3-2号 (2019年1月)

1.新理事長挨拶

藤宮龍也
(山口大学大学院 医学系研究科法医学講座)

本学会は、わが国におけるアルコール依存を始めとする種々のアディクションや関連身体障害の医療・研究に貢献することを目的として、精神科・内科・薬理・法医・衛生公衆・看護学・社会学・脳科学等の研究者や臨床現場の多くの医療職種等の方々で構成されている学際的な学術団体です。

我々ヒトは誕生とともに母への依存から始まり、種々の依存の誘惑の中で、それらを克服して個人として独立・成長していきます。その誘惑の中には飲酒や喫煙から危険ドラッグ・大麻・覚せい剤を始めとする薬物依存や、買い物依存・ギャンブル依存・インターネット依存などのアディクションがあり、その誘惑に捕まった事例の存在が深刻な社会問題となっています。これらを克服するためには種々の学際的な研究領域の協力が必須です。

また、肝障害を始めとしたアルコール・薬物関連の臓器障害はその拡がりだけではなく、臓器障害者の中に多くのアルコール依存症が含まれているため、その治療が困難となり、臓器障害を進展・重症化させています。このため、内科と精神科の連携が必要です。

職場などにおけるストレスの増加から生じるうつ病やストレス関連障害の陰にはアルコール関連の問題が潜んでいることが多く、問題をより複雑・深刻にしています。女性の益々の社会進出と働き方改革においては、その陰としての女性における依存が問題となっており、女性研究者の活躍が期待されます。交通関連ではゼロ・トレランスが叫ばれ、飲酒運転規制がより厳格なものへと叫ばれています。以上の種々の問題のために「アルコール健康障害対策基本法」が制定され、対策推進基本計画の策定などが行われていますが、今後は学術研究部門と社会との連携が必要となっていくと考えます。

一方、日本人にはアルコール代謝産物のアセトアルデヒドが代謝できずに体内蓄積して顔面紅潮などを起こすフラッシャーと呼ばれる遺伝性気質を有する人が4割程います。欧米人にはほとんど見られない、このアセトアルデヒド障害の研究は日本独自の分野であり、国際的にもリードすべき研究領域と考えます。アルコールの基礎研究には難問が多く残っており、今後の若手研究者の活躍が期待されます。

アルコール・アディクション医学の関与する問題は世界中で古くからの問題です。インターネット時代とともに世界の緊密度が増し、近隣諸国との連携・共存が求められるようになってきました 2018 年には国際アルコール医学生物学会(ISBRA)が京都で開催され、多くの国々からの研究発表があり、活発な意見交換が行われました。今後、さらなる国際対応が必要です。

民法改正により 2022 年より成人年齢が 18 歳に引き下げられますが、飲酒・タバコは 20 歳のままのため、飲酒や依存症予防についての教育の機会が増えると予想されます。また、医学教育においても行動医学がコア・カリキュラムで強調されるようになり、アルコール・アディクション医学への要請が増えるものと期待します。

本学会はこのような活動をより円滑に行えるように 2018 年 8 月より法人化されました。法人化により、学会としての社会貢献が行いやすくなりますが、同時にその責任も大きくなります。今後は法人としての社会貢献の形を模索するようになると思います。学会につきましては医師以外の加入会員が学術的発表や交流の場として多くご参加頂くようになり、アディクション対策の比重が増えてきています。学会内の連携や学会間連携などの必要性が増え、学会の活性化を期待しています。

以上のような背景・目的・趣旨にご賛同頂き、益々の皆様方の本学会へのご参加とご活躍を心からお願いする次第です。

2. 学会のこれまでとこれから ~理事長退任に寄せて~

日本アルコール・アディクション医学会
前理事長 齋藤利和
(幹メンタルクリニック)

30 年余り、理事、委員会委員長(委員)を務めてきた私の役目も理事長退任で区切りを迎えた。

この間私が目指したことは非医師会員の場の拡大、学会統合、国際化への対応、開かれた学会の実現などである。私が理事に初当選した頃、理事はおろか各委員会の委員もほとんどが医師会員で占められていた。将来計画委員会の委員だったころ、非医師会員の増加のみならず、非医師の役員の増加も目指すべきと主張して孤立した。しかし、その 10 年後、薬学出身の鈴木先生が理事長に就任した。学際的で学問的な学会への第一歩と感じた。その後も非医系の会員の増加と活躍は続いている。

日本アルコール・薬物医学会は 1966 年に創設され、アルコール関連障害を研究する唯一の学会であったが、1986 年日本アルコール精神医学会が設立された。2010 年代に入り国際化の影響などで学会統合の機運が高まり、2012 年日本アルコール精神医学会と独自の活動を続けてきたニコチン・薬物依存研究フォーラムが統合され日本依存神経精神科学会となった。さらに 2016 年 4 月 1 日日本アルコール・薬物医学会と日本依存神経精神科学会が統合され現在の日本アルコール・アディクション医学会が生まれたことは記憶に新しい。

そして今年は念願の法人化も成し遂げた。この間多くの学会で学会統合が叫ばれたが、なし得たのは当学会だけであった。誇りに思うとともに、このエネルギーを学会の飛躍に繋げてもらいたい。

次に目指したのは国際化への対応であった。20 年位前までは ISBRA 総会でのシンポジュウムを含む招待講演者になった当学会の会員は少なかった。当学会の力を伸ばしていくためにはアジアの国との連携が必須に思われた。当学会の主導で 4 年に及ぶ準備を経て第 1 回アジア・太平洋アルコール・アディクション学会は 2009 年 5 月韓国ソウルで開催された。国際学会への会員への参加援助も行った。従来のように発表者に援助するのではなく、シンポジュウムのオーガナイザーに援助する方式をとった。このため不満も少なくなかった。しかし今ではこの方式が定着している。ESBRA とのジョイントシンポジュウムも始まって 10 年以上が経過した。

これからは若手や女性の会員が国際的に活躍できる場をいかに作っていくかが課題と思える。開かれた学会としての活動は、市民公開講座の開催、飲酒運転に対する調査研究とその公開等が挙げられ、アルコール健康障害対策基本法設立にも貢献してきた。有名人の薬物使用や航空機パイロットの飲酒問題などが社会問題となっている現在、当学会がその専門的な見識を社会に発信し続けることを望む。

これまで理事、国際学会役員、理事長として信念に従って行動してきたつもりではある。しかしそれは、時にはわがままと映ったに違いない。にもかかわらず、多くの仲間の力によって、30有余年にわたる役員生活を無事終えることができたことに心から感謝したい。

3. 2018年度学術総会を終えて

第 53 回日本アルコール・アディクション医学会
会長 竹井謙之
(三重大学大学院 医学系研究科消化器内科学)

第 53 回日本アルコール・アディクション医学会学術総会は、 第 40 回日本アルコール関連問題学会(会長 辻本士郎先生)との共催(アルコール・薬物依存関連学会合同学術総会)として 2018 年 9 月 8 日~10 日、国立京都国際会館で開催させていただきました。

アルコールや薬物依存をめぐる生命医科学は、時代の最新技術と概念を取り込んで自らの発展を促したのみならず、新しいパラダイムの萌芽を育み、広く医学生物学を涵養する「最先端研究室」の役割を果たしてきました。

中枢・神経系を含む諸器官・多臓器にわたる「臓器間ネットワーク」という視点からアルコールや薬物の影響を考察しようとする最近の展開も注目されます。

このような新しい時代の息吹と学際領域拡大の胎動を感じ、日本アルコール・薬物医学会と日本依存神経精神科学会が統合後 3 回目となる本学術総会では、「依存症研究―生命医科学への展開」というテーマを掲げました。アルコールや喫煙、薬物など多様な依存症に対する最新の研究成果を基礎医学、社会医学、臨床医学、プライマリケアを包括する多彩な視点から討論することを企図しました。組織委員、プログラム委員はじめ会員の方々のご貢献により、特別講演3題(「依存をめぐる最近の動向」(樋口 進先生)「アルコール性肝障害の臨床的課題と病態解明の進歩」(池嶋健一先生)、「疾患脳細胞の統合的理解:リバーストランスレーショナルニューロサイエンスリサーチの展開」(成田 年先生))、教育講演4題、提言1、理事長企画シンポジウム等シンポジウム8企画、そして一般演題という充実したプログラムが編成され、最新知見の発表と真摯な討論が実現しました。

会期中には 950 名を超える方々に参加していただき、アカデミアと社会に情報発信することができたことは欣快の至りです。今回は ISBRA (International Society for Biomedical Research on Alcoholism) 2018(会長 樋口 進先生)との共同開催でもあり、最先端の医学生物学研究に関して国際的交流ができたことも大きな収穫でありました。

末筆になりますが、ご指導・ご協力頂きました組織委員・プログラム委員の先生方、会員の皆様、ご支援くださった企業の方々、そして運営に尽力してくれました当科医局員と秘書に深謝申し上げます。

4. 2019 年度学術総会のご案内

第 54 回日本アルコール・アディクション医学会
会長 白坂知信
(北仁会 石橋病院)

2019 年度アルコール・薬物医学会のお世話をさせていただく北海道の白坂です。プログラム・組織委員の各先生から、多くのご提案をいただき感謝を申し上げます。11 月末日までに決定ないし検討中のプログラム等に関してご報告させていただきます。

アルコール関連問題学会との共同開催ですので、両学会の特徴を生かしたプログラムを考えており、合同でプログラムを検討しています。

Ⅰ.合同総会のメインテーマは『時代背景としての依存症・アディクション問題』とさせていただきました。社会をにぎわす種々の問題の背景に、依存症・アディクション問題があることも少なくないと考えるからです。

Ⅱ.期日は10月4日の午後から10月6日の午後3時頃までを考えており、会場は札幌コンベンションセンターで開催いたします。

Ⅲ.特別講演として、

  1. Edward Riley先生(米国)に、「胎児性 アルコール症候群に関して」と題して講演をお願いしています。
  2. 南 昌廣先生(カナダ)には、「ルワンダ7のツチ族とフツ族の和解とPTSD・森田療法」と題してお願いをする予定です。

Ⅳ.教育講演として、

  1. DSM-5とICD-11 をめぐる依存症診断の問題
  2. やさしい薬理学とアディクション
  3. やさしい脳科学とアディクション

等を考えています。

Ⅴ.シンポジウムとして予定しているのは、

  1. 若手国際研究者による国際学会シンポジウム
  2. 日本学術会議アディクション分科会からの提言に関するシンポジウム
  3. 総合病院と専門医療の連携・ネットワークの現状
  4. 治療・ゴールの多様性を考えハームリダクションと QOLに関して
  5. ギャンブル依存症と治療に関する最近の現状
  6. DSM-5とICD-11 をめぐる依存症診断の問題 (
  7. ゲーム依存と診断治療について

Ⅵ.その他として

  1. 生きづらさとアディクション
  2. 性の依存問題
  3. 摂食障害と依存
  4. 重複障害と依存性
  5. 監察所の剖検におけるアルコール・薬物問題
  6. 公衆衛生学的諸問題
  7. 法医学的視点の疑問
  8. 内科学からのトピックス的諸問題

等を検討しています。

表記しましたのは精神科関連が主体になっておりますが、今後精神科以外のシンポジウムを作るために、各科先生方より具体的な内容のご意見をいただければ幸いです。今回は充分に討論ができるように、時間に余裕をもったプログラムの組み立てを考えています。 10 月の北海道は気候も温和で食べ物も美味な季節です。多くの先生方のご参加を心からお待ち申し上げております。

5. 2018 年度代議員会議事録

総務委員会委員長 宮田久嗣
(東京慈恵会医科大学精神科)

日 時 :
2018 年 9 月 9 日(日) 午前 11:20~11:50
会 場 :
国立京都国際会館 ルームD
議決権数:
208(過半数 105)
出席数:
109(うち委任状 69)

会に先立ち議長より定足数の報告ならびに議事録署名人の指名が行われた。議事録署名人として、宮田理事および廣中理事が 指名され承認された。

1. 年会長挨拶(竹井年会長)

竹井年会長より、このたびの学術総会について挨拶がなされた。

2. 会務報告(藤宮・総務委員長)

藤宮委員長が、昨年度および今年度の会員数ならびに事業報告・事業計画を説明。一同確認し、すべて異議なく承認した。

3.2017 年度決算報告 2018 年度予算案(廣中・財務担当理事)

廣中理事が、任意団体時の決算時の報告を行った。山本監事が、監査報告を行った。一同審議の結果、異議なくこれを承認した。続いて廣中理事が、2018 年度の予算案を提案した。一同検討の結果、異議なくこれを承認した。

4.賞選考委員会より柳田賞について(宮田・賞選考委員長)

宮田委員長が、今年度柳田賞受賞者を発表した。 第 8 回柳田知司賞 受賞者:溝口博之(名古屋大学環境医学研究所次世代創薬研究センター) 受賞講演:2018 年 9 月 10 日(月)12:00-12:30 国立京都国際会館 1F さくら

5.年会より優秀発表賞について(竹井年会長)

竹井年会長が、優秀発表賞受賞者について報告した。

第 9 回優秀演題賞

  • 金織 かなおり 来多 らいた (うえむらメンタルサポート診療所)
    精神科診療所で行うギャンブルプログラムの有用性 – 参加群と非参加群を比較して- (O2-3)
  • 西村康平 (神奈川県立精神医療センター)
    依存症専門外来で性的マイノリティであることを自らカミングアウトした物質使用障害患者の臨床的特徴 (O3-2)
  • 石原亮太 (国立病院機構 東京医療センター 精神科)
    東京医療センターにおけるアルコール短期入院治療プログラム(TAPPY)

6.優秀論文賞について(白石・編集委員長)

白石委員長が、優秀論文賞受賞者について報告した。 第 24 回優秀論文賞 ・Current status of alcoholic hepatitis in Japan (2011 – 2013) Yoshinori Horie, Masahiro Kikuchi, Hirotoshi Ebinuma, Rumiko Umeda, Syunsuke Shiba, Nobuhito Taniki, Po-sung Chu,Nobuhiro Nakamoto and Takanori Kanai 医療法人社団健育会 湘南慶育病院(第 52 巻 5 号 掲載)

7.法人化・新理事会の件(藤宮・総務委員長)

藤宮委員長が、予定通り本年 8 月 1 日をもって当学会が一般社団法人となったことを報告した。現状は現理事会体制にて登記を行ったが、本代議員会にて新役員の承認があり次第、役員変更登記を行う予定であると説明した。続いて、法人化後の新役員について報告し、一同異議なく承認した。

【新役員】

理 事
池嶋健一
(順天堂大学大学院医学研究科消化器内科)
池田和隆
(東京都医学総合研究所依存性薬物プロジェクト)
上村公一
(東京医科歯科大学大学院医歯学総合 研究科法医学分野)
大熊誠太郎
(京都府山城北保健所)
岡村智教
(慶應義塾大学医学部 衛生学公衆衛生学)
近藤あゆみ
(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)
白石光一
(東海大学医学部付属東京病院 消化器内科)
白坂知彦
(手稲渓仁会病院精神保健科)
鈴木 勉
(星薬科大学薬物依存研究室)
高田孝二
(帝京大学文学部心理学科)
竹井謙之
(三重大学医学部消化器内科)
樋口 進
(国立病院機構久里浜医療センター)
廣中直行
((株)LSI メディエンス)
福永龍繁
(東京都監察医務院)
藤宮龍也
(山口大学医学部法医学)
堀江義則
(湘南慶育病院内科・消化器内科)
松下幸生
(国立病院機構久里浜医療センター)
松本俊彦
(国立精神・神経医療研究センター)
松本博志
(大阪大学大学院医学系研究科法医学)
宮田久嗣
(東京慈恵会医科大学精神医学)
杠 岳文
(国立病院機構肥前精神医療センター)
若林一郎
(兵庫医科大学環境予防医学)
和田 清
(埼玉県精神科医療センター)
監 事
堀井茂男
((財)慈圭会慈圭病院)
烏帽子田彰
(広島大学大学院医歯薬保健学研究院公衆衛生学研究室)

8.各委員会からの報告(各委員長)

・編集委員会(白石委員長)

白石委員長が、現状の投稿数や出版状況を報告した。

・総務委員会(藤宮委員長)

藤宮委員長が、以下5名の新代議候補員を提案した。

検討の結果、一同異議なく承認した。

内山 明
(順天堂大学医学部消化器内科)
田中増郎
(医療法人信和会高嶺病院)
中村幸志
(北海道大学大学院医学研究院医学院公衆衛生学教室)
姫宮彩子
(山口大学大学院医学系研究科医学部法医学講座)
丸茂幹雄
(兵庫医科大学環境予防医学講座)

・広報委員会(池田委員長)

池田委員長が、ニューズレターの発刊とホームページの更新について報告した。

・倫理・COI 委員会(白石委員長)

白石委員長が、学術総会での COI 提出について問題なかったことを報告した。

・専門医委員会(齋藤委員)

齋藤委員が、日本精神神経学会の二階建て学会として精神領域での専門医資格創設に向けて先方との打ち合わせをすでに 2回終えていると報告した。また、今後施設や指導医などの各種システムを整えていく必要があり、精神科領域での道筋がついたら、他の領域の専門医についても検討を始める予定であると報告した。

・学術賞選考委員会(宮田委員長)

とくになし。

・国際委員会(高田委員長)

高田委員長が、今年度補助を行った学会等について報告した。

・医療保険委員会(杠委員長)

杠委員長が、診療報酬改定に向けて次回は前回提出した2件 とともにギャンブル依存についての提案を行う予定であることと、肥前で行っている講習会の募集を 100 名定員で行っているが、すでに 60 名以上の応募があると報告した。

9.次々期年会長について

検討中。開催地は九州で予定している。

10.その他

次期(2019 年)の年会長である白坂代議員が欠席のため、芦沢健代議員が、白坂代議員からの伝言を読み上げた。

新理事会にて一時中断ののち、新理事長の藤宮新理事長が、新委員会のメンバーを報告した。

【新体制キャビネット】

新理事会
理事長
藤宮龍也
総務委員会
委員長
宮田久嗣
財務委員
廣中直行
上村公一
学術集会担当委員会 総務委員会兼務
委員長
宮田久嗣
財務委員
廣中直行
上村公一
委員
竹井謙之 2018 年会長
白坂知信 2019 年会長
広報委員会
委員長
池田和隆
委員
近藤あゆみ
将来構想委員会
委員長
藤宮龍也
医療保険委員会
委員長
杠 岳文
編集委員会
委員長
白石光一
専門医制度委員会
委員長
宮田久嗣
委員
齋藤利和
学術賞選考委員会
柳田知司賞選考委員会
委員長
宮田久嗣
優秀論文賞選定委員会
委員長
白石光一
倫理・COI 委員会
委員長
白石光一
国際委員会
委員長
高田孝二
委員
白坂知彦

以上
2018 年 9 月 9 日
議長 齋藤利和 印
議事録署名人(代議員) 廣中直行 印
同          宮田久嗣 印


6. 柳田知司賞を受賞して

溝口博之
( 名古屋大学環境医学研究所次世代創薬研究センター)

この度は第 8 回柳田知司賞を賜ることとなり、とても光栄なことと感じております。今回の受賞において、ご推薦頂いた廣中直行先生、選考に関わりました先生方をはじめ学会関係者の皆様方に感謝申し上げます。

薬物依存の研究に携わることになったのは大学院生の時です。指導教授であった名古屋大学 鍋島俊隆先生のもとで行動薬理学を学び、依存研究の入口に立ちました。考えると長いですね、依存研究にどっぷり肩までつかっています。2006 年から山田清文先生にお声を掛けて頂き、金沢大学薬学部の助手に着任する訳ですが、正直、自分自身が教員になれると考えてなく、「なんで私に声かけたのですか?」と、喫茶店で質問返ししたのを覚えています。そこから螺旋階段状に続く研究者人生が始まりました。一人の教育・研究者として仕事を頂き、そして 10 年一区切りではないですがこの節目に柳田賞を頂けたことは感慨深いものがあります。ある意味、この賞は私に階段を駆け上がるというより、飛んで行けと、翼を授けたのかもしれません。しっかりと羽ばたけるように精進したいと思います。

さて、依存症の現状ですが、依存症は世界銀行・WHO(世界保健機関)が報告する DALY(障害調整生命年)によると、世界トップ 10 に入る健康を脅かす疾患です。中でも、アルコー ル乱用を始めとする物質依存・薬物使用障害の DALY は若年層において非常に高い数値を示しています。国内に目を向けても、芸能界、さらには警察(札幌署)内においても薬物汚染は止まっていません。また統合型リゾート推進法の成立により日本でもカジノが解禁されることから、ギャンブル依存者の急増という社会的且つ医薬学的問題も懸念されています。さらに WHO はゲーム障害を精神疾患と認定したことからも、新たな依存症の包括的理解に向けた機序解明と、医学的に適切な予防対策や治療戦略の発信が期待されていると感じます。なぜ、私たちはゲーム、ギャンブル、薬物に“はまる”のでしょうか?なぜ治療したはずなのに、依存症は再発するのでしょうか? どうして自分をコントロールできなくなるのでしょうか?そして、こうした症状は脳のどこから生まれるのでしょうか?(勝手な自己評価ですが、)本受賞を後押しした仕事内容の1つに、2015 年 に Proc Natl Acad Sci U S A.に掲載された「The insular neural system controls decision-making in healthy and methamphetamine-treated rats」があると思います。ちょっと変わった視点(意思決定)から、依存者の脳と心の問題に迫り たいと始めた研究で、薬物依存モデル動物の意思決定異常とその神経回路について報告することができました。ご存知の通り依存症の完治困難な原因に意思決定異常があります。依存者は不合理な判断により近視眼的な意思決定を示し、行動を自己制御できないからです。ヒトのイメージング研究から、依存患者の意思決定異常に関わるいくつかの脳部位が報告されています。しかし、fMRI を駆使した画像解析は脳領域の重要性を示せるものの、領域内のどの細胞が、どの神経回路が意思決定に関与するのかまでは分かりません。そういう意味で、この仕事は臨床研究に繋がるお仕事になったのではないかと思っています。

意思決定研究に出会えたことは私にとって幸せなことです。というのもの、実に面白い!!当時、意思決定・行動選択という概念は霊長類研究のみに許されたものだという認識で、げっ歯類研究をしていた私には「はっ? 何それ?」という状況でしたが、実験をするたび、勉強するたび、この研究の奥深さに魅了されました。ラットの行動から本当に意思決定を判断できているのか不安でしたが、当時本学会の懇親会で廣中先生を始め先生方にご鞭撻を頂き、不安から自信へと変わっていきました。この実験は慢性実験で1つの図を出すのに 2 カ月以上かかりま す。そこが悩みの種でしたが、ラボで一緒に取り組んだ共著者と試行錯誤しながら、苦労して得た結果の解釈について話す時 間はとても楽しかったです。医薬学、心理学、神経科学といった多角的手法と発想を取り入れたことから、異分野の先生方と知り合いになることができました。最近は何かヒントはないかと縁のなかった学会に参加するのが好きです。因みに、意思決定・行動選択の研究テーマは現在進行形です。皆さん、ご興味のある方、一緒にどうですか?

最後に、山田先生、この研究領域に出会えたこと、ありがとうございます!!

《写真 1》
《写真 2》
写真1:授賞式にて当学会前理事長齋藤先生(右)と
写真2:講演後恩師の山田先生(左)座長の宮田先生(右)と

7. 第 53 回学術総会 優秀発表賞を受賞して


授賞式にて竹井年会長(右)と
右から 2 人目:金織来多氏 右から 3 人目:西村康平氏 左:石原亮太氏

右から2番目が著者
石原亮太
(東京医療センター 精神科)

この度は、第 53 回 日本アルコール・アディクション医学会学術総会において「優秀演題賞」の栄誉を賜り、大変光栄に存じます。受賞にあたりまずはこの場を借りて、東京医療センター・短期入院治療・プログラム(以下:TAPPY)を運営するチームメンバーには心より感謝申し上げます。

当院は急性期総合病院であり、他科から精神科への依頼という形でアルコール使用障害者にかかわることが多くありました。その中にはなかなか医療に繋げることができずに、アルコールの再使用の影響で回転ドア的に身体科に入院される方を多く経験し、悔しい思いをしたことが TAPPY 誕生の背景にあります。

TAPPY を作成する際には、“(医療に)繋がりやすい”プログラムを重視し、今まで医療に繋げることができなかった方の言葉を思い出しながらプログラムを作成しました。「(入院治療プログラムは)遠い。長い」「仕事は休めない」「精神病院には行きたくない」など理由から 2 週間という短期間で、当院で行える範囲の内容で行っております。

他職種に協力してもらうことで多角的な支援を行えることや、さらに医療者側(主に精神科医)の負担も軽減することで、アルコール医療に対する抵抗が少なくなったことも大きな効果だと思っております。

内容に関しては、まだまだ改善の余地が残されており、今後も引き続き“繋がる”医療を目指して努力して参りたいと思います。

精神科診療所で行うギャンブルプログラムの有用性―参加群と非参加群を比較して―

金織来多
(うえむらメンタルサポート診療所)

この度、平成 30 年度アルコール・薬物依存関連学会合同学術総会で、当院にて行う通院ギャンブルプログラムに参加された患者さんの治療継続率とギャンブル歴や借金歴を比較調査し報告させて頂きました。

プログラム立ち上げ当初は、外来でギャンブルプログラムを実践していることと、さらにそれを研究発表することに心細い気持ちがありましたが、今回の受賞を通して診療所でプログラムを患者さんに提供することは意味があることだと、学会から太鼓判を押されたような気持ちになりました。

私たちのプログラムは、ギャンブルの仕組みや依存症の勉強をすることだけでなく、自分自身のギャンブルや借金の悩みを他の方と共有できる時間を大切にしています。継続して参加される方々の多くは、プログラムや診察を通して徐々に落ち着きを取り戻していきます。その要因としては、まず借金返済計画の見通しが立つこと。そして主体的にギャンブルをやめていること。そして無理のない生活の営みを実感し共有できることにあるのではないかと、私たちは考えています。

今後依存症外来治療が全国的に広がることが期待されるなかで、私たち診療所からも依存症の効果的な支援を探求し、情報発信し続けていきたいと思います。

今回受賞できたのはひとえに、挑戦を見守っていただいた上村敬一院長、そして診療所スタッフのおかげです。優秀演題賞を頂けたことに、心から感謝いたします。


Photo by Tsutomu Suzuki

依存症専門外来で性的マイノリティであることを自らカミングアウトした物質使用障害患者の臨床的特徴

西村康平
(神奈川県立精神医療センター)

この度は、第 53 回アルコール・アディクション医学会における優秀演題賞をいただき、至極光栄に存じます。選考に関わられました先生方、学会関係者の皆様には心より感謝申し上げます。

私の依存症との出会いは、学生時代に実習でダルクと NA に行ったことです。今までの人生で薬物とは無縁だった当時の私にとって、正直に申し上げれば薬物依存症は怖い印象があり、大変緊張していました。見学当日を迎えて初めてミーティングに参加し、雰囲気など色々なことに衝撃を受けました。一方で、「NA に参加している人は薬が止まっている」などという発言を聴き、依存症の回復には精神療法や向精神薬だけではない“何か”が必要であり、何よりも薬物依存症の方々に感じていた偏見などが一気に無くなっていったのです。

その後、依存症臨床に携わりたい一心で現在の神奈川県立精神医療センターに就職し、依存症臨床に携わってもうすぐ 2 年が経とうとしています。

依存症臨床に携わってからというものの、1 ヶ月に約 1 人程 度の頻度で性的マイノリティを抱えた患者さんが私の前に現れるではありませんか。彼らと診察室で話していくにつれて、性的マイノリティと依存症という領域に関心を抱くようになり、幼少期からの性にまつわるトラウマ体験に注目するようになりました。そして、今回の演題で彼らは一般的な依存症者の生きづらさに加え、“性の生きづらさ”も持ち合わせているからこそ、「彼らは孤独が強く、まずは 1 対 1 の信頼関係を構築することが重要である」と、報告するに至ったのです。

この領域に関する演題を評価いただけたことに心より感謝し、今後も自身の研究を深め、さらに学会に貢献できるよう日々精進していく所存です。

最後になりましたが、ご指導いただきました当院の小林桜児先生、板橋登子先生、依存症研究室の皆様、研究にご協力いただいた皆様に感謝申し上げます。

8. 優秀論文賞を受賞して


授賞式にて白石編集委員長(右)と
堀江義則
(湘南慶育病院)

この度、名誉ある日本アルコール・アディクション医学会優秀論文賞を受賞させていただきました。論文のタイトルは、「 Current Status of Alcoholic Hepatitis in Japan (2011–2013)」で、本邦におけるアルコール性肝炎の現状とステロイドなどの治療介入の有無による予後への影響を報告させていただきました。アルコール性肝炎に対するステロイドの効果については、まだまだ議論の余地があるかとは思います。今回、本邦におけるアルコール性肝炎の重症度スコア (Japan Alcoholic Hepatitis Score)の作成された 2011 年度以降の症例をこのスコアに沿って重症度別に検討しました。ステロイドの non-responder が 29%存在した一方で、総ビリルビン値が 10mg/dL以上の群で、その有効率が高いことが示唆されました。アルコール性肝炎は、現在でも中等症で 15%、重症で 44%の死亡率を認め、予後不良な疾患です。ステロイドの non-responder は、中等症では少ないことも判明しました。この論文が、アルコール性肝炎の薬物治療を検討する際の一助になることを願っております。

小生、アルコール健康障害に関する公的資金による研究班に長年参加させていただいており、内科的な見地からの研究を続けてまいりました。当初はアルコール性肝障害の発症機序の解明が主な課題でしたが、時代とともにその課題がアルコール性肝障害の実態調査に移り、近年は簡易介入などによる予防にシフトしてきております。8 年前にも日本アルコール・薬物医学会の優秀論文賞を受賞させていただいており、その際は動物実験での受賞でしたが、そこで動物実験には区切りをつけて臨床研究へと研究の課題を移すこととなりました。今回受賞した論文は、長年のアルコール性肝障害の実態調査研究の節目となるものであり、今回受賞させていただいたことでいったん実態調査研究に区切りをつけさせていただき、今後はアルコール性臓器障害の予防に関する研究に微力ながら力を注ぎたいと考えております。50 台も半ばを過ぎましたが、若手研究者の手本となるべく 3 回目の優秀論文賞受賞を目指し、今後も研究執筆活動を続けていく所存です。学会員が切磋琢磨しアルコール・アディクション領域の研究が進むことと、本学会の益々の発展を祈念し、受賞のご挨拶とさせていただきます。

9. 新役員紹介

法人第一期の役員を紹介いたします。期日までにコメントをいただけた役員については、一言コメントも掲載しております。
※は新メンバー。顔写真を掲載

理 事 長 藤宮 龍也
理 事 池嶋 健一
池田 和隆
上村 公一
大熊誠太郎
岡村 智教
近藤あゆみ
白石 光一
白坂 知彦
鈴木 勉
高田 孝二
竹井 謙之
樋口 進
廣中 直行
福永 龍繁
堀江 義則
松下 幸生
松本 俊彦
松本 博志
宮田 久嗣
杠 岳文
若林 一郎
和田 清
監 事 堀井 茂男
烏帽子田彰

【理事長】

藤宮龍也(山口大学大学院医学系研究科法医学講座)

専門分野:
法医学
所属委員会:
総務委員会、広報委員会、将来構想委員会

このたび理事長に選出されました。会員の皆様からご意見を伺って学会運営に反映させてまいりたいと思いますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。2018 年に本学会は法人化されましたが、総務委員長として関与してまいりました。今後は法人化に伴う学会運営の円滑化を図ってまいりたいと思います。今後、アルコール・アディクション医学の社会貢献が求められ、精神医学、内科学分野などの連携の推進が必要となると思いますので、尽力していきたいです。法医学分野は少ないですが、アルコール医学・依存医学の基礎研究を推進していきたいと思います。齋藤前理事長より、国際化・女性活躍・若手登用を託されました。この3点について、着実に成果を上げたいと思います。会員皆様の学会でのご活躍こそが重要です。それをご助力する役目を果たせれば幸いでございます。

【理事】

池嶋健一(順天堂大学大学院医学研究科消化器内科)

専門分野:
内科学(消化器内科)

池田和隆(公益財団法人東京都医学総合研究所 精神行動医学 研究分野 依存性薬物プロジェクト)

専門分野:
神経精神薬理学
所属委員会:
広報委員会、総務委員会

引き続き薬理学領域からの理事および広報委員長を拝命いたしました。会員の皆様からご意見を伺って学会運営に反映させて参りたいと思いますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。日本学術会議におきましてアディクション分科会を 2017 年に設立いたしましたので、ぜひ当学会と連携して、アディクション問題に対するアカデミアからの提言を発信して参りたいと思っております。また、当学会が加盟した脳科学関連学会連合におきましても将来計画委員を務めることになり、当学会と関係が深い、日本、アジア、国際の各神経精神薬理学会で役職を務めておりますので、橋渡しの役割を果たせれば幸いでございます。

上村公一(東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科法医学分野)

専門分野:
法医学、中毒学
所属委員会:
総務委員会、学術集会担当委員会

藤宮会長の指名で理事(財務担当)を拝命しました。総務委員会に所属し、宮田先生(総務委員長)と廣中先生を補佐していく所存です。私は京都府立医大を卒業後、すぐ法医学教室に入り、吉本寛司先生からアルコール依存のメカニズム、藤宮龍也先生からアルコール代謝について、指導をいただきました。現在は法医解剖に従事しながら、細胞死を中心に薬毒物の作用機序の研究をすすめています。微力ながら、日本アルコール・アディクション医学会の発展に貢献できれば幸いです。

大熊誠太郎(京都府山城北保健所)

専門分野:
精神医学

岡村智教(慶應義塾大学医学部 衛生学公衆衛生学)

専門分野:
衛生学・公衆衛生学領域

近藤あゆみ(国立精神・神経医療研究センター)

専門分野:
精神保健福祉
所属委員会:
広報委員会

依存症治療や回復支援において、ソーシャルワークや地域連携、家族支援、女性に特化した支援プログラムなどの重要性に関する認識はまだ充分に得られているとはいえません。精神保健福祉という専門分野から、また、女性という立場からこれらの課題に取り組むことで、薬物・アルコール依存に関する研究と臨床の発展に寄与するという本学会のミッションに貢献できればと願っています。どうぞよろしくお願い申し上げます。

白石光一(東海大学医学部付属東京病院 消化器内科)

専門分野:
内科学(消化器内科)
所属委員会:
編集委員会、学術賞選考委員会(論文賞)、 倫理・COI 委員会

白坂知彦(手稲渓仁会病院精神保健科)

専門分野:
精神医学
所属委員会:
国際委員会

平素大変お世話になっております。この度、理事を拝命いたしました手稲渓仁会病院の白坂知彦(ともひろ)と申します。札幌医科大学神経精神医学講座に所属し、FASD(胎児性アルコール症候群)モデルを用いた神経幹細胞移植療法における行動変化について研究し学位を取得しました。その後は実臨床にて、アルコール依存症などを中心に認知機能と RI を用いた脳血流量の変化、解析、また総合病院精神科における依存症治療の普及活動、行政・教育機関と連携しインターネット過剰使用の治療・啓発活動に注力しております。また当学会では高田孝二先生のご指導のもと、国際委員会に所属しております。国際学会参加により知りえた知識や海外の研究者とのつながりなど、当学会の国際化、プレゼンスの向上に貢献できればと思っております。今後とも宜しくお願いいたします。

鈴木 勉(星薬科大学薬物依存研究室)

専門分野:
薬学

現在、AMED の鈴木班で「薬物依存性試験のあり方」を検討しております。

高田孝二(帝京大学文学部心理学科)

専門分野:
心理学
所属委員会:
国際委員会

竹井謙之(三重大学大学院 医学系研究科 消化器内科学)

専門分野:
内科学(消化器内科学)
所属委員会:
学術集会担当委員会

樋口 進(独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター)

専門分野:
臨床精神医学、依存医学

本学会には長期にわたりお世話になっています。その間、日本アルコール関連問題学会と合同で、飲酒運転対策プロジェクト などを行ってきました。最近は、アルコールに加え、ギャンブル・ゲーム障害など行動嗜癖の治療・研究も行っています。特にゲーム障害に関しては、疾患概念確立や ICD-11 収載に深く関わってきました。残された時間を若手育成に貢献できるよう努力したいと思います。

廣中直行((株)LSI メディエンス)

専門分野:
心理学
所属委員会:
総務委員会、学術集会担当委員会、広報委員会、編集委員会

自分の専門は心理学の中でも基礎領域に属する動物の行動実験です。海外ではこの分野でアディクション研究に資する新しい実験方法や概念が続々と生まれています。それらを取り入れ、乗り越える独自の進歩を打ち出して行く必要があります。このところ私の活動は領域の境界を踏み外してやや臨床方面にも近づいた傾向がありましたが、今後は自分の原点を踏まえて地道な活動に専念したいと思っています。

福永龍繁(東京都監察医務院)

専門分野:
法医学

堀江義則(湘南慶育病院、慶應義塾大学)

専門分野:
肝疾患、消化器内科
所属委員会:
総務委員会、編集委員会、専門医制度委員会

内科系役員としては、新アルコール薬物使用障害の診断治療ガイドラインの臓器障害への対応の執筆などしてまいりました。 厚生労働省のアルコール健康障害対策関係者会議の委員も務めさせていただいております。アルコール健康障害対策基本法の基本計画では、アルコール健康障害に係る医療の質の向上と、地域医療に携わる各機関が相互に情報共有や協力体制を築くことで適切な相談や治療、回復支援にまでつなげる連携・支援体制を構築することが目標となっています。当学会が医療の質の向上と医療連携をサポートするために、簡易介入などアルコール性臓器障害の予防に対する診療報酬の申請や、アルコール依存症専門医制度の確立などを図っていきたいと考えています。

松下幸生(独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター)

専門分野:
精神医学、アルコール依存、ギャンブル障害、 認知症
所属委員会:
編集委員会、医療保険委員会

新役員に選出いただき、大変光栄です。私は、長い間、久里浜医療センターで、アルコール依存症や認知症の診療を担当してまいりました。最近は、ギャンブル依存の診療も担当しております。研究面は、依存症や認知症の遺伝子研究が中心でしたが、最近は、疫学調査にも携わらせていただいております。本学会には、その学際的な面を大変魅力に感じております。浅学菲才の身ではございますが、様々な分野の先生方と協力して、本学会の発展に少しでも貢献できれば幸いです。宜しくお願い申し上げます。

松本俊彦(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部)

専門分野:
薬物依存症の治療・臨床研究

わが国では、薬物依存症はともすれば犯罪として扱われ、国の施策も規制・取り締まりに偏向しています。また、著名人・芸能人の薬物事件に際してのメディアによるバッシング報道も苛烈です。こうした状況が国民の薬物依存症に対する偏見を強め、当事者や家族の援助希求を阻害しているように思われます。私は、本学会の活動を通じて、薬物依存症に対する支援体制拡充とスティグマ解消に努め、安心して「薬物がやめられない」といえる社会を作ることに貢献したいと考えています。

松本博志(大阪大学大学院医学系研究科法医学)

専門分野:
法医学

宮田久嗣(東京慈恵会医科大学 精神医学講座)

専門分野:
神経精神薬理学、臨床薬理学
所属委員会:
総務委員会、学術集会担当委員会、専門医制度委員会、賞選考委員会(柳田知司賞)

私は精神科医ですが、卒業して 3 年目の頃に、薬物依存の研究施設(実験動物中央研究所附属前臨床医学研究所)に飛び出して、本学会の名誉会員である柳田先生のもと、8 年近く薬物依存の動物実験に従事いたしました。その後、大学に戻り、動物実験を細々と続けながら、もっぱら臨床や大学の業務に追われてきました。そのようななかで、アルコール・薬物依存にかかわる精神科医は“絶滅危惧種”などといわれる時代が続きましたが、最近、世間の風向きが変わってきた気がします。危険ドラッグの問題、カジノ法案(IR 法案)の成立、ゲームアディクションの問題など、アディクションは多様化し、本学会の社会的役割が非常に重要になってきています。本学会は、内科、精神医学、薬理学、法医学、衛生・公衆衛生学、心理学、看護学など数多くの領域からなる学際的特徴をもつ、世界でも珍しい学会といえます。ぜひ、その特徴を生かしながら、社会の多角的なニーズに応えるよう、みなさまと力を合わせながら頑張っていきたいと思います。

杠 岳文(国立病院機構肥前精神医療センター)

専門分野:
精神医学
所属委員会:
医療保険委員会

若林一郎(兵庫医科大学環境予防医学)

専門分野:
衛生学・公衆衛生学領域

和田 清(埼玉県精神科医療センター 依存症治療研究部)

専門分野:
社会精神医学

アディクションに対する社会的関心が高まっている一方で、アディクション問題をアカデミックに考える専門家が減少しているように思います。本学会のあり方を含めて、人材育成をどうすべきか、みなさんと考えていきたいと思います。

【監事】

堀井茂男(公益財団法人慈圭会慈圭病院)

専門分野:
臨床精神医学(内観療法・森田療法)

アルコール健康障害対策基本法を推進するネットワーク代表留任に際して引き続き、監事として本学会の運営に協力させていただきたいと思います。また、日本アルコール関連問題学会副理事長、アルコール健康医学協会理事、アルコール健康障害対策基本法を推進するネットワーク代表などアルコール関連の他、日本精神科医病院協会副会長、日本内観学会理事長、日本いのちの電話連盟理事長などの役割を任ぜられていますので、幅広い臨床活動から学会に協力していく所存です。

烏帽子田彰(広島大学大学院医歯薬保健学研究科)

専門分野:
公衆衛生学・政策科学(健康関連制度設計)

学会に大学院 1 年の昭和54年に入会しましたが、故河野裕明先生そして加藤伸勝先生の推挙で評議員として活動の機会を得ました。初任の厚生省保健医療局精神保健課で[アルコール中毒患者の社会復帰に関する意見(昭和 60 年公衆衛生審議会意見具申)]担当政策の重要性を痛感しました。平成 12 年に広島大学医学部医学科公衆衛生学講座に赴き、社会医学的な領域から、アルコール医療と保健政策に向き合い現在に至っています。アルコール依存症等の社会病理的な側面は徐々に変化変遷してきていますが日本公衆衛生協会理事の立場と相まって今後の日本に必要かつ医療貢献すべき課題に取り組んで参りたいと思います。

10. 施設紹介:湘南慶育病院

堀江義則
(湘南慶育病院)

湘南慶育病院は、2017 年 11 月に藤沢市の掲げる「健康と文化の森」地区内に新しく開院した病院です。縁あって開院当初より副院長として勤務しております。自然豊かな藤沢市遠藤という土地柄もあってか、病院内には優しく穏やかな空気が流れており、病気を治すという点においてとても良い環境立地を備えております。一方で慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスに隣接し、日本で初めて大学と密に連携する民間病院というのが特徴です。情報・医療分野等の研究機能をもつ慶應義塾大学のみならず、企業コンソーシアムとも協働し、遠隔診療など IT を活用した在宅診療をはじめ、医療ビッグデータ研究やスマートリハ研究など最先端の研究的な取り組みも積極的に進めています。病気の予防、つまり健康管理に関しても、黒岩神奈川県知事が推し進めております未病対策にも協働させていただき、健康・高齢社会、抗加齢研究の一環として未病ハウスでのデータなどを活用し、地域の皆様が、健康寿命を延ばし、健康を楽しむライフスタイルを作るお手伝いをして参りたいと考えています。この中には、もちろん健康日本21で定める「節度のある適度な飲酒」の知識の普及など、アルコール健康障害対策も含まれています。

治療面では、一般病棟、回復期リハビリテーション病棟、地域包括ケア病棟、療養病棟と幅広いジャンルの病棟があり、急性期・回復期・慢性期、どの時期の患者さんにも対応ができること、そして疾患の治療はもちろんのこと、疾患によって起こりうる二次的な疾患にも対応できることです。肝臓疾患の例を挙げますと、肝硬変患者さんのリハビリテーションを介したサルコペニア対策などで、疾患治療のみならず生活機能も重視し、患者さんを全人的に捉えた治療を行っていきます。

当学会の使命である、アルコール・アディクション対策に関しましても、最寄り駅の湘南台は藤沢市にありますが、横浜市に隣接して横浜市営地下鉄も乗り入れており、横浜市にあります県立精神医療センターとも連携し、また、藤沢市のみならず横浜市の自助グループとも連絡を取り合って、医療連携を進める準備をしております。私個人の活動におきましても、厚生労働省のアルコール健康障害対策関係者会議委員のみならず、神奈川県アルコール健康障害対策推進協議会委員も務めさせていただいており、県職員向けの講習会の講師などもさせていただくなど、微力ながら貢献させていただいていると考えております。

このように、この藤沢市から、アルコール・アディクション対策を含む「日本の豊かな健康長寿社会づくり」に貢献し、大学と民間病院の融合によるあらたな価値を創造して参ります。


写真:玄関周辺

11. アルコール健康障害対策基本法関連ニュース

慈圭病院 堀井茂男
かすみがうらクリニック 猪野亜朗
LSI メディエンス 廣中直行
東海大学 稗田里香

2018 年 9 月 8〜10 日、平成 30 年度アルコール・薬物依存関連合同学術総会が開催され、9 月 8 日に龍谷大学深草キャンパスで、「基本法シンポジウム:推進計画作りから、実施へ。地域の先駆的取り組むに学ぶ」が、猪野亜朗、堀井茂男、稗田里香の司会で、9 月 10 日に京都国際会館で同時開催された ISBRA 京都大会で、「アルコール健康障害対策基本法国際シンポジウム」が、廣中直行、後藤恵の司会で行われた。本基本法の展開は全国の各都道府県、指定都市にてアルコール健康障害対策基本計画が順次整備、施行されつつある状況であり、本基本法の海外対策の比較についても論議されつつある。これらの現状も踏まえて、両シンポジウムの報告をして、基本法関連のニュースとしたい。(Ⅰについては稗田が、Ⅱについては廣中がまとめた。猪野は病気療養のためシンポジウムに欠席したがコーディネーターとして中心的役割を担って下さった。)

Ⅰ. (日本アルコール関連問題学会シンポジウム 3 から)

「基本法シンポジウム:推進計画作りから、実施へ。地域の先駆的取り組みに学ぶ」(総括)

学会が総力を結集して実現したアルコール健康障害対策基本法(基本法)は、施行から 4 年を過ぎた。現在、国と地元自治体とが連携し「基本法に魂を入れる」作業の第 2 段階として地方自治体ごとに推進計画策定がすすんでいる(平成 30 年 1 月現 在で、44 都道府県が、策定済み、策定中、策定予定)。

ここで、基本計画推進の現状と課題 (9 月時点も含めて)を整理すると、以下のようになる。

  • ① 推進計画については学会員がアルコール健康障害対策について地域に根差した提案をし、推進計画に反映させる必要がある。
  • ② 全体の 6割で推進計画が策定されその実施に移っている一方で、これから推進計画策定にとりかかる自治体、まだ推進計画策定が自治体の方針になっていない自治体がある。
  • ③ 依存症対策に対する予算が増額され、「民間団体支援」として、民間団体に直接予算を配分するという新たな取り組みも見られる。その一方で、全体の中で予算の多くが配分されている「地域における依存症の支援体制整備」については、これを積極的に活用しようとする自治体が少なく、予算が現場に届きにくい現状が大きな課題となっている。
  • ④ 専門治療機関の定義など中核的な問題はこれからである。
  • ⑤ これらの支援を実際に行う人材育成については、まだ議論が深まっていない。
  • ⑥ アルコールに関する研究体制が、これからの段階にある。

そこで、本シンポジウムは、以上の現状と課題をふまえ、学会員が国と予算状況、都道府県推進計画の現状と課題を知ること、地元の自治体で展開する推進計画作りへの学会員のモチベーションを強化すること、民間団体の取り組みや、連携の実際を共有し、支援力強化の在り方(専門機関の育成、人材育成、研究推進)などの観点から、推進計画が計画倒れに終わらないように国に対する要望事項を明確にすることを目的とした。

シンポジウムは、第 1 部、厚労省の予算、全国拠点、アルコール問題議員連盟などの取り組みなど、第 2 部、地域における推進計画、支援状況、自助グループの活動、人材育成などの 2 部構成で企図した。その内容は、以下のとおりである。

まず、厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課アルコール健康障害対策推進室長補佐、溝口晃壮氏より、平成 30 年度 における都道府県推進計画の全国情勢と関連する国家予算の現状と課題について詳細な報告がなされた。昨年度と比べ、依存症関係予算も増加しているが、表面的な規模にとどまらず、さらに推進していくための国の支援について、学会や関係者とともに検討していきたいとの呼びかけがあった。

続いて、久里浜医療センター院長の樋口進氏より、推進計画の柱である依存症治療全国拠点機関の活動と研究体制に関する取り組みの近況が報告された。大きな役割の一つであるマンパワーの育成においては、各地域拠点医療機関が担う人材育成を実施するものを養成する役割について強調した。また、依存症に関する情報収集のための調査研究を開始するとの報告もなされた。

三重県健康福祉部障がい福祉課精神保健福祉班の牧戸貞氏より、地方自治体の立場から、三重県における推進計画の先駆的取り組みの実情として、三重県の推進計画の特色と、一般県民への啓発、一般医療機関と専門医療機関の連携、早期発見のための多機関連携、自助グループとの連携・SBIRTS の強化など取り組み状況について報告がなされた。これらの取り組みのカギを握る連携のありようについて、あたかも、「サイコロの展開図にのりしろを付けて、サイコロという形にする」その「のりしろ」が重要であるという発言が印象的であった。

特定非営利活動法人 ASK(アルコール薬物問題全国市民協会)代表、アル法ネット事務局長の今成知美氏は、策定されている 27 都道府県の推進計画を総点検したアスクの調査から、「地域支援体制の整備」に注目し、10 のチェックポイントを作成したうえで、自治体ごとの工夫について分析し、今後の推進計画策定に活かすポイントについてわかりやすく解説された。

第 1 部の最後では、衆議院議員、アルコール問題議員連盟会長代行の中川正春氏より、アルコール問題議員連盟の取り組みの近況について、他の依存症対策を見据え、今後ますます基本法の推進が重要であることが強調された。

以上の発表をふまえ、第 1 部の討議では、自治体の役割の再確認と、国の予算の拡充、プライマリケアでの早期介入、診療報酬の点数化の必要性、依存症診断の開発など、基本計画推進へ向けた多様で前向きな意見が出された。

第 2 部では、推進計画実施における実践課題に向けた解決方法における、学会員と共に望ましい推進計画策定のあり方について、検討し合う。さらに、推進の要となる専門機関や人材育成について、諸団体の取り組みの報告を受け、今後の課題について検討し合った。

最初に、有限会社オラシオン代表で指定特定相談支援事業所を運営するソーシャルワーカーの辻本直子氏より、東大阪における連携の取り組み(医療、保健、福祉)の実際を、事例を交えて報告がなされた。地域包括ケアの体制と重ねながら、地域に潜在する依存症に苦しむ人々に関わる際のアウトリーチとそのための連携方法ポイントをわかりやすく概説された。

自助グループの推進計画への取り組みの現状と課題(就労支援などを含む)について、公益社団法人全日本断酒連盟大阪府断酒会の伊藤聰氏より、大阪府における断酒会活動を中心に、推進計画に関わる活動について報告がなされた。自助グループとの連携で早期介入を実現する SBIRTS の普及・啓発についても、協働して行うことの重要性を呼び掛けた。

次に、専門職団体の取り組み(専門機関、人材育成について)として、医療の立場から鳥取県医師会長の渡辺憲氏が、鳥取県における医師会、・行政・地域の共同の実際について報告がなされた。特に勤労者のアルコール健康障害・依存症対策に向けた産業保健スタッフとの連携の必要性について喫緊の課題として提起された。

続いて、横浜市立大学医学部看護学科教授、アルコール健康障害対策関係者会議委員の松下年子氏が、看護、保健の立場から、依存に関する看護基礎教育や人材育成において、特にアディクション問題に関する専門性の高い看護職を輩出すべく、教育カリキュラムや研修などを推進する活動や取り組みについて報告がなされた。

日本アルコール関連問題ソーシャルワーカー協会会長、アル法ネット幹事でソーシャルワーカーの岡崎直人氏は、社会福祉における、アディクション専門のソーシャルワーカーの立場から、すべてのソーシャルワーカーにアルコール回復支援力を身に着けるための研修の実際とその成果について報告がなされた。

以上の発表から、第 2 部の討議では、推進における地域格差(自助グループなど回復資源不足や、アクセスの物理的な問題など)について、複数の地域よりその実態がフロアから報告され、地域の状況をふまえつつ、官民一体となって基本計画を推進していくことの重要性について共有された。

さらに、今後は、相談や治療につながることの難しく、最も支援を必要とする潜在的な依存症のある人々や家族に対し、推進計画を活かしながらどのように支援すべきか、その検討が急務であるということを、会場全体で確認し合った。

ご登壇いただいた全ての方々とご出席いただいた会場の皆様、そして、企画、準備、運営されたスタッフの皆様にあらためて感謝いたします。

Ⅱ.(ISBRA 「基本法」国際シンポジウムから)

アルコール健康障害対策基本法(「アル法」)に関連した最近の大きな動きは、何といっても 2018 年 9 月 10 日、ISBRA 京都大会で開催された「基本法」国際シンポジウムであろう。

アル法が制定されて 5 年、各都道府県の推進計画策定が進み、これから具体的にどう進めて行くべきかを考える時期である。そこで海外から「ヒントとパワー」を得たい、このような構想で年初から実行委員会を組織し、シンポジウムを準備してきた。海外からのシンポジスト招聘には樋口会長にお骨折りいただいた。

このシンポジウムには都道府県の担当者も呼びたい、それには同時通訳が必要だ、ただのイベントで終わらせたくない、そのためには報告書を作って配布しよう。構想はどんどんふくらみ、相当な経費もかかることがわかってきた。その経費をどうするか?シンポジウムの趣旨を説明し、賛同いただいた方々から賛助金を募ることにした。果たして集まるか? 心配はしたものの、いざふたを開けてみると、目標額をはるかに超える「ピュアな 420 万円」が医療機関、スタッフから寄せられた。ところがシンポジウム直前、台風による高潮のため会場近くの関西国際空港が閉鎖、北海道では大地震、一時は「開催断念もやむをえないか」と思われたほどであった。

しかし、”International Comparison of Measures against Alcohol-Related Harm: In Comparison with Japanese Basic Act”と題するこのシンポジウムには、結果的には海外のシンポジストも全員参加、夕刻にさしかかったにもかかわらず 200 名を超える参加者が集まった。演題は 8 題、日本からはアル法制定のプロセス(以下敬称略:猪野亜朗[かすみがうらクリニック]・廣中直行[LSI メディエンス]・堀井茂男[慈圭病院])と精 神医療(岩原千絵・樋口進[久里浜医療センター])、一般医療(吉本尚[筑波大学])に関して 3題、海外から WHO(Vladimir Poznyak), アメリカ(2 題:Kenneth Warren [former NIAAA deputy director], Tomas Babor[Univ. Connecticut])、タイ(Sawitri Assanangkonrchai [Prince of Songkla Univ.])、イギリス(Irene Guerrini [Maudsley NHS Foundation])の 5 題。プログラム委員会から 2 枠いただき、セッションの「締め」には総合討論とまでは行かないが、海外の演者から日本の対策についてコメントをもらうことができた。司会は後藤恵(成増厚生病院)と廣中直行。現在松下年子(横浜市立大学)の統括のもとで報告書の編集中である。実行委員には白坂知彦(手稲渓仁会病院)、奥田宏(金沢工業大学)、小松知己(沖縄共同病院)の各氏も加わった。

さて、そこで我々は海外から何を学ぶことができたか?

まず、アル法制定のプロセスについて、当学会を含むアルコール関連学会、当事者団体(全断連)、市民組織(アスク)の 3 者連携による取り組みが海外に見られない「非常にユニークな姿」として高い評価を受けた。

しかしながら、日本の対策は「アルコールの不適切な使用を無くす」戦略としては有効と思えるものの、公衆衛生的な視点が足りない、ポピュレーション・アプローチによる「アルコール飲料規制対策」が弱いという指摘も受けた。酒類単位価格の設定、酒税のアップとその活用方針の策定、宣伝・販売の規制、飲酒機会の制限などが WHO が推奨する「費用対効果の高い」普遍的な措置なのである。このような措置を強化するためには、その受容を確実にし、抵抗を最小にするようなキャンペーンが必要である。また、そこには政策の提唱と法律の執行、研究の 促進と知識の増進、社会的な動員が三位一体となって取り組む「3 つのパワー戦略」が有用である。この「3 つのパワー戦略」は、日本から提示した「7つの社会システム論」による基本法制定と推進の理論にも合致するものであった。

このシンポジウムは後から振り返ったときに必ず「大きな一歩だった」と思えるものになるだろう。しかし、そのようになるかどうかはこれからの我々の取り組みにかかっている。


ISBRA京都2018シンポジウムにて

12. 事務連絡

【ご入退会・変更等手続きについて】

周囲に当学会へご興味をお持ちの方がいらっしゃれば、是非、本学会へのご入会をお勧めください。

1)入会について

入会はホームページ掲載の入会フォーム(WEB サイト)にて、必要事項をご入力ください。入会には理事会審査(1 か月に 1 度開催)が必要になるため、正式なご入会までには最大 2 か月程度お時間をいただくことがございます。

日本アルコール・アディクション医学会(東京事務所)
〒100-0003
東京都千代田区一ツ橋 1-1-1
パレスサイドビル (株)毎日学術フォーラム内
TEL.03-6267-4550 FAX.03-6267-4555
E-mail: jfndds@mynavi.jp
事務局営業時間:平日 10:00~17:00
※土日祝、年末年始、学術集会中はお休みいたします。

2)変更について

ご所属、ご職名などに変更がありましたら、ホームページ掲載の変更届フォーム(WEB サイト)にて、必要事項をご入力ください。

3)退会について

上記変更届フォームにて必要事項を入力のうえ申請いただくか、上記の事務局まで FAX、E-mail、郵送等文書に残る手段で、 ①当学会名、②退会される会員のフルネーム、③○○年度をもって退会するとの一文、の 3 点をご連絡ください。

【啓発用リーフレットについて】

当学会では「あなたの飲酒が心配です」とした、啓発用のリーフレットを 1部 30円で下記印刷所に販売委託をしております。ご希望の方は下記までご連絡ください。

  • 会社名 :畠山印刷株式会社
  • 所在地 :三重県四日市市西浦 2 丁目 13-20
  • 電 話 :059-351-2711(代)
  • FAX :059-351-5340
  • Email :hpc-ltd@cty-net.ne.jp
※学会ホームページにも同様のお知らせを掲載しております。

13. 編集後記

広報委員会 田中増郎
((医社)信和会高嶺病院)

ニューズレター第 3 巻第 2 号をお届けいたします。ご寄稿いただいた先生がたに厚く御礼申し上げます。ならびに、会員の皆様には日頃から本学会にご支援ご協力をいただき、まことにありがとうございます。

さて、本年 2018 年より本学会が一般社団法人となりました。ご尽力いただいた先生方にも御礼申し上げます。将来を見据えた組織編成のおかげで、我々のような中堅のキャリアのものは今後大きな恩恵を受けることになると思います。

前号や今号でもご紹介がありましたが、2018 年は大きな変化が続いた年でした。アルコール健康障害対策基本法に基づく基本計画が始動し始めました。そして、新たにギャンブル等依存症対策基本法案が可決されました。臨床現場では、アルコール・薬物使用障害治療ガイドラインが作成され、書籍として販売されました。さらに、診療報酬改定で睡眠薬の長期にわたる漫然とした処方を防止する取り組みが始まりました。実際の施行は 2019 年度からになりますが、臨床医全体での使用障害医療への関心が高くなっているように思います。マスコミ報道に関しては、ネガティブな内容のものが一部あるものの、素晴らしい報道があることも事実であり、そのおかげで専門医療機関への受診につながっている事例、特に早い段階での受診も散見しております。当初私が使用障害の医療の現場の勉強を始めた 10 数年前と比べると、事態が大きく変化していると感じています。マスコミに対する会員の先生方のご尽力を感じております。

私の日々の精神科医としての業務は多様な内容であるものの地味なものの積み重ねで、変化を感じにくいものです。しかし、その中でも刺激は多くあります。「変わる決意ができました」「減酒してみたら、見る世界が少し変わりました」といったご本人様の声、「家族の私は楽になりました」「自分は正しいことをしているのに、結果が出ないと思っていたのに、もう少し改善することがあるんですね。希望が持てました」と言ったご家族の声、「支援者の私の心が救われました」「孤立しかけていたのは自分なんですね、でもこれで孤立感を感じずに済みそうです」といった地域の行政や支援者の方々の声で、世の中が少しずつ良くなっていることを感じております。職場のある地元の山口大学医学部でも、行動医学という行動変容を取り扱う講義や実習が藤宮先生等のご尽力で今年度から始まり、今後の若い医療者の使用障害への対応の変化も期待できそうです。

できるだけ多くの使用障害で苦しまれている方々に「希望」を提供できるよう、「絶望」を少しでも小さくできるように精進していきたいと思います。この支援者としての動機を維持できているのも、本学会にご所属の皆様のおかげです。会員の皆様の温かいご支援のおかげで孤立を感じることが少ない私は、幸せな人間だと思います。会員の皆様からの今後の本学会へのご厚情ならびにご支援のご継続、何卒よろしくお願いいたします。