6-1号 (2021年9月)

1.薬物検査について

上村公一
(東京医科歯科大学 法医学分野)

我が国で社会的に最も損失が大きい薬物はアルコー ルです。法医実務においても、以下の様なアルコール 関連事例の解剖が見られます。

  • 酩酊状態でのけんか(他殺、傷害致死事件)
  • 「一気飲み」など過量飲酒による中毒(不慮の事故)
  • 転倒・転落、溺死、凍死などの事故(不慮の事故)
  • 飲酒運転による交通事故(不慮の事故)
  • アルコール性肝障害(病死)

そのため、法医解剖では血液や尿のアルコール測定は必須の検査項目です。腐敗によるエタノールの死後産生の問題はありますが、ガスクロマトグラフを用いた気化平衡法(ヘッドスペース法)で正確にアルコールを検出できます。

法医解剖では他の多くの薬物の検出についても注意をはらいます。解剖時に得られた血液・尿からの薬物スクリーニングは必須です。時に、救急搬送先で採血された血液も薬物検査に使っています。警察は結果を早く知りたいので、解剖終了時点で薬物の使用の有無 について聞かれます。解剖中に簡易薬物検査キット(トライエージⓇ、クイックプロファイルⓇ、など)を用いて、検査を行っています。この検査キットは高額な検査機器や熟練した検査手技は不要で、尿サンプル滴下後 1 分以内に結果が判明する優れたツールです。解剖終了時点で薬物使用の有無について、ある程度の結果が判明します。しかし、最近、この簡易薬物検査キットによる 2 件の覚醒剤の見逃し未遂事例がありました。覚醒剤は違法薬物であり、体内から検出されただけで使用者は検挙されます。もちろん、法医解剖された死亡者は逮捕されることはないが、死亡者の覚醒剤使用が確定すると、覚醒剤の売人や流通にかかわる人を検挙するため、警察の捜査対象になります。当然、検査する側も正確な検査結果が要求されます。当分野は、解剖後、血液・尿・胃内容物を用いて、LC/MS/MS による約 200 種類の薬物スクリーニング検査をルーチンに行っています。今回の事例では、薬物スクリーニング検査で血液・尿からメタンフェタミン、アンフェタミンのピークが検出され、覚醒剤の使用が確定し、簡易薬物検査キットの覚醒剤見逃しを防ぐことができました。多くのキットはイムノアッセイ法を使っており、説明文書を見ると、カットオフ値は d-Amphetamine で 1,000 ng/mL と記載され、今回は尿中の覚醒剤濃度が比較的低かったため、カットオフ値未満となり、陰性となったと思われます。

簡易検査はあくまでも簡易的な検査であり、正確な結果を得るには、面倒で時間がかかろうとも定評のある標準的な検査法の実施が必要であることを痛感した次第です。

2.2021 年度年会案内(廣中直行)

廣中直行
(東京都医学総合研究所 依存性物質プロジェクト客員研究員)

2021 年度アルコール・薬物依存関連学会合同学術総会(JMSAAS 第 56 回学術総会)の準備状況についてご報告申し上げます。シンポジウム、一般演題に多数のご応募をいただき、厚く御礼申し上げます。本年の学術総会は COVID-19 の状況に鑑み、次のような方式で開催いたします。

  1. 1)現地会場はホール一室のみ確保し、ここをハイブリッドのセッションに使用します(このセッションには JMSAAS と共催の薬物依存、および行動嗜癖に関する2件のシンポジウムが含まれます)。
  2. 2)ただし、11 月 14 日の時点で東海北陸地方(石川、福井、富山、岐阜、愛知、三重、静岡)が緊急事態宣言もしくは蔓延防止等重点措置の実施区域となっていた場合、現地会場は使用せず、全面オンラインとします。
  3. 3)他のセッションはすべてオンライン開催とします。 したがって第 56 回JMSAAS 学術総会のプログラムはもっぱらオンラインで開催します。現在、日程の割付やオンライン開催の実施法を検討しております。また、事前参加登録を受け付けております。各種のご案内は主に合同学術総会 WEB ページ(https://alcohol2021.jp/index.html)に掲載しますので、随時閲覧くださいますようお願い申し上げます。

今年度は各種のアワードに工夫を加えたいと考えております。そこで優秀演題賞は、抄録に基づく評価に加えて座長による実際のセッションを視聴しての評価を併用することといたしました。そのため会期中の表彰は行わず、次年度の適切な時期にあらためて結果の発表と表彰を行います。

この一年半ばかりの間に、私たちは様々なオンライン学会や研究会を経験しました。当初、オンラインの会合は現地開催が不可能なためにやむなく開催するものでしたが、次第にオンライン独自のメリットがわかってきました。第 56 回学術総会がオンラインのメリットを活かせるように工夫を重ねて行く所存です。基礎、臨床の両面から多領域の専門家が集う JMSAAS ならではの学術総会を目指して参りますので、各位のご協力をよろしくお願い申し上げます。

3.2022 年度年会案内(白石光一)

白石光一
(東海大学医学部付属東京病院 消化器内科)

現在、2021 年 12 月開催の第 56 回学術総会(廣中直行会長)の準備中ではありますが2022 年学術総会について当番会長としてご案内いたします。第 44 回日本アルコール関連問題学会学術総会(石川達会長、医療法人東北会 東北病院)と合同でアルコール・薬物依存関連学会合同学術総会として 2022 年 9 月 8 日(木)~9 月 10 日(土)に仙台国際センターで開催することとなりました。現在、合同会議を重ねて現地で開催することを目指しています。

大切な学会テーマはまだ正式には決めていませんが、アルコール・アディクション医学会の伝統であるサイエンスと臨床の一体化になるような企画を考えています。研究機関による科学的探究や社会的探究、そして依存性物質が関与する臨床的探究がうまく一体化して社会、臨床、患者とその家族に貢献できる学術総会になるよう努めてまいります。

特に、2019 年から始まった新型コロナウイルス感染症蔓延に伴う生活環境、職場環境の変化は飲酒やほかの依存性物質使用にどのような影響があるのかちょうどまとめることができる時期の開催になります。会員の皆様には是非今から意識して情報を集積していただけますようお願いいたします。緊急事態宣言など抑圧の下では人はどのような心理、行動をとるのか、依存物質、行動嗜癖の悪化または発症はあるのか、生活習慣の変化で肥満や代謝性疾患とアルコール摂取はどのような関係があるか、依存症治療や臓器障害の治療に弊害はあったのか、本学会の学術的活動に障害はあったのかなど考えなければならないテーマは多岐に渡ってあります。

是非、仙台の地でのびのびとアルコール・アディクション医学会学術総会並びに合同学術総会が開催できますようご協力お願いいたします。

4.施設紹介:(復光会垂水病院 麻生克郎)

麻生克郎
(公益財団法人復光会垂水病院 副院長)

垂水病院が開設されたのは、1961 年 11 月ですが、当時、覚醒剤の乱用は端境期で、日本でもヘロインが流行していました。大きな港を持つ横浜と神戸が、最も深刻な問題に直面していたのでしょう、横浜にはせりがや園が開設され、神戸には垂水病院が誘致されました。開院当初の入院患者の大半はヘロイン中毒であったと記録されています。ヘロイン乱用はすぐに下火となりましたが、その後もアルコール依存症や覚醒剤精神病などの患者を数多く引き受け続けてきました。

2020 年度の年間新規入院数、502 例の中で、アルコール関連障害が 333 例(65.3%)、薬物関連障害が 47 例(9.4%)となっており、依存症拠点病院の名に恥じぬデータとも言えますが、精神科病院としては非常に偏った症例構成でもあります。安定経営のためには精神障害全般を幅広く受け入れたいところですが、「専門病院」のラベルが紹介経路を狭めていることも否めません。

ふた昔ぐらい前には、垂水病院も閉鎖的で懲罰的なアプローチが中心であったようですが、今ではすっかり様変わりしています。2020 年度に入院したアルコール関連障害の 96%、薬物関連障害の 89%が任意入院となっています。当然、患者の自由も拡大しています。一方で入院中の飲酒や薬物使用の抑制もまた重要な課題ですから、垂水病院では 10 年前から、入院患者を対象としたランダムの呼気・尿検査を行うようにしています。患者は自由に散策や外出ができるのですが、いつ何どき、呼気のアルコール検査や尿の薬物検査を受けるかわからないということです。ちなみに尿検査は、自前の尿検査ですから、結果をいずこかに通報するようなことは、原則的にはありません。この方法の有効性については何とも言えませんが、今のところ開放処遇に困難を感じることもあまりありません。

垂水病院では早くから地元断酒会との交流が続き、1978 年に院内断酒会「三杉会」が作られています。世紀が変わった頃から、認知行動療法の導入を志し、経営指向の制約の中で、少しずつ治療プログラムを拡充してきました。しかし小さな民間病院ゆえのスタッフの多忙はいかんともしがたく、S センターや K センターなど、他人様の作成したテキストもいくつか利用させていただいております。

2018 年 3 月から新築の病棟を使用しています。六甲山地の西のはずれの丘陵に、七階建て病棟が建ち、その眺望は素晴らしく、患者や職員の心をさわやかにしてくれます。居室も広く、プライバシーへの配慮もなされ、その良好な居住環境は、治療にも影響を与えてくれていることと思います。

しかし、昨年来の COVID-19 の影響は深刻です。幸運にも入院患者の感染は未経験ですが(2021.8.25 現在)、感染予防のために多大な犠牲を払っています。まず、地域断酒会や AA、NA、ダルクなどとの交流が大幅に縮小・後退しています。入院中から自助グループに参加していただく作戦に急ブレーキがかかり、院内のプログラムもまた、感染予防の優先で削減されています。泥縄でオンライン導入に取り組んでいますが、成果が得られるには至っていません。今のところ、パンデミックの消退を祈るばかりです。

2018 年 3 月より供用開始した現在の病棟
緑豊かなデイルームからの景観

5.研究室紹介:(東京医科歯科大学大学院 高橋英彦)

高橋英彦
(東京医科歯科大学大学院 精神行動医科学分野)

当分野では、私の専門以外にも様々な対象やアプローチで多様な研究活動している。臨床の判断に直結するような臨床研究から、病態解明や新規介入法開発に向けたトランスレーショナルな研究も実施している。そのなかでも今回はアディクションに関連する研究活動を少し紹介させていただきたい。

これまでに長年取り組んできた意思決定の神経科学、神経経済学の研究手法を精神疾患へ応用して行動嗜癖であるギャンブル障害を対象に研究を行ってきた。ギャンブル障害に特有の認知のバイアスやその神経基盤の MRI 等を用いた脳画像研究を行なってきた。最近は人工知能技術を活用して、ギャンブル障害の安静時fMRI イメージングバイオマーカーの開発やニューロフィードバックといった新規介入法の開発にも携わっている。また、精神疾患と喫煙とのかかわり、ニコチン依存に関しても脳画像研究を実践してきた。
また、当院では行動嗜癖に関連して、2019 年夏頃よりゲーム障害の患者を中心としたネット依存専門外来を設立し、治療及び研究協力依頼を行っている。外来で患者の経過を尋ねると、新型コロナ感染症による休校措置を機にスマートフォンやゲームの使用時間が長くなり、睡眠リズムの乱れ、学習の遅れが生じ徐々に不登校となったという相談が多い。大学生においては、オンライン授業中にゲームをプレイしてしまい、授業に徐々に出なくなり単位取得が困難になり受診する。スケジュール管理が苦手な発達特性をもつ患者においては特に学生生活において困難さが増し、ゲームの逃避的使用に至っているようであった。

研究活動としては、スマートフォンのコントロールが難しい患者に対し、KDDI 総合研究所、株式会社 KDDIの協力を得て、スマートフォンのログを取得し医療者もログの情報を共有しモニタリングの材料として治療・研究に活かす取り組みを行っている。また今後の計画として、「スマホの問題をスマホで治す」ことをテーマとした治療補助アプリの開発を目指している。家族の関わり方により本人の問題行動が軽減されることを活かし、医療従事者が関わることの難しかった診察外の時間帯にも、家族が患者本人と適切に関われるようなアドバイスを家族にできるよう働きかけることを目的とする。ゲーム障害患者全般を対象として、脳機能画像や表情画像といった生体情報を蓄積し、診断や治療効果の測定に活かせるようなバイオマーカーの確立も今後行っていく計画である。

6.アル法関連記事(堀井茂男、猪野亜朗、稗田里香)

堀井茂男(公益財団法人慈圭会慈圭病院)
猪野亜朗(泊ファミリークリニック)
稗田里香(武蔵野大学・特定非営利活動法人 ASK)

アルコール健康障害対策基本法の動向と 2021 年アルコール・薬物依存関連学会合同学術総会の基本法関連情報

はじめに

基本法施行後、「アルコール健康障害対策推進関係者会議」が内閣府に設置され、「アルコール健康障害対策推進基本計画」が、2016 年 5 月 31 日、閣議決定、その後 2017 年 4 月 1 日厚生労働省に移管された。それ以前の 2016 年 12 月、折しも IR 推進法成立を受けて、厚労省は大臣を本部長にした「依存症対策推進本部」を立ち上げており、本部は「アルコール健康障害対策推進チーム」「ギャンブル依存症対策推進チーム」「薬物依存症対策推進チーム」で構成されていた。内閣府から厚労省(障害保健福祉部)に移管した基本法の事務局「アルコール健康障害対策推進室」は、この「アルコール健康障害対策推進チーム」の事務局も兼ねることとなり、それに伴い、「アルコール健康障害対策関係者会議」も、厚労省に移管した。第 1 期基本計画では関連組織の連携を図るとともに、全都道府県に「都道府県アルコール健康障害対策推進計画」の策定を促し、今年 2021 年の和歌山県の策定で完了となり、次の政令都市、中核都市への計画策定が期待されている。
「アルコール健康障害対策推進基本計画」は、5 年後に見直されることになっており、2019 年 10 月 30 日の第 19 回関係者会議から 2020 年 12 月 24 日の第 27 回関係者会議まで、19 人の委員が 9 回の討議を重ねて、第2 期「アルコール健康障害対策推進基本計画(以下、第2 期アルコール基本計画)令和 3~7 年度」がまとまり、2021 年 3 月 26 日に閣議決定された。第 2 期基本計画は、第 1 期で打ち出した連携をさらに具体的に進めるものになっている。ここでは、アル法ネット(アルコール健康障害対策基本法推進ネットワーク)で取り上げているポイントを中心に概説する。全容については、参考資料ホームページを参照されたい。

1.第 2 期「アルコール健康障害対策基本計画」の概要

第1期基本計画が平成28(2016)年度に策定された 5年後の今、我が国全体のアルコール消費量は減少傾向にあり、成人の飲酒習慣のある者及び 20 歳未満の者の飲酒の割合も、全体として低下傾向にある。しかし、多量に飲酒している者の割合は男女とも改善しておらず、一部の多量飲酒者が多くのアルコールを消費している状況がある。特に、女性については、生活習慣病のリスクを高める量を飲酒している者の割合は、有意に増加しており、相対的に女性のアルコール健康障害対策の重要さが増している状況にある。また、平成 30(2018)年の成人の飲酒行動に関する全国調査では、習慣的な飲酒のほか、一度の飲酒機会に多量の飲酒を行う者(一時多量飲酒者)の割合が男性(32.3%)、女性(8.4%)となってい。こうした飲酒行動についても、事故による外傷等と関連するものとして、その動向を注視することが必要となっている。さらに、平成 27 年の OECD(経済協力開発機構)の報告によれば、日本では「最も飲酒が多い人々(20%)が、全てのアルコール消費量の 70%近くを消費している」との報告がある。このような実情を踏まえ、第 2 期アルコール基本計画は、第1期と比べると、早期発見・介入に向けより具体的、広範、効率的な内容となっている。ポイントは以下のとおりである。

  1. ①今回の基本計画では、すべての都道府県・政令指定都市で関係者連携会議を「年に複数回実施」することが重点目標に示された。
  2. ②早期発見から簡易介入・専門医療・自助グループへとつなげる「SBIRTS」(エスバーツ)という言葉も入り、地域連携のためのガイドライン、医療連携のためのガイドライン、治療ガイドライン、治療マニュアルなどの作成も示されている。
  3. ③アルコール依存症者の大半が内科等を受診しているにもかかわらず診断・治療につながらない「治療ギャップ」を解消するため、多くの関係者会議委員が、介入に対する診療報酬の必要性を訴えた。最後の最後に、「適切な診療報酬のあり方の検討に資するように、そのコストと有用性に係る知見の集積を進める」という文言が入ったのは大きな布石である。
  4. ④一次予防では、一時多量飲酒という言葉が初めて入り、習慣飲酒でなくても酩酊が関連問題の発生に関与することが示された。
  5. ⑤アルコール濃度が高いストロング系問題にも言及し、「飲酒ガイドライン」と連動して、酒類業界が容器への重量表示を速やかに検討することになった。
  6. ⑥コロナ禍の現状から、新たに、大規模自然災害、感染症流行等の危機に際し、国及び都道府県等における被災地支援者等に対するアルコール関連問題の対応に係る研修など相談支援体制の強化と、アルコール依存症当事者やその家族が回復に向けた取組を継続できるよう地域の関係機関と連携し支援を行うことが示された。

<参考資料>
「アルコール健康障害対策推進関係者会議」の議事録、資料
(https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000167071_450973.html)
第 2 期「アルコール健康障害対策推進基本計画」全文
(https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000760238.pdf)

2 2021 年度アルコール・薬物依存関連学会合同学術総会の基本法関連情報

本年令和 3(2021)年 12 月 17〜19 日、三重県津市において、第 56 回日本アルコール・アディクション医学会学術総会ならびに第 43 回日本アルコール関連問題学会の合同総会が開催される。アルコール健康障害対策基本法と関連するシンポジウムや演題を紹介したい。今学会のテーマは「最新医学を共有した連携の発展―基礎・臨床・多職種・多機関・そして地域から世界へ~コロナ危機を乗り越えて~」とした。アルコール健康障害対策基本法の土台にある「連携」という基本コンセプトを学会で取り上げ、発展させようと考えたもので、このテーマのもとに、プログラムが組み立てられており、ここでは主要なシンポジウムなどを紹介したい。(参照:当学会の HP のアドレス=「https://alcohol2021.jp」)

○メインシンポジウム「基本法下の地域連携」:(2コマ4時間枠予定)

北海道から九州までのブロック代表のシンポジストに加えて、日本精神科診療所協会、MSW 協会、日本プライマリ・ケア連合学会の職能組織や学会からの報告も受け、これまで地域で取り組んできた連携活動を報告し合い、互いの「スキルと情熱の交換」を行って共有し合い、基本法が現場に役立つようにしていく場にする予定。(基本法は国が第 2 期基本計画となり、都道府県の推進計画も第 2 期となっていく。)全国各地でアルコール依存症やアルコール健康障害に関わる学会員の多くが参加することで、これらの計画の企画や実施において、多くのヒントを得ることが期待される。

○シンポジウム「アルコール救急に関与する各機関からの報告と改善対策を巡って」

ここでは、大変な労力と緊張を要する「アルコール救急」を取り上げる。アルコール依存症や多量飲酒者の酩酊状態による外傷や交通外傷や持病の悪化は飲酒機会の多い夜間帯、医療機関の人員の手薄な時間帯に集中する傾向があり、対応する消防署、警察、救急科のスタッフは大変な苦労を強いられている。これらのスタッフに加えて、精神科、法医学の専門家も加わっていただき、多方面の立場から議論し、現場の苦労を「回復に繋げるチャンス」にしていく議論を深めたい。日本救急医学会ともジョイントを組む予定である。

○シンポジウム「総合病院でのアルコール健康障害治療連携チームの創生に向けて」

総合病院での連携不在の状況を解決すべく、設定したシンポジウム。総合病院には多くのアルコール健康障害や依存症の患者が受診しているが、殆ど連携した対応がなされていない。このような現状の中で、身体科医が他の職種のスタッフの助けなしに孤立無援でこれらの否認の強い患者、時に酩酊状態に対応せざるを得ない患者に対応している現実がある。当然、身体科医は諦めと及び腰になってしまう可能性が高い。そこでこのような現状を打破するために、身体科医、薬剤師、看護師、栄養士、臨床心理士、MSW、PSW、精神科医が院内で連携をして、様々な困難を抱える患者に協同した治療的介入を行い、回復を目指していくためのシンポジウムとして設定した。身体科医をバックアップしていけば、効果的な対応が可能になってくるのではないか、と考えており、トリートメントギャップの大きな要因を変えて行く契機になることを期待している。日本総合病院精神医学会ともジョイントを組む予定になっている。

○シンポジウム「アンガーマネージメント」

近年、各地で取り入れられているこの新たな技法の紹介を兼ねたシンポジウム。患者と家族への介入を互いに共有していくことが期待され、特に、「怒りと飲酒の繋がり」「本人と家族の怒りの連鎖」が患者や家族の大きな苦悩をもたらしていることを克服していく新たな視点になることが期待される。

その他、○「SBIRTS」シンポジウムでは、特に患者の長期予後を左右する自助グループへどう繋げるかの議論を予定。○「コロナ禍におけるアディクション問題」では、コロナ禍が医療現場と自助グループの活動に大きな影響があり、これをどう克服するか各地の実践を話し合うと共に学ぶ。○「ICT・電子機器を活かしたアルコール対策の現在と未来」では、アルコール呼気チェッカーを活用した職場の対策やスマホを活用した対策の紹介などが予定されている。

○「アルコール、ニコチン、非合法薬物を巡る物質依存のシンポジウム」、「ゲーム障害に絞ったシンポジウム」、「ゲーム症・病的ギャンブルの基礎から臨床実践」では、最新のエビデンスを共有し合い、新たな治療技法を共有したいと考えている。

○「職場の変化とアルコール対策」では、コロナ禍でのテレワークや職場の働き方改革などがもたらしている職場の変化へ対応できるアルコール対策を議論したい(産業医のポイントあり)。○「飲酒運転のシンポジウム」では飲酒運転ゼロ条例の効果と今後の課題について議論の予定。○「初心者からベテランへ、ベテランから初心者へ贈る言葉」の集いでは、如何に次の世代を育てるかという視点で、その効果を期待して3時間の話し合いを予定している。

また、○教育講演として、「「高齢者のアルコール依存症~認知症併存ケースの治療・支援についての考え方~」「アルコールと発がん」「断酒と禁煙」、加えて、昨年中止された「中村哲氏と過ごした日々、そして今―アフガニスタンでの事業はいかに継承されるか―」の特別企画を予定している。

○ワークショップとして、動機づけ面接法、TRUE COLORS、CRAFT 法を計画しており、職能別分科会として、看護、臨床心理士、ソーシャルワーカ、OT の分科会が予定されている。

コロナの感染状況により現地開催が困難になり、1会場のみハイブリッドで、他は全面オンラインで行う予定となっている。また、シンポジウムと教育講演はオンデマンドとして約1ヶ月間参加者に視聴可能となる計画である。コロナ禍の予測が難しいので、11 月中旬の感染状況によって全面オンラインになる場合もあり得ることをご承知おき下さい。多数の皆様のご参加を期待しています。

7.Covid-19 と依存症(高野裕治)

高野裕治
(人間環境大学)

2020 年より新型コロナウィルスの流行が続いており、日本アルコール・アディクション医学会としては、依存症のことが気がかりだと思います。私も心理学の研究者として、コロナ禍において何かできることはないかとずっと考えておりました。そのようなとき、2021年 7 月に開催された日本神経精神薬理学会のシンポジウムの演者としてお声かけいただけまして、さらにテーマが「ポストコロナのアディクション科学」という機会を得ることができました。そこで、コロナ禍の日常における嗜好品摂取の状況について、アンケート調査を実施して、日本の今について考えてみたいと思いました。また、私は以前から嗜好品を私たちの生活を彩り、豊かにしてくれる大事なものと位置付けてきました。なかなか上手い研究を進められてきた訳ではないのですが、私は研究者として、嗜好品が依存症というかたちで私たちを苦しめない在り方に、ずっと関心を抱いてきました。このためポストコロナにおける社会と嗜好品との関係について、建設的な提言ができるように、少しでも研究を前に進めようと思いました。

先行する研究からは、ウィルスへの蔓延防止対策は、例えばアルコールについて言えば、物理的にも経済的にも入手機会を減らしてしまうために、その消費も一時的には減少させることが予測されていました(Rehm et al., 2020, Drug and Alcohol)。また、一時的なアルコール摂取量の減少は、いくつかの国ですでに実施されている調査においても、データで示されつつあります(Scarmozzino and Visioli, 2020, Foods ; Alladio et al., 2021, Frontiers in Psychiatry)。
しかし、先行研究による予測は、ウィルスの流行が長期化していけば、社会生活へのストレスもかかり続けることにもなるため、アルコール摂取が増加に転じることも、この先には起こりうるとしていました。また、アルコールの摂取欲求という点でいえば、すでにコロナ禍における欲求の高まりを示している研究もありました(Scarmozzino and Visioli, 2020, Foods)。今後、より詳細に状況を整理して、しっかりとレビューできればと思っております。

このような状況を踏まえまして、2021 年 7 月上旬に、日本人 1000 人を対象とした web アンケートにより、嗜好品の摂取状況に関する調査を試みました。今回のニューズレターでは、まずアルコールに関連する部分について書きたいと思います(またの機会があれば、その他の嗜好品などについても文章を記してみたいと思っています)。アンケートの質問としては、アルコール摂取について、「新型コロナウィルス流行の前と比べて飲酒量と機会の増減があったか」の問いと、「アルコールをほどほどに摂取することは可能と思うかどうか」に関する個人の態度についてききました。

調査の結果の概要を述べます。まず飲酒量についてですが、これはアルコールをほどほど飲むことが可能だと認識しているグループにおいても、それは困難であると認識しているグループにおいても、両グループともにコロナ禍において、それ以前よりも減少していることを示していました。飲酒機会の頻度については、アルコールをほどほど飲むことが可能だと認識しているグループにおいては減少を示していました。一方、アルコールをほどほど飲むということは困難であると認識しているグループにおいては、コロナ禍とそれ以前においての差は示されませんでした。

アルコールをほどほど飲むなんて、とんでもない、それはできないなと感じている人たちでは、やはり飲む回数が減るということは生じていないようでした。しかし、一回あたりの飲む量は現状では確かに減っており、これは社会的な場面での飲酒の機会が減っていることによると推察できると思いました。アルコールをほどほど飲むことは難しいと思っている層は、おそらくお酒がとても好きな人たちだと思うのですが、回数までは減らせていないのだが、1 回の飲む量が減っているということは、多かれ少なかれ、我慢が続いているのだと理解することもできると思いました。

今、私はいわゆる新型コロナウィルスの日本における第5波の真っ只中で、この文章を執筆しています。この原稿が抱える不安定さや、歯切れの悪さは、まさにこの5波というものが、新型コロナウィルスの流行という事態における、流行の初期なのか、中期なのか、終盤を迎えつつあるのかが、何も分からないことにあります。私の調査の結果は、アルコールの量をコントロールできると自認している層も、できないと自認している層も、その摂取量が減少しており、何とか自粛生活を耐えしのいでいるという日本人の姿を想像させます。しかし、このまま日本において、社会的な場面での飲酒が自由にできないことで、我慢に限界がくることは新型コロナウィルスの流行を少しでもはやく終わらせたいという視点からは、どうしても避けたいことになります。私たちは、終わりが見えていることであるならば、目標を持って努力を続けることができますが、先の見えないことは苦手であります。だから、何とか社会がアルコール摂取を減らせているうちに、新型コロナウィルス流行が収束に向かっているのだという兆しを科学的に説明できる状況となることを願います。

これはとても困難なこともかもしれませんが、それでも何らかの見通しを示していかないと、お酒を飲むという点において、我慢の限界が先におとずれてしまうのかもしれません。例えば、このさき、強い社会的なストレスがかかり続けると、お酒を飲む量が増えてしまうことが起こりえるので、それは起こりえるのだと各人が自覚して、対処を建設的に議論しはじめるというだけでも、未来は違ってくるのかもしれません。また、このような議論はポストコロナへと至った際にも、急激に飲酒量が増加するような事態を引き起こさないための心構えを作ることに役立つのかもしれません。

今回の調査やこの執筆をきっかけとして、私は、今後も調査を重ね、エビデンスに基づいて、しっかりとした提言ができるように頑張りたいなと思うことができました。新型コロナウィルス対策として、ソーシャルコンタクトはかなり減っておりますが、それでも最小限とってきた face to face 場面において、「コロナあけたら、飲み行きましょうね!」と何度も聞いたし、自分も自然と口にしてきたように思います。このような正直な気持ち、自然な感情によって、社会を明るく、より良い在り方へとつなげていくためにも、科学者としてできることをやっていきたいと思います。

8.事務局からのご連絡・ご案内

【ご入退会・変更等手続きについて】

周囲に当学会へご興味をお持ちの方がいらっしゃれば、是非、本学会へのご入会をお勧めください。

1)入会について

入会は、正会員の場合、ホームページ上の web フォームにて、学生や賛助会員は「入会申込書」をダウンロードし、必要事項をご記入の上、下記事務局まで郵送・FAX・Eメール添付等でお申込みください。入会には理事会審査(1 か月に 1 度開催)が必要になるため、正式なご入会までには最大 2 か月程度お時間をいただくことがございます。

日本アルコール・アディクション医学会(東京事務所)
〒100-0003
東京都千代田区一ツ橋 1-1-1
パレスサイドビル (株)毎日学術フォーラム内
TEL.03-6267-4550 FAX.03-6267-4555
E-mail: jfndds@mynavi.jp
事務局営業時間:平日 10:00~17:00
※土日祝、年末年始、学術集会中はお休みいたします。

2)変更について

ご所属、ご職名などに変更がありましたら、ホームページ上の web フォームに必要事項をご記入の上、ご申請ください。

3)退会について

上記の事務局まで FAX、E-mail、郵送等文書に残る手段で、①当学会名、②退会される会員のフルネーム、③○○年度をもって退会するとの一文、の 3 点をご連絡ください。

【啓発用リーフレットについて】

当学会では「あなたの飲酒が心配です」とした、啓発用のリーフレットを 1 部 30 円で下記印刷所に販売委託をしております。ご希望の方は下記までご連絡ください。

  • 会社名 :畠山印刷株式会社
  • 所在地 :三重県四日市市西浦 2 丁目 13-20
  • 電 話 :059-351-2711(代)
  • FAX :059-351-5340
  • Email :hpc-ltd@cty-net.ne.jp

※学会ホームページにも同様のお知らせを掲載しております。

9.編集後記(高野歩)

高野 歩
(東京医科歯科大学 精神保健看護学分野)

コロナ禍の影響がまだまだ続く時期に、ニューズレター第 6 巻第1号をお届けすることになりました。各方面で奮闘されている皆様に、心から敬意を表します。お忙しい中ご寄稿頂いた先生方に厚く御礼申し上げます。ならびに、会員の皆様には日頃から本学会にご支援・ご協力を頂きまして、誠に有難うございます。

今回のニューズレターでもコロナに関する話題を述べられている先生が多くいらしゃいました。第 5 波の中にありながらこの編集後記を書いていますが、冬には第 6 波がやって来るというニュースも出ており、コロナ抜きに診療も研究も教育も行えない状況はしばらく続きそうです。一方で、コロナがなかったら変わらなかったことも数多くあります。在宅勤務により必然的に働き方が変化し、通勤・仕事とプライベートの時間の使い方を見直すきっかけとなりました。ICT の活用により会議や出張のあり方も変化しています。大学では多くの講義がオンラインでの実施となり、すっかり定着しました。かつてはオンラインで実施する理由を求められていたのが、今では対面で実施する理由を学生からも大学側からも求められるようになりました。講義をする側としては、教育内容だけでなく教育の方法と効果を改めて考える機会となっていると思います。また、多くの学術雑誌でコロナ特集が組まれ、フリーで論文が入手できるような仕組みも整備されています。コロナ禍真っ只中で制定された「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」においては、電磁的方法によるインフォームド・コンセントの方法が新たに追加され、文書による方法に加えオンラインによる非対面での研究説明・同意取得が可能となりました。今年度の学術総会のテーマの副題に「コロナ危機を乗り越えて」という文言が入っているように、新たな技術や工夫で危機を乗り越える力が試されていると感じます。

次回のニューズレターが発行される時期には、また違った状況となっていると思われます。今回の経験がアディクション分野の研究や支援にどのように活かされていくのか期待したいと思います。本年度の学術総会での発表も楽しみにしております。