考慮しても、240 人以上がそれぞれの研究や臨床経験を発表していて、依存症からの回復にこれだけ熱心な先生方がいらっしゃるということが力になった。

二つ目は実用的で臨床に応用できる発表内容だった。理論や新研究に関するセッションもあったが、全般的には現場で当事者と向き合って経験した内容が多く感じられた。このようなことは、実用を重んじる日本人の特徴が反映されているように思えた。

三つ目は多様で組織的なプログラムの構成だった。シンポジウム、特別講演、教育講演、一般口演、ポスターセッション、ワークショップ、分科会、市民公開講座など多彩なプログラムが組まれていた。最も印象的だったのは一般口演だった。7 分の発表と 3 分の質問時間が正確に守られていて、若手研究者がそれぞれの題で発表するのを聴きながら、日本の依存症治療分野の未来は明るいと感じた。経験の程度によってポスター、一般口演、シンポジウム、教育講演、特別講演という順序があり、誰でも発表できる場のように感じた。

四つ目は参加者の職の多様さだった。精神科のみならず内科、法医学、基礎医学に携わる医師や、看護師、社会福祉士、心理 士、薬剤師など、依存症の治療に携わるほぼすべての職種の人々や、回復中の当事者などが参加し、まるでパーティーのように思えた。職に関わらずそれぞれの意見を交し合い、協力して依存症患者を助けたいという気持ちが一つになったように感じた。

五つ目は市民公開講座の開催だった。学術総会の後、日本の依存症関連ホームページを検索したら地域の依存関連学会で一般市民を対象にした公開講座を開いていることが分かった。学会に依存症の専門家だけが参加するのではなく、市民とともに成長しているという印象を受けた。

六つ目は事前に抄録集が郵送されるということだった。懇親会で隣に座った先生から、直接発表は聴けなかったが抄録を興味深く読んだと言われとても驚いた。事前に送られた抄録集を前もって読んで学会に参加される先生方がいるということに驚きを感じた。

七つ目はインフォメーションコーナーの存在である。依存関連学会や催しに関する様々な情報を得ることができた。実はこの原稿を投稿しようと思ったのも、インフォメーションコーナーに置かれた JMSAAS ニューズレターで投稿募集を読んだからである。さらに当学会期間中に開かれる特別講演などのパンフレットもあり、逃さず聴くことができた。

八つ目は依存症関連書籍の販売である。ここで 2018 年に改訂された新アルコール薬物使用障害の診断治療ガイドラインを購入し、日本が国家的に依存症を解決するために学会と手を結んだということに気づいた。それ以外にも、普通の書店ではなかなか手に入らない依存症に関する貴重な書籍を手に入れることができた。片手の指では数えきれない素晴らしい学会であったが、一つだけ提案したいことがある。見慣れないせいでもあるだろうが、抄録集から目当ての抄録を探すのがとても難しかった。できればシンポジウム別とか、日にち別のように読み手が探しやすい工夫があればより実用的な抄録集になると思う。 懇親会で今学術総会の白坂知信会長から来年の訪問を促して頂いたが、「行きます」とすぐに答えることができなかった。言語の壁を無視することはできなかったからだ。しかし今回の参加を期にまた訪れ、交わり合い、より馴染んでいきたいと思った。

16. 編集後記

広報委員・学会理事長 藤宮龍也
(山口大学大学院 医学系研究科法医学講座)

ニューズレター第4巻第2号をお届け致します。ご寄稿頂いた先生方に厚く御礼申し上げます。ならびに、会員の皆様には日頃から本学会にご支援ご協力を頂き、誠に有難うございます。 さて、2019 年は令和元年となり、本学会は一般社団法人として無事に走り出せた年でした。アルコール健康障害対策基本法に関連する動きが各地域で始動するようになりましたが、気になる話題を3点ほど挙げたいと思います。

まず、ハームリダクションの議論が活発化してきました。断酒から減酒へとパラダイムシフトが進行し、本ニューズレターにおいても齋藤先生が特別委員会について寄稿しています。また、ギャンブル依存やインターネット依存などの行動嗜癖を巡って、依存か嗜癖かの用語の統一について学術委員会で検討されるようになってきました。

法医学領域では性暴力におけるアルコール・薬物問題、すなわち、デート・レイプ・ドラッグが注目された年と思います。現在の日本では強姦神話が浸透しています。1)事態を招いた原因の一つに被害者の言動・行動(落ち度)がある、2)被害者は必死に抵抗し、怪我などを追っているはずだ(有形力の行使の痕跡)、といったものです。女性の中にも強姦神話を当然と思っている人が多いようですが、性暴力では同意と抗拒不能の認定が問題となります。多くの事例では、意識消失したブラック・アウト下の生物学的反応を巡って、同意があったとか、抗拒不能か等が問われています。ブラック・アウトは法医学と精神医学との境界領域で、解明が十分とは云えず、ますますの研究が必要と思っています。

以上のように、アルコール・アディクションは社会から注目を集めている領域です。その研究の中心学会の JMSAAS には、社会からも研究者コミュニティーからも大きな期待が寄せられています。その期待に応えられるよう学際性をうまく運用して、 JMSAAS 会員の皆様が当該領域で益々ご活躍いただくとともに、関連の学術領域の皆様にも広く連携していただき研究を発展していけると良いと思います。会員の皆様からの今後の本学会へのご厚情ならびにご支援のご継続、何卒よろしくお願いいたします。

(本 News Letter への忌憚なきご意見をお寄せください。E- mail: jfndds@mynavi.jp にて受付けております)